うつ症状は今や5人に1人が経験するともいわれ、その急増が危惧されているが、「医者に薬をもらって飲んでいるけどよくならない」と“長引く軽症うつ病”を自称する人は特に注意した方がいい。とってもよく似た「気分変調症」に罹っているケースもあるからだ。

「疲れた感じ、気分がへこむ、やる気がしい、楽しいことがない、不眠といった症状の軽い抑うつ気分がダラダラと何年も続く。根本的には神経症なので抗うつ薬だけでは治らない」と話すのは、クリニック西川(東京・南大塚)の西川嘉伸院長。

厄介なのは、専門医でもうつ病との見分けに時間を要する点。副作用の少ないSSRI(うつ病治療の第1選択薬)の登場もあり、うつ治療を受けている人の4分の3は一般科で薬をもらい済ませているといわれる。だが、専門医の間では、うつ急増の中には気分変調症もかなり含まれているのではないか、という見方がされ始めているという。

「うつは周りに迷惑をかけているのではないかと自分を責める傾向が強いが、逆で自分の不調を他人のせいにしたり、他罰的。人からどう思われているか非常に気にするような神経質な人や自分をよく見せたい人、いわゆる自己チューな人がなりやすい」。

人格に根づいた疾患なので、治療は考え方や行動パターンなどを変革させていくカウンセリングが中心になる。本当のうつ病には“しった激励”は禁句だが、「踏ん切りがつくよう、お尻を叩いてやることも必要になる」と西川院長。どんな病気でも長引くようなら、やっぱり専門医に相談が一番のようだ。
(長引く“うつ”に注意 「気分変調症」の可能性も)


一般に、正常な気分からの偏りを気分変調といいます。たとえば、気分障害における抑うつ気分や爽快気分はその代表となります。

気分変調症は、DSM‐IV(米国精神医学会作成の精神疾患の診断・統計マニュアル)でうつ病性障害の一つである気分変調性障害として分類されました。診断として必要になる症状としては、
・抑うつ気分を中心とした軽度のうつ状態が最低2年間続き(小児、青年は1年)、この間2ヶ月以上の寛解を伴わない。
・なおかつ、この期間で大うつ病のエピソードを示すことがなく、症状的には軽症となります。

ICD‐10(WHOによる疾病、障害および死因の統計に用いる分類)でも持続性気分(感情)障害の中に気分変調症として分類されています。

こうしたDSM-IVやICD-10でいう気分変調症(気分変調性障害)は、従来の診断で抑うつ神経症あるいは神経症性うつ病と呼ばれていたものにほぼ相当します。抑うつ自体は重くなくとも、社会性や職業上の障害を来しやすいため、社会生活上に問題となります。

2年以上持続する慢性軽うつ状態である気分変調症の経過中に、大うつ病エピソードがみられるものを二重うつ病と呼びます。気分変調症のほとんどが、二重うつ病になるとされています。

治療法としては、以下のようなものがあります。
以前は、気分変調症は薬物療法の奏功が期待できないとされていました。ですが、最近はまず、積極的に抗うつ薬の投与を試みる方向にあり、薬物療法を基盤にして、精神療法を行っているようです。

抗うつ薬のうち、従来より用いられてきた三環系あるいは四環系抗うつ薬は、口渇・便秘・眠気などの副作用が比較的多いです。これは、抗コリン作用、抗α1作用なども併せ持っているため、こうした副作用が現れると考えられます。

さらに、三環系抗うつ薬の場合、大量服用時にQT延長や急激な徐脈などの致死的な不整脈をきたす可能性があります。四環系抗うつ薬では、抗コリン作用や心毒性が比較的弱いといわれています。

近年開発された、セロトニン系に選択的に作用する薬剤SSRIや、セロトニンとノルアドレナリンに選択的に作用する薬剤SNRI等は副作用は比較的少ないとされています。ですが、臨床的効果は三環系抗うつ薬より弱いとされています。また、不安・焦燥が強い場合などは抗不安薬を、不眠が強い場合は睡眠導入剤を併用することも多いです。

ただ、SSRIであるフルボキサミン、パロキセチンはセロトニン受容体を刺激するため、投与初期に不安、焦燥や不眠を引き起こしたり、性機能障害などを生じることがあります。

また、肝臓の薬物代謝酵素チトクロームP450の阻害による薬物相互作用をきたしやすく、セロトニン症候群や薬物中止による離脱症状の可能性もあります。さらに、パロキセチンが18歳未満の大うつ病性障害患者において自殺念慮、自殺企図のリスクを増加させるとの報告があり、使用を控えるべきであるといわれています。

さらに、抗うつ薬を用いる場合は、自己判断で服用を中止しないことも重要です。抗うつ薬の減量・中止時には、抑うつ症状の増悪や、再燃の危険性・離脱症状出現の可能性があります。ですので、事前に減量時の危険性を十分説明し、患者や家族に対して理解を求めることが必要です。

薬を止める時には、慎重に漸減中止(段々と薬の量を減らしていく)を行います。くれぐれも、一気に止めてしまう、ということではなく、医師と相談して中止することが勧められます。

気分変調症の場合、上記のように「考え方や行動パターンなどを変革させていくカウンセリング」「うつ病では行ってはならない、激励も必要となる」など、うつ病とは異なっています。長引く軽症のうつ病などでは、気分変調症を疑ってみる必要もあるようです。

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