厚生労働省は、「タミフル」に9割超の比重を置くインフルエンザ治療薬の備蓄体制見直しに入った。タミフル耐性を持つウイルスの発見報告が相次ぐ欧州はすでに、もう一つの治療薬である「リレンザ」の備蓄強化の指針を打ち出している。鳥インフルエンザウイルスの変異など、未知のウイルス出現リスクは高まっており、同省は専門家の意見も聴き、危機管理体制の再構築を図る。

インフルエンザの主な治療薬には、スイスのロシュが中外製薬を通じて販売するタミフルと、英グラクソ・スミスクライン(GSK)のリレンザの2薬がある。服用型のタミフルに対しリレンザは吸入型。タミフルに比べてリレンザには即効性があるが、各国は扱いやすいタミフルを主軸とした備蓄を行ってきた。
 
しかし今年、欧州では流行中の「Aソ連型」でタミフルが効かない耐性ウイルス検出の報告が続出。ノルウェーでは検出ウイルスの7割に耐性が確認されたという。
 
欧州医薬品審査庁(EMEA)は、特に子供へのタミフル投与の増加に伴って薬剤耐性が高まることがあると指摘。現時点では耐性ウイルスにリレンザが有効なため「両方を備蓄すべきだ」との声明を出した。GSKもリレンザ製造拠点をフランス1拠点から米国、オーストラリアに拡大、各国からの要請に備える。

日本は新型インフルエンザ対策で平成17年度以降タミフル2800万人分、リレンザ60万人分を備蓄。耐性対策の観点から19年度補正予算ではリレンザを135万人分にすることが認められたところ。厚生労働省結核感染症課は「欧州の高い耐性比率確認は驚き」としており、治療薬備蓄の在り方を再検討する。
(タミフル耐性インフル対策 リレンザ備蓄を強化)


タミフル、リレンザは、ともにノイラミニダーゼ阻害薬の一種です。ノイラミニダーゼ(インフルエンザウイルスの増殖過程において、感染細胞からのインフルエンザウイルスの脱殻に必要な酵素)を阻害することにより、インフルエンザウイルスが感染細胞表面から遊離することを阻害し、他の細胞への感染・増殖を抑制します。

効果としては、インフルエンザA型・B型ともに有効で、罹病期間を短縮できるといわれています。いずれも、発症後48時間以内に投与開始する必要があります。

インフルエンザ治療薬にはもう一種類、塩酸アマンタジン(一般名 シンメトレル)と呼ばれる薬があります。これは、A型に対してのみ有効であり、近年では耐性化も進んでいるといわれています。

また、タミフルに関しても、耐性インフルエンザの感染報告は、以下のように国内でもありました。
インフルエンザ治療薬タミフルに対する耐性を獲得したインフルエンザウイルスが、人から人に感染した可能性のあることを、河岡義裕・東大医科学研究所教授と菅谷憲夫・けいゆう病院小児科部長らのグループが初めて確認、2007年4月の米医師会雑誌に発表しています。

研究グループは、2004年〜2005年のシーズンに日本で流行したインフルエンザB型に感染した患者のうち、タミフルを飲んだ子ども74人、タミフルを飲んでいない348人(うち大人66人)からウイルスを取り出し、タミフル耐性獲得の有無を遺伝子で調べています。

結果、計422人のうち1.7%にあたる7人のウイルスから、タミフルが効きにくい遺伝子変異が見つかったそうです。うち6人は、タミフルを服用していませんでした。日常生活の中で家族や他人から感染したと推測されます。

インフルエンザウィルスは、一本鎖ネガティブRNAを遺伝子としてもち、A,B型は8分節(HA, NA, PA, PB1, PB2, M, NP, NS)、C型は7分節HE, PA, PB1, PB2, M, NP, NS)
からなっています。このRNAは容易に組み換えがなされ、たとえば、1つの細胞に2種類のインフルエンザウイルスが感染していた場合など、新たなウィルス形成が容易にできてしまうという特性を持つと考えられています。そのため、変異が生じやすく、薬剤耐性のウィルスも生じやすいと考えられます。

中でも、ウイルス粒子A,B型では、粒子表面に赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)が存在します。A型インフルエンザウイルスにはHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)の変異が特に多く、年によって流行するウイルスの型はかなり異なります。そのため、A型は世界的に大流行が起こる可能性が高いと言われています。

今後、リレンザにも耐性ウィルスが存在するようになるとは思われますが、現在の所は両方の備蓄を進め、備えるしかなさそうです。

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