女性として生まれながら誤って男性として育てられたドイツ人女性(48)が7日、10代の時に不適当な性転換手術を行ったと外科医を訴えていた裁判で勝訴した。

被告の外科医は1976年、先天性副腎皮質過形成と呼ばれる病気を患っていた原告の子宮と卵巣を手術で切除した。原告の女性は、その手術の後に「60%は女性」などと言われ、自暴自棄になったという。

しかし、実際に医師団は原告の体内から男性器を見つけることはなく、原告の染色体は女性であることを示していた。

原告にはこのことは知らされていなかったが、女性はその後に看護師となり、事実を知ったという。
(ドイツ人女性、勘違いで生殖器切除した医師に裁判で勝利)


副腎とは、腎臓の上で内側に接するように存在している内分泌器官です。副腎皮質および副腎髄質に分けられます。

皮質からは副腎皮質ホルモン(コルチコイド)や男性ホルモンが分泌され、髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されます。皮質・髄質ともに、身体にストレスが加わった場合、体内の状態を正常に維持するのに重要な役割を演じています。

副腎皮質では、(糖質)コルチコイドがつくられているわけですが、そのためには、少なくとも数種類の酵素が必要となります。

上記の先天性副腎皮質過形成とは、この先天性のコルチゾール合成系酵素の障害(酵素の遺伝子に生まれつきの異常がある)があり、各種のホルモンが適切につくられない疾患です。結果、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌の過剰が起こり、結果、両側副腎の過形成をきたしている疾患です。

ただ、どの酵素が欠損しているかで症状なども変わってきます。副腎アンドロゲン合成系が保たれている場合(たとえば、21-水酸化酵素、11β-水酸化酵素、3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素の各欠損症)は、その過剰により、女児の男性化、男児の性早熟が生じ、特に副腎性器症候群と呼ばれます。

先天性副腎過形成症のなかで、最も頻度が高いもの(先天性副腎過形成症の患者さんは、新生児19,000人に対して1人の割合で存在)は、21水酸化酵素欠損症(約90%)であり、1989年1月より、国内でも新生児マススクリーニングの対象疾患となっています。血液濾紙中の17-OHP(17-ヒドロキシプロゲステロン)の高値を指標に、スクリーニングが行われています。17-OHPは、副腎皮質ホルモンが出来る際の、いわば「途中のホルモン」と考えられます。

上記の女性は、男性化が起こっていたため、21-ヒドロキシラーゼ欠損症や11β-ヒドロキシラーゼ欠損症などが考えられます。考えられる症状や治療法や、以下のようなものがあります。
21-ヒドロキシラーゼ欠損症では、アルドステロン(腎臓で働いて、ナトリウムの再吸収やカリウムの分泌を促進する)合成障害に基づいて、低Na血症、高K血症、ショックなどが認められる場合、いわゆる塩喪失型となります。これが強いと、体重増加不良、哺乳力低下、嘔吐、脱水症状などが問題となります。

この塩類喪失の程度が軽いと、副腎アンドロゲンの過剰の症状が目立ち、単純男性型(女児の男性化、あるいは男児の性早熟)といった症状が目立ちます(こちらはどちらのタイプでもみられます)。

こうした症状があるため、検査としては血中の血中17-OHP、ACTHの高値を確認した上で、血清電解質の異常(低ナトリウムと高カリウム血症)、腹部超音波やCT,MRIなどにより副腎過形成の確認などが必要になるわけです。

また、11β-ヒドロキシラーゼ欠損症では、コルチゾールおよびアルドステロンの合成が障害されているのは同様ですが、アルドステロンの前駆体であるデオキシコルチコステロン(DOC)というホルモンが増加し、高血圧を生じます。こちらも、副腎アンドロゲンは過剰となるため、女児の男性化あるいは男児の性早熟が起こります。

生命予後に関しては、不足している副腎皮質ホルモンを補うため、新生児期から十分量のヒドロコルチゾンとフルオロヒドロコルチゾン(外傷など外的なストレスを受けた時には増量)が投与されれば、良好です。女児の男性化した外性器(陰核肥大など)などは、2〜3歳頃までに外科的に処置します。

ただ、もちろんのことながら卵巣や子宮を除去する必要はありません。女性として生活し、将来の結婚生活にも問題なく、上記の手術はやはり行うべきでなかったし、十分な検査、説明があってしかるべきだったと考えられます。

自分らしさの中で、セクシャリティというのは大きな問題であり、患者さんの自己決定権が非常に重要(もちろん、他の手術でも自己決定権は重要ですが)であると考えさせられるニュースでした。

【関連記事】
性転換手術 中核病院である埼玉医大で中止

性同一性障害手術でミス 立命大院生が賠償請求へ