10年前に離婚、女手一つで二人の子供を育てあげてきたY・Y(48)さん。朝は忙しく子供を送り出すのが精一杯で、自分は朝食抜きという毎日。

そんな彼女の悩みは、慢性の便秘。毎朝トイレに入っても、全くお通じのないことがほとんどでした。そんなある日、5日ぶりに巡ってきたお通じのチャンスを生かし、たっぷり粘った結果、ようやく排便に成功したY・Yさん。

しかし、いつもに比べて便を出し切れていないような感覚がありました。その後、すっきりとやり終えた感覚を感じなくなってしまった彼女に、さらなる異変が続きました。具体的には、以下のような症状が現れてきました。
1)残便感
便秘であることはいつも通りでしたが、その日は排便した後、不快な残便感がありました。出し足りないような感覚であり、再び試みてみましたが出ませんでした。
2)肛門の近くに違和感
残便感を感じるようになってから、まるでピンポン球が肛門付近にあるような違和感を感じるようになりました。
3)頻繁に便意に襲われる
上記の症状が現れてくるようになりましたが、2年ほど放置して病院に行くこともありませんでした。次第に頻繁にトイレに駆け込むことが多くなり、その間隔は短くなっていき、20〜30分に一度は行きたくなりました。働くことや、外出することも難しいような状態になってしまいました。

こうした症状に耐えきれなくなり、病院で診察を受けることになりました。検査の結果、彼女に告げられたのは以下のような病名でした。
Y・Yさんが診断されたのは、「直腸瘤」でした。
直腸瘤とは、女性において直腸腟中隔の脆弱化により、直腸前壁が腟腔内に突出することを指します。簡単に言えば、直腸が膨らんで膣の方向にはみ出すようになった結果、排便が困難になってしまう疾患です。

便秘で、「いきんでも便が出にくい」という人の約4分の1が、直腸瘤であると言われています。患者の殆どは40代後半〜50代の経産婦です。その理由としては、加齢と出産により、腸と膣の間の壁(直腸腟中隔)が弱くなって生じるから、と考えられます。

注意をすべきなのは、便秘症の人です。便意は、我慢することでその意識をやがて消失してしまいます。そのため、Y・Yさんのように我慢したりしてしまったりすると、便意を催す感覚も次第に鈍くなってしまい、慢性便秘の原因となります。

また、朝食は「大蠕動」と呼ばれる最も大きな運動を促す最適な刺激剤となり得ますが、Y・Yさんは朝食を抜いてしまっていました。このことも便秘の一因となってしまっていたと考えられます。

2人の子を出産し、加齢によって弱まっていた腸と膣の間の壁に、癖になった「いきみ」による圧力が加わってしまい、ついに腸壁が膣へと広がり始め、そこに便が少しずつ留まるようになってしまったと考えられます。ひたすらいきんでしまった結果、腸壁がさらに広がり、ついには膣側にポッコリ膨らんでしまいました。

この直腸瘤の存在が、「肛門の近くの違和感」であり、ピンポン玉があるような感覚があったわけです。結果、便の塊がいつも肛門付近に残存し、いつまで経っても便意が解消されないという状態になりました。

診断としては、直腸指診と排便造影の側面像(番組中では、側面像によって綺麗に直腸瘤の存在が示されていました)によって行われます。

治療としては、まず高繊維食の摂取や整腸薬、緩下薬の投与という保存的治療が行われます。彼女の場合も、緩下薬と生活改善で治療していたようです。この治療に反応しない場合は、外科的治療法が試みられます。

経産婦、そして慢性的な便秘に悩まされている方は、ご注意下さい。

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