「研究段階では、乳酸菌の一部が、花粉症などのアレルギー症状の緩和に有効である可能性が示されつつあります」。こう説明するのは東大名誉教授で、「免疫と腸内細菌」などの著書がある日本大の上野川修一教授だ。

アトピー性皮膚炎や花粉症などのアレルギー症状は、「Th1」と「Th2」という2種類の免疫細胞のバランスが崩れて起きると考えられている。乳酸菌のうち、いわゆる善玉菌と呼ばれるビフィズス菌やラクトバチルス菌には、このバランスを改善する働きがあるとする研究結果が2000年ごろから相次いで発表されている。

ただ、成人なら大腸に400種程度、重さにして1キロ以上の腸内細菌がおり、その組み合わせは、その人の免疫遺伝子や生活環境、食生活などによって異なる。また同じビフィズス菌でも、菌種によって働きは異なる。このため、どの菌をどれだけ摂取すればどの程度の効果が出るかについて、研究者や食品各社が研究開発を急いでいる段階だ。

雑誌やインターネットなどには「乳酸菌の○○がいいらしい」「胃酸で死んでしまうので乳酸菌を食べても無駄だ」などの情報があふれている。上野川教授は「腸内細菌の構成は個人差があり、その人にどの菌が合うかは一概に言えない。確かに菌の中には胃酸で死ぬものもあるが、死んだ菌でも腸に到達し、腸管の免疫系への刺激を通じてバランスを整える可能性もある。また生き残って腸に達し、腸管の免疫系を刺激する菌もある。科学的には、生菌も死菌もそれぞれ内容は異なるが、一定の働きをすると考えられる」と言う。

厚生労働省によると、花粉症患者は人口の約16%(05年推計)で増加傾向にある。2000万人規模の一大市場となっており、食品・飲料各社はすでに独自に研究開発した菌種を利用した飲料やタブレットを発売している。

「L―92」(カルピス)や「KW乳酸菌」(キリンヤクルトネクストステージ)など、各社がそれぞれ菌株名をつけているが、現状では薬でも特定保健用食品(特保)でもなく「花粉症に効く」などの表現は一切できない。

ドラッグストアの店頭でも、花粉症対策コーナーの一角にひっそりと置かれている一方で、ネット上ではさまざまな菌種名の商品が販売されており、消費者には分かりにくい状況となっている。
([花粉症]「乳酸菌」が効果ある? ネットなどで注目)


上記にもありますが、花粉症を含め、一般的に「アレルギー疾患」といわれるものは、いわば“Th2病”というような病態の側面をもっています。Th2が、Th1との兼ね合いでバランスを欠いて多くなり、結果としてIgEが高産生になってしまい、免疫異常が起こると考えられます。

そもそも、「Th1」「Th2」というのは、免疫系を担うT細胞、特にCD4というマーカーをもつT細胞の種類を表すものです。T細胞は、胸腺内で分化するため、Tは胸腺を表すthymusに由来しています。

CD4T細胞は、ヘルパーT細胞(だからThと表記します)とも呼ばれます。B細胞の抗体生産を補助したり、炎症反応において細胞性免疫を亢進させる一群のサイトカインを生産する、いわば免疫システムにおける司令塔ともいえる立場にあります。

CD4陽性のT細胞は、サイトカイン産生の面から、Th1とTh2とに大別されます。
Th1細胞はインターロイキン2(IL-2)やインターフェロンγ(IFN-γ)を生産して細胞性免疫を亢進させ、Th2細胞はIL-4,IL-5,IL-6などを生産してB細胞の抗体産生を補助し、主として液性免疫を司ります。

ただ、両方のサイトカインを産生する細胞も存在し、Th0と呼ばれます。現在、Th0からそれぞれTh1とTh2が分化すると考えられています。

このTh1/Th2のバランスと疾患の関連性は、以下のように考えられます。
気管支喘息を含め、アトピーが関与するアレルギー疾患においては、Th2へバランスが移ってしまっている状態で起こりやすいといわれています。特に、遺伝性素因も気管支喘息などの発症に関与すると考えられますが(アトピー体質、といった言葉がありますね)、他にも環境因子も重要であると考えられています。

たとえば、Th1を増加させるような因子があると、アトピーなどになりにくいと考えられます。そのTh1型反応を増強させアトピーを減少させる要因は、結核、麻疹、A型肝炎ウイルスの感染や、多くの兄弟との接触や生後6か月以内の保育施設への参加(保育園や幼稚園へ行っていると、よく風邪とかを引きやすくなりますね)などです。

逆に、Th2を増加させる要因としては、経口抗生物質の頻回の使用(腸内細菌叢を変化させる)、西洋化した食生活、アレルゲンへの感作などが指摘されています。おそらく、最近、アレルギー疾患をもつ子供たちが増えているということには、兄弟の減少や生活環境の変化が関係しているのではないでしょうか。

こうした免疫系のバランスを戻す働きがあるのではないか、と期待されているのが、ビフィズス菌やラクトバチルス菌である、と上記にあります。ただ、現在の所は本当に大きな成果を上げられてはいないようです。

現在の所は、花粉情報を活用し、できるだけ花粉からの回避をはかったり、ゴーグルやマスク、花粉の付きにくい服を着る、外から帰ってきたら家に入る前に服についた花粉を払う、といったことが重要であると考えられます。

治療としては、抗アレルギー薬を予想の2〜4週前から季節を通じて内服、点眼、点鼻などをするといった方法があります。効果不十分の場合は、ステロイド剤の局所投与を行うこともあります。つまり、現在の所は、対処療法するしかなさそうです。

あまりに過度な効果を謳うものは、疑って掛かった方が良さそう。「偽物ほど声高に語るもの。真実の声は、囁き声。耳を澄まさないと聞こえない」ということのようです。

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