乳がんは、血液やリンパ液にのって全身に転移するため、手術では、わきの下のリンパ節を切除することが多い。その際に、リンパ節の間を走る肋間上腕神経を切除したり、引っ張ったりして傷つき、痛みを引き起こす。これが、PMPSだ。手術中の神経への血行障害も関連するといわれる。
外科手術の直後はたいていの患者が、傷跡の炎症が原因で痛みを感じるが、鎮痛薬が効き、徐々に和らぐ。ところが、PMPSには、こうした薬は効かず、痛みが3か月以上続き、慢性化する。
がんを摘出した側の乳房やわきの下、上腕の内側に、ヒリヒリ、チリチリとした感覚を覚え、触ったり、下着や衣服がすれると痛みが増すので、ブラジャーもつけられない。人とぶつかると痛いので、満員電車や人込みを避けるようになる。
厚生労働省研究班が2004年に痛みの有無や程度、場所についてアンケート調査をしたところ、再発のない患者976人(手術後平均8・8年)のうち、21%が、PMPSと思われる慢性的な痛みを抱えていた。
乳房の全摘か、温存かによって発症率に差はない。ただ、手術中や術前にわきの下のリンパ節転移の有無を診断する「センチネルリンパ節生検」で切除範囲を最小限にすると、半減するとの報告がある。自然に痛みが治ることもあるが、茨城県の主婦のように手術後20年たっても続くことも珍しくないという。
治療は、痛みを専門にする麻酔科やペインクリニックが担当する。慈恵医大(東京・港区)ペインクリニックには全国からPMPSの患者が訪れる。治療では、神経の過敏状態を抑えることで痛みを感じにくくする効果のある抗うつ薬(三環系抗うつ薬など)や抗けいれん薬を就寝前に服用する。このタイプの抗うつ薬には、口の渇きや便秘などの副作用があるが、鎮痛には、うつ病患者に使われる数分の1の量の投与量で済む場合が多い。効果を見ながら、投与量を増減していく。
服薬期間は最短で3〜6か月、長ければ数年に及ぶ。手術から間もないほど、服薬期間も短くなる傾向がある。慈恵医大を訪れる患者には、痛みが強くて介護の仕事をやめてしまった人、寝たきり同様だった人もいる。担当医の小島圭子さんは、「適切な治療をすれば治すことができるのに、情報が行き届かずあきらめている人が少なくない」と指摘する。
厚生労働省研究班の調査でも、痛みを抱える人の66%が「あきらめている」、26%が「治療の情報が欲しい」と答えており、「治療を受けて満足」と答えたのはわずか5・6%と、治療法についての情報が伝わっていない実態が明らかになった。
手術後の慢性的な痛みは、PMPS以外にも考えられるので、問診や触診による鑑別が重要だ。腕がむくむリンパ浮腫や、筋肉のひきつれによる痛みもある。その場合は、マッサージなど理学療法が中心になる。また、新たに痛みが出てきたり、急に増したりした場合は再発や転移の可能性もあるので画像診断や血液検査で確認する必要がある。
(乳がん手術後の慢性痛)
疼痛(痛み)は、ケガをしたときなど組織の傷害によって生じる不快な感覚情動体験、あるいは心因のみによって生じる同様の体験を指します。痛みの原因から大きく分けて、中枢性疼痛、末梢性疼痛、心因性疼痛に分類されます。
中枢性疼痛とは、三叉神経二次ニューロン、脊髄視床路や視床のVPL核、VPM核などの中枢病変によって起こり、顔面や頭皮の痛みや焼けるような感覚があります。
末梢性疼痛とは、外部刺激や組織の病変などにより生じる、侵害受容性の痛みを指します(ケガをして生じるような痛みは、一般的にこちらに分類されます)。
心因性疼痛は、神経系に器質的病変がなく末梢からの刺激がないにもかかわらず、痛みを生じるものを指します。
疼痛は、主観的な症状であり、それを客観的に評価することは難しいのではないでしょうか。視覚アナログ尺度(VAS)やフェイススケール(faces scale)といった痛みの評価法はありますが、患者さんの訴える痛みを十分に理解するのは困難であると思われます。
上記のように、手術後に生じる痛みを術後疼痛といいます。術後疼痛は、神経損傷に伴う痛みが慢性化すると神経因性疼痛へ移行し、難治性となります。一般的には「先取り鎮痛」といって、局所麻酔薬と麻薬の持続硬膜外注入・非ステロイド性消炎鎮痛薬の組み合わせによって、予防することが重要とされます。
神経因性疼痛とは、以下のようなものを指します。
外科手術の直後はたいていの患者が、傷跡の炎症が原因で痛みを感じるが、鎮痛薬が効き、徐々に和らぐ。ところが、PMPSには、こうした薬は効かず、痛みが3か月以上続き、慢性化する。
がんを摘出した側の乳房やわきの下、上腕の内側に、ヒリヒリ、チリチリとした感覚を覚え、触ったり、下着や衣服がすれると痛みが増すので、ブラジャーもつけられない。人とぶつかると痛いので、満員電車や人込みを避けるようになる。
厚生労働省研究班が2004年に痛みの有無や程度、場所についてアンケート調査をしたところ、再発のない患者976人(手術後平均8・8年)のうち、21%が、PMPSと思われる慢性的な痛みを抱えていた。
乳房の全摘か、温存かによって発症率に差はない。ただ、手術中や術前にわきの下のリンパ節転移の有無を診断する「センチネルリンパ節生検」で切除範囲を最小限にすると、半減するとの報告がある。自然に痛みが治ることもあるが、茨城県の主婦のように手術後20年たっても続くことも珍しくないという。
治療は、痛みを専門にする麻酔科やペインクリニックが担当する。慈恵医大(東京・港区)ペインクリニックには全国からPMPSの患者が訪れる。治療では、神経の過敏状態を抑えることで痛みを感じにくくする効果のある抗うつ薬(三環系抗うつ薬など)や抗けいれん薬を就寝前に服用する。このタイプの抗うつ薬には、口の渇きや便秘などの副作用があるが、鎮痛には、うつ病患者に使われる数分の1の量の投与量で済む場合が多い。効果を見ながら、投与量を増減していく。
服薬期間は最短で3〜6か月、長ければ数年に及ぶ。手術から間もないほど、服薬期間も短くなる傾向がある。慈恵医大を訪れる患者には、痛みが強くて介護の仕事をやめてしまった人、寝たきり同様だった人もいる。担当医の小島圭子さんは、「適切な治療をすれば治すことができるのに、情報が行き届かずあきらめている人が少なくない」と指摘する。
厚生労働省研究班の調査でも、痛みを抱える人の66%が「あきらめている」、26%が「治療の情報が欲しい」と答えており、「治療を受けて満足」と答えたのはわずか5・6%と、治療法についての情報が伝わっていない実態が明らかになった。
手術後の慢性的な痛みは、PMPS以外にも考えられるので、問診や触診による鑑別が重要だ。腕がむくむリンパ浮腫や、筋肉のひきつれによる痛みもある。その場合は、マッサージなど理学療法が中心になる。また、新たに痛みが出てきたり、急に増したりした場合は再発や転移の可能性もあるので画像診断や血液検査で確認する必要がある。
(乳がん手術後の慢性痛)
疼痛(痛み)は、ケガをしたときなど組織の傷害によって生じる不快な感覚情動体験、あるいは心因のみによって生じる同様の体験を指します。痛みの原因から大きく分けて、中枢性疼痛、末梢性疼痛、心因性疼痛に分類されます。
中枢性疼痛とは、三叉神経二次ニューロン、脊髄視床路や視床のVPL核、VPM核などの中枢病変によって起こり、顔面や頭皮の痛みや焼けるような感覚があります。
末梢性疼痛とは、外部刺激や組織の病変などにより生じる、侵害受容性の痛みを指します(ケガをして生じるような痛みは、一般的にこちらに分類されます)。
心因性疼痛は、神経系に器質的病変がなく末梢からの刺激がないにもかかわらず、痛みを生じるものを指します。
疼痛は、主観的な症状であり、それを客観的に評価することは難しいのではないでしょうか。視覚アナログ尺度(VAS)やフェイススケール(faces scale)といった痛みの評価法はありますが、患者さんの訴える痛みを十分に理解するのは困難であると思われます。
上記のように、手術後に生じる痛みを術後疼痛といいます。術後疼痛は、神経損傷に伴う痛みが慢性化すると神経因性疼痛へ移行し、難治性となります。一般的には「先取り鎮痛」といって、局所麻酔薬と麻薬の持続硬膜外注入・非ステロイド性消炎鎮痛薬の組み合わせによって、予防することが重要とされます。
神経因性疼痛とは、以下のようなものを指します。
神経因性疼痛とは、末梢神経や中枢神経の損傷や障害によってもたらされる痛みを指します。損傷された神経の支配領域の感覚鈍麻やシビレ感がみられますが、一方で、その部位が痛んだりアロジニア(触ったり、衣類がこすれるだけでも痛い状態)が出現したりします。
神経因性疼痛では、灼熱痛や刺すような痛み、電撃様痛などの性質の痛みが、神経の支配領域に一致して表在性に放散します。代表的な原因としては、帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経症、悪性腫瘍の神経浸潤、手術による侵襲などが挙げられます。
モルヒネなどのオピオイドに反応しにくい、難治性の疼痛です。治療としては、上記のように抗うつ薬を用いたり、抗痙攣薬や抗不整脈薬などの鎮痛補助薬を適切に使用することが重要となります。ただ、難治性・持続性であるので、これらの薬剤も長期投与を余儀なくされることも多いです。
軽度から中等度の痛みには薬物療法、高度のものは神経ブロックも適応となります。もし悩んでらっしゃる患者さんがいましたら、ペインクリニックなどを訪れてはいかがでしょうか。
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うつ病治療:抗うつ薬の服用を、勝手に止めるのは危険です
神経因性疼痛では、灼熱痛や刺すような痛み、電撃様痛などの性質の痛みが、神経の支配領域に一致して表在性に放散します。代表的な原因としては、帯状疱疹後神経痛や糖尿病性神経症、悪性腫瘍の神経浸潤、手術による侵襲などが挙げられます。
モルヒネなどのオピオイドに反応しにくい、難治性の疼痛です。治療としては、上記のように抗うつ薬を用いたり、抗痙攣薬や抗不整脈薬などの鎮痛補助薬を適切に使用することが重要となります。ただ、難治性・持続性であるので、これらの薬剤も長期投与を余儀なくされることも多いです。
軽度から中等度の痛みには薬物療法、高度のものは神経ブロックも適応となります。もし悩んでらっしゃる患者さんがいましたら、ペインクリニックなどを訪れてはいかがでしょうか。
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