身体を動かすのが嫌いで、50歳を過ぎた頃から少々肥満気味だった主婦S・Tさん(57)。ある朝、立ったまま靴下を履こうとしたところ、バランスが取れず、上手く履けないことに気付きました。
それから5年後、ますます貫禄がついたS・Tさんは、靴下はどっしり座って履くのが当たり前になったばかりか、階段を上る時には手すりにつかまらないと足元がおぼつかなくなっていました。
具体的には、以下のような症状が現れてきました。
こうした経過がみられ、数年単位の時間を経て、とうとう"その時"がやってきました。電話が鳴り、慌ててとろうと駆け寄ったところ、ほんの数cmの段差につまづいてしまいました。そのまま勢いよく倒れ込み、腰の辺りに強い痛みがあります。
その姿を発見した夫が救急車を呼び、病院に運ばれました。骨盤部のレントゲンを撮り、診断されたのは以下のような疾患でした。
それから5年後、ますます貫禄がついたS・Tさんは、靴下はどっしり座って履くのが当たり前になったばかりか、階段を上る時には手すりにつかまらないと足元がおぼつかなくなっていました。
具体的には、以下のような症状が現れてきました。
1)立ったまま靴下が履けない
立ったまま履こうとしても、よろけてしまって上手くできませんでした。そのため、それ以降は座ったまま履くようになっていました。
2)階段の手すりが必要
階段を上ろうとしても、膝を上げる動作が苦手になり、手すりに寄りかかってしまうようになりました。
3)膝の痛み
買い物にでかけるなど、少し歩いただけでも痛みが出るようになってきました。ですが、近所の人たちも「年齢のせいで膝が痛い」と言っているため、病院にも行かずに放置していました。
4)ちょっとしたことですぐによろける
立ち上がったときや、スリッパの上に足を乗っけて少し重心を崩しただけで、大きくよろけるようになってしまいました。
こうした経過がみられ、数年単位の時間を経て、とうとう"その時"がやってきました。電話が鳴り、慌ててとろうと駆け寄ったところ、ほんの数cmの段差につまづいてしまいました。そのまま勢いよく倒れ込み、腰の辺りに強い痛みがあります。
その姿を発見した夫が救急車を呼び、病院に運ばれました。骨盤部のレントゲンを撮り、診断されたのは以下のような疾患でした。
S・Tさんの診断結果は、大腿骨頚部内側骨折でした。
大腿の上部は、大きく分けて大腿骨頭・大腿骨頸部、転子部と呼ばれる部位で構成されています。大腿骨頭は、大腿骨大腿骨の上端にある球形のふくらみの部分を指し、股関節でジョイントになる部分です。大腿骨頸部は、この大腿骨頭と大転子の間の、細くなった部分を指します(ちょうど、頭と首のような関係性にあります)。
大腿骨頚部骨折は、内側骨折と外側骨折に分かれますが、内側骨折とは、関節包の内側という意味です。高齢者、特に女性の骨粗鬆症有病者に多く発生し、原因はS・Tさんのように、転倒によるものがほとんどです。
大腿骨頚部内側骨折の問題点としては、骨癒合しなくて治りにくいことや(骨膜がなく、骨折線も斜めであるため剪断力が加わり偽関節を生じやすい)、骨頭への血流が途絶えて大腿骨頭壊死を生じることがあることがあります。
そのため、高齢者に多く、なおかつ運動機能(歩行など)を低下させてしまうため、高齢者の寝たきりの原因となってしまうため、注意が必要です。一般的に、骨折する前に比べて、活動度は一段階低下してしまうようです。たとえば、普通に歩けたのが杖歩行になったり、杖歩行だったら車椅子を使用するようになるなどです。
治療の第一選択はよほど全身状態が悪くない限り手術療法が原則となります。内側骨折の非転位型には、骨接合術が第一選択となります。転位型では、人工骨頭置換術を選択することが多いです。
どうしてS・Tさんがこのような顛末に至ってしまったのかというと、「運動器不安定症」と呼ばれる状態にあったことが大きく関わっていると思われます。「運動器不安定症」とは、社会の高齢化に伴い、高齢者の転倒を予防するため2006年に提唱された概念です。
定義としては、「加齢によりバランス能力や歩く力が低下し、転倒する危険が高まった状態」を指します。著しい運動能力の低下に加え、膝や腰などの関節や骨に何らかの異常があると、この病と診断されます。
S・Tさんの場合は、50代後半から、立ったまま靴下が履けないなど、運動能力が低下していました。それを放っておいた結果、筋力はさらに衰え、今度は膝に痛みを覚えるようになってしまいました。これは「変形性膝関節症」によるものです。筋力が衰えることで関節がぐらつき、軟骨がすり減って痛みを覚えたわけです。
加齢とともに運動機能は衰えると言っても、運動をすることでその低下の度合いを減らすことができたかもしれません。運動を続けていれば、転倒するリスクは下げられたはず。さらに膝の痛みを年のせいと諦めず、病院で適切な治療を受けていれば、大事には至らずに済んだのかもしれません。それらを放置した結果、家の中で転倒し骨折してしまいました。
ただでさえ運動が嫌いで、リハビリも自主的に行わなくなりました(大腿骨頸部骨折で1年後の歩行能力が、受傷前とほぼ同じに獲得できるのは50%程度)。結果として以前よりも閉じこもりがちになり、結果としてS・Tさんは3年後に、寝たきりとなってしまいました。
現在、平均寿命が上昇しているなかで、自立した生活を送ることが出来る期間である「健康寿命」を伸ばしていくことが大切であるといわれています。普段から運動を心がけることが望まれます。
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大腿の上部は、大きく分けて大腿骨頭・大腿骨頸部、転子部と呼ばれる部位で構成されています。大腿骨頭は、大腿骨大腿骨の上端にある球形のふくらみの部分を指し、股関節でジョイントになる部分です。大腿骨頸部は、この大腿骨頭と大転子の間の、細くなった部分を指します(ちょうど、頭と首のような関係性にあります)。
大腿骨頚部骨折は、内側骨折と外側骨折に分かれますが、内側骨折とは、関節包の内側という意味です。高齢者、特に女性の骨粗鬆症有病者に多く発生し、原因はS・Tさんのように、転倒によるものがほとんどです。
大腿骨頚部内側骨折の問題点としては、骨癒合しなくて治りにくいことや(骨膜がなく、骨折線も斜めであるため剪断力が加わり偽関節を生じやすい)、骨頭への血流が途絶えて大腿骨頭壊死を生じることがあることがあります。
そのため、高齢者に多く、なおかつ運動機能(歩行など)を低下させてしまうため、高齢者の寝たきりの原因となってしまうため、注意が必要です。一般的に、骨折する前に比べて、活動度は一段階低下してしまうようです。たとえば、普通に歩けたのが杖歩行になったり、杖歩行だったら車椅子を使用するようになるなどです。
治療の第一選択はよほど全身状態が悪くない限り手術療法が原則となります。内側骨折の非転位型には、骨接合術が第一選択となります。転位型では、人工骨頭置換術を選択することが多いです。
どうしてS・Tさんがこのような顛末に至ってしまったのかというと、「運動器不安定症」と呼ばれる状態にあったことが大きく関わっていると思われます。「運動器不安定症」とは、社会の高齢化に伴い、高齢者の転倒を予防するため2006年に提唱された概念です。
定義としては、「加齢によりバランス能力や歩く力が低下し、転倒する危険が高まった状態」を指します。著しい運動能力の低下に加え、膝や腰などの関節や骨に何らかの異常があると、この病と診断されます。
S・Tさんの場合は、50代後半から、立ったまま靴下が履けないなど、運動能力が低下していました。それを放っておいた結果、筋力はさらに衰え、今度は膝に痛みを覚えるようになってしまいました。これは「変形性膝関節症」によるものです。筋力が衰えることで関節がぐらつき、軟骨がすり減って痛みを覚えたわけです。
加齢とともに運動機能は衰えると言っても、運動をすることでその低下の度合いを減らすことができたかもしれません。運動を続けていれば、転倒するリスクは下げられたはず。さらに膝の痛みを年のせいと諦めず、病院で適切な治療を受けていれば、大事には至らずに済んだのかもしれません。それらを放置した結果、家の中で転倒し骨折してしまいました。
ただでさえ運動が嫌いで、リハビリも自主的に行わなくなりました(大腿骨頸部骨折で1年後の歩行能力が、受傷前とほぼ同じに獲得できるのは50%程度)。結果として以前よりも閉じこもりがちになり、結果としてS・Tさんは3年後に、寝たきりとなってしまいました。
現在、平均寿命が上昇しているなかで、自立した生活を送ることが出来る期間である「健康寿命」を伸ばしていくことが大切であるといわれています。普段から運動を心がけることが望まれます。
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