J1川崎の元日本代表DF箕輪義信(31)がグロインペイン症候群(股関節周辺の痛み)で長期離脱することになった。本人はこの日、精密検査を受け、診断は1日にも分かるが、痛みが取れるまでリハビリをすると決断。9日のJ開幕戦(東京V戦・等々力)の出場は絶望で、復帰に1年を要する可能性もある。

苦渋の決断だった。「治るまで1か月、半年、1年かもしれません。ずっと悩んでいました。でも、モヤモヤした気持ちで続けるより、しっかり治そうと思います。無念です。できるだけ早く復帰できるようベストを尽くします」昨年12月、股(こ)関節の右側に痛みを感じたが、今年に入っても痛みは取れず、この日も右足の可動領域を広げるストレッチを行った。
(川崎・箕輪、グロインペイン症候群で長期離脱へ)


グロインペイン症候群(groin pain syndrome:鼠径部痛症候群)とは、股関節周囲において確定診断が困難な、慢性化した痛みを指します。

原因としては、恥骨結合炎、大腿内転筋付着部炎、大腿直筋炎、腹直筋付着部炎、腸腰筋炎、鼠径ヘルニア(スポーツヘルニア)などがあると考えられていますが、どれが正確な原因となっているのかは同定が難しいため、グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)と一纏めの概念として捉えられています。

以前は、潜在する鼠径ヘルニアが原因によって起こると考えられており、ヘルニア修復手術を行ってきていました。現在は、鼠径部周辺部の拘縮と痛みの悪循環(鼠径管の後壁で横筋筋膜の脆弱化した部分が存在し、さらにそこに腹圧がかかることで、鼠径管やその周囲の組織を圧迫する)により生じる症候群であると考えられているようです。恥骨結合炎などとも異なり、実際は内転筋近位部や鼠径管などが痛んでいることがほとんどだそうです。
 
何らかの原因により、体幹や股関節周囲の筋力低下・筋緊張バランスが崩れるために生じ、サッカーは、走りながら体を捻りボールを蹴る、という動作が多いため、特に腹圧がかかり、鼠径部を痛めやすいと考えられます(結果、脆弱性に関連している)。

症状としては、脚の付け根から下腹部周辺にかけての痛みや、鼠径部周辺やそこに近い下肢の痛みがみられます。一般的な鼠径ヘルニアとは異なり、鼠径部やその周囲の組織を圧迫することによって痛みが生じることが特徴的なようです。

診断に必要な検査や治療としては、以下のようなものがあります。
まず、スポーツを頻繁に行っている人で(特にサッカー)、鼠径部の疼痛を訴えてきた、というような場合に疑います。診察をするときは、徒手検査にて、股関節周辺の可動域制限や、拘縮している筋腱、筋力低下の有無を確認します。超音波検査により、鼠径管の後壁いわゆる横筋筋膜の脆弱化が見られることもあります。

治療としては、一般的に手術を行わなくても、保存療法で十分に回復することが明らかとなっています。痛みの出現する動作の禁止をした上で、しばらくは安静にします。その上で、リハビリを行います。

リハビリは、股関節可動域の確保や、筋力の回復などを目指します。股関節周囲筋群の拘縮に対しては、強刺激マッサージが行われます。特に、内転筋と腰背部、ハムストリングの拘縮除去などに対して行われます。たとえば、内転筋付着部付近への強刺激の母指圧迫を行います。患者さんが動かないよう片側の下肢を固定し、マッサージの際には、痛みを起こしやすい筋肉の起始部や停止部に対し行います。

また、腹筋訓練や股関節外転・伸展筋力訓練を行います。腹筋訓練は、一般的に行われているものではなく、膝や股関節を屈曲させ、上体を少し起こした位置で静止し、腹筋を鍛えます。こうしたリハビリは、予防効果があるとも考えられており、重要です。

いわばサッカー選手の「職業病」ともいえる疾患であり、しっかりと安静の上、リハビリなどを行っていただいて、一日も早く復帰できることを願っております。

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