厚生労働省などは8日、札幌医大付属病院(札幌市)の高度救命救急センターで、平成18年から19年までに入院患者7人が死亡し、全員から多剤耐性緑膿菌が検出されたと明らかにした。同省は院内感染の疑いもあるとみて調査を始めた。
 
病院側によると、死亡した人数は7人より少なくなる可能性があり、確認を急いでいる。病院側は「感染と死亡の因果関係は不明だが、院内感染ではないだろう」としている。
(死亡7人から耐性緑膿菌 札幌医大で院内感染か)


緑膿菌は、その名の通り色素を産生(ピオシアニンとピオベルジン)する菌株が存在し、ピオシアニンは青緑色、ピオベルジンは蛍光黄緑色を呈します。傷口に感染(創傷感染)した際も、しばしば緑色の膿が見られます。

自然界に広く分布しており、他の菌が発育しにくい生活環境からも検出されます。普通寒天培地でもよく発育し、非常に環境への適応能力に富んだ細菌であると言えると思います。ヒトの皮膚からも検出されることがあります。

本来は非常に弱毒の菌であり、健常な人は問題となることは少ないです。ところが、新生児やご老人、免疫機能の低下した患者さん、抗生物質の長期使用者などが、菌交代症や病院内感染を起こしやすいため、そうした場合に問題となります。日和見感染を起こす、代表的な菌種です。

菌交代症とは、常在細菌が宿主の状態によって変化することをいいます。たとえば、鼻の中などでは、グラム陽性球菌や嫌気性菌が常在していますが、そこが好気性グラム陰性桿菌やカンジダ属などに取って代わられることを指します。

特に、抗菌薬投与中に耐性菌が感染の主体を占めるようになると、非常に治療に難渋します(抗生物質が効かなくなり、使用が限定される)。院内感染では、免疫力の低下した患者さんが多く、感染→抗生物質で治療→感染→…を繰り返し、細菌が耐性を獲得していき、問題になります。

緑膿菌が問題となる疾患としては、以下のようなものがあります。
たとえば、白血病や熱傷など全身的な感染しやすい状態にある患者さんの場合、敗血症、肺炎などの急性重症感染症となります。また、気管支拡張症や複雑性尿路感染症などの局所的な易感染状態の場合、慢性持続感染症を引き起こす可能性があります。

特に、慢性感染の場合、バイオフィルム(微生物が物体の表面に付着・増殖し、菌体と分泌物などにより形成された表面を覆う膜)が形成され,その中に存在する菌は抗菌薬に対して高度耐性となった上、免疫機能をもつ白血球などからも回避されやすくなってしまい、余計に治療が難しくなります。

治療としては、もちろん抗生物質が用いられることになります。ところが、カルバペネム、ニューキノロン、アミノグリコシド系抗菌薬すべてに、耐性を示す多剤耐性菌も登場しつつあるようです。そのため、抗菌薬による治療が困難な場合も少なくありません。

特に、急性感染症の場合、免疫力が低下した人に感染しやすいため、全身状態を含めた管理が必要になってきます。それ以上に、院内感染の場合、治療する前に予防することが重要になっています。

感染を広める多くの原因は、医療スタッフの手を介して広まっていくといわれています。そのため、患者さんを診たり治療したら、しっかりと手を洗ったりアルコールによる消毒をするなど、感染予防措置の必要性が言われています。

上記ニュースでは因果関係を含め、まだ分かっていないことが多いですが、やはり院内感染予防の重要性を再認識させられました。

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