病院であごの美容整形手術を受け、死亡したり、意識を失う事故が相次いで発生している。先月上旬に20代の男女があごの整形手術と矯正手術を受けた後、死亡または意識不明の重体となった事故に続き、今月1日には女性(21)がソウル市江南区の美容整形外科で顔の形を細くするためあごの整形手術を受けた直後に死亡した。この女性は全身麻酔をかけた状態で手術を受け、麻酔から覚めた直後に手術部位の痛みを訴え、10分後には意識を失った。いずれも手術時の麻酔と関連する事故とみられている。

美容整形手術で麻酔事故が相次いでいるのは、個人開業医の麻酔設備に問題があるためとされる。こうした医院で手術を行う場合、フリーランスの麻酔科医師が「出張麻酔」を行うケースが日常茶飯事となっている。韓国では麻酔専門医が約3000人しかおらず、手術量に比べ絶対的に不足している。全国850カ所の美容整形外科のうち、全身麻酔手術を行っているのは100カ所余りで、麻酔科の専門医が常駐している医院は数えるほどしかない。

出張麻酔は手術前の患者の状況に対する分析が十分ではなく、手術後に患者が完全に回復するのを待たずに麻酔科医師が他の医院に移動するケースも多く、患者管理の危険性が指摘されている。医学の教科書には麻酔1万3000回に1回の割合で事故が発生すると書かれているが、美容整形手術ではこれより発生確率が高いと言われている。

米国など医療先進国では、全身麻酔手術を開業医が行うことを厳しく規制しているが、韓国では開業医が一人で麻酔と手術を行っても法的には問題がない。中央大竜山病院麻酔痛症医学科のパク・ジョンウォン教授は「全身麻酔手術は麻酔科医師が常駐しているところか、患者の状態を綿密にモニタリングし、術後管理を行えるシステムを備えた病院で行うのがよい」と指摘した。

整形外科の患者らは、多くの場合外見上は健康なため、医療陣が患者の身体状況や疾病を手術前にチェックしないことも、手術事故の原因の一つだ。整形手術を家族に隠れて受ける患者は、病歴を明らかにすることを嫌がるケースも多い。
(美容整形手術で相次ぐ麻酔死亡事故)


国内でも麻酔医の不足は、問題となっています。
日本の一般病院には、病理医、抗がん剤、放射線、麻酔科、緩和ケアなどの専門医が常勤しているところは少ないようです。麻酔医も同様で、日本麻酔学会の調査では一般病院725施設中、常勤麻酔科がいるのは35%と非常に少ないようです。国立がんセンターでさえ、麻酔医不足で手術を待たなければいけない、といった現状があるようです。

具体的な事案としては、石川県の救命救急センターに指定されている病院で2007年07月、麻酔医が不在のため、来院した5歳の女児の緊急手術ができず、約60キロ離れた金沢市内の病院へ搬送されていたことが分かっています。

以前では、外科医が手術の傍らに麻酔業務を行っているという状況も珍しくなかったと思われます。そのため、麻酔科医は、大病院に勤務するか、一般民間病院では合併症を持ったリスクの高い患者、心臓血管や小児などの特殊な麻酔を担当することが多かったようです。

ですが、麻酔方法も多様化し、医療の高度化に伴い、高い技術が求められる全身管理が必要になっています。そのため、今後は多くの病院で麻酔科医の需要が高まると思われます。また、患者さんの医療に対する意識も高まっており、専門医による麻酔を求める、といった社会的な要請もあると思われます。

とくに、全身麻酔には以下のような合併症が考えられます。
全身麻酔とは、吸入麻酔薬または静脈麻酔薬を用いて、意識消失、鎮痛、有害反射の抑制を得る麻酔法です。具体的には、以下のようなものがあります。
・吸入麻酔薬であるハロタン、イソフルラン、セボフルラン、亜酸化窒素を用いて行う吸入麻酔法
・静脈麻酔薬のプロポフォールとフェンタニルを用いる全静脈麻酔法
・ドロペリドールとフェンタニルを用いるニューロレプト麻酔法
・ケタミン筋注法
・チオペンタールまたはチアミラールによる注腸法

などがあります。吸入麻酔薬に静脈麻酔薬を併用したり、硬膜外麻酔を併用する場合もあります。

日本麻酔科学会による麻酔関連偶発症例調査では、死亡や植物状態などの重篤な合併症の原因は、換気・気道に関するもの、薬剤投与、輸液・輸血、監視不十分が主なものであるといわれています。やはり、ヒューマンエラーによる事故が多く、麻酔環境をしっかりと整えることが重要であると思われます。

麻酔における重大な合併症を引き起こす原因は、麻酔科医の注意力および技術の向上で予防可能な偶発症のほか、使用薬剤に対する患者の特異反応など予防不可能なものも存在します。

ただ、手術を含めたさまざまな要因が関与するため、原因を麻酔だけに限定できない場合が多いです。そのため、事故の解析や予防策をとりづらいといった難点もあります。

国内では、あまり危機感のない状況であると思われますが、「他国のこと」と、手を招いて見ているわけにもいかなそうです。

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