食べ歩きが趣味の主婦、S・Tさん(56)の自慢は、快食快便。これまで便秘とは無縁の生活を送ってきました。
そんなある日、朝のお通じを終えても、いまいちすっきりしない感じを覚えたS・Tさん。普段と比べ、心なしか、その量が少ないように思えました。
その日、昼過ぎと夕方にも便意に襲われ、1日で3回もトイレに入ってしまったS・Tさん。以来、お通じが日に日に不規則になり、1回で出る便の量もさらに少なくなったばかりか、気になる異変も続きました。具体的には、以下のような症状が現れてきました。
このような症状が現れた結果、救急外来に駆け込むことになりました。そこで内視鏡検査などが行われた結果、S・Tさんに以下のような診断が告げられました。
そんなある日、朝のお通じを終えても、いまいちすっきりしない感じを覚えたS・Tさん。普段と比べ、心なしか、その量が少ないように思えました。
その日、昼過ぎと夕方にも便意に襲われ、1日で3回もトイレに入ってしまったS・Tさん。以来、お通じが日に日に不規則になり、1回で出る便の量もさらに少なくなったばかりか、気になる異変も続きました。具体的には、以下のような症状が現れてきました。
1)便の量が少なくなる
いつもと比べて量が少なく、あまりすっきりとした感覚がありませんでした。ただ、便に血が混じるなどの所見がなかったため、病院になどは行きませんでした。
2)お通じの回数が増える
1日に3回、しかも少量ずつしか出てきませんでした。便秘症になったのかと思い、市販の便秘薬を飲んだところ、改善したかのように思いました。しかしながら、その便秘薬も効かなくなっていきました。そんな中、1週間以上排便がないため、再び便秘薬を飲みました。すると、便が出てこず、ひどい腹痛が現れました。
3)腹部が大きく膨らむ
上記の結果、腹部が異常に膨らみ、動くことも難しいような状態になってしまいました。
このような症状が現れた結果、救急外来に駆け込むことになりました。そこで内視鏡検査などが行われた結果、S・Tさんに以下のような診断が告げられました。
S・Tさんに告げられた診断名は、S状結腸癌でした。
大腸は、盲腸に始まり、上方(頭部の方向)に向かう部分が上行結腸、次いで横たわっている部位を横行結腸、下方(足の方)に向かう部分が下行結腸、S字状に曲がっている部分がS状結腸、約15cmの真っすぐな部分が直腸となっています。この直腸の上に位置しているS状結腸の部分に、癌が発生していたわけです。
大腸癌の中では、直腸癌が大腸癌全体の約40%と最も多く、次いでS状結腸癌に頻度が高くなっています。男性に多いといわれ、40歳以上に多く、50〜60歳台に最も高率であるとのことです。
食生活と深い関連があると指摘されており、大腸癌の発生率は西欧食の特徴である高脂肪・高蛋白、かつ低線維成分の食物と正の相関関係にあると考えられています。
その理由として、高脂肪・高蛋白食は、消化管を通過するうちに胆汁酸や腸内細菌などによって、発癌性をもった物質に転換されると言われ、一方、高繊維食は糞便量を増やし、その大腸内通過を速めるために発癌率が低いと考えられています。
S状結腸癌は、初期の段階では痛みなどの分かりやすい症状がなかなかないため、発見が遅れてしまうことが多いといわれています。見逃すべきでないサインとしては、便通異常があります。
通常、便は大腸の蠕動運動によって、S状結腸を通って直腸へと送り出されて行きます。ところが、S・Tがお通じの異変を感じたあの時、S状結腸にはすでにガンが発生し、腸管が4割ほど塞がれ、詰まったように引っかかってしまったと考えられます。
結果、便は少しずつしか通れなくなり、1回に出る量が減った上、トイレに行く回数が自然と増えてしまったと考えられます。単なる便秘と思い、放置してしまったため、癌はS状結腸の9割を塞いでしまいました。そこで便秘薬を使用したため、便は腸の無理な蠕動運動によって行き場を失い、腹部に激痛が起こり、たまった便でお腹が膨らんでしまいました。
また、S・Tさんは便に血が付着してなかったので、安心して病院にいきませんでした。これはS状結腸ガンの落し穴で、直腸癌とは異なり、癌からの出血があっても通過している間に血が便に混じりこみ、見た目では出血が分かりにくいことも多いです(ただ、粘血便がみられることもあります。検査では、免疫学的潜血反応となります)。
こうした症状の他、疝痛様腹痛(シクシクする痛み)、急性腸閉塞や穿孔(穴が開いてしまう)を起こす可能性があります。
検査としては、内視鏡検査が行われ、生検により組織的診断可能であり、確定診断に有用です。大腸癌では病変が多発することも多く、併存する病変の発見に有用です。他にも、注腸X線検査(二重造影による全大腸の造影が必須)などが行われます。
腫瘍マーカーではCEAが上昇してきます。CEAは、大腸癌全体の陽性率は40〜60%ですが、進行するにつれ高くなり、肝転移,肺転移の指標ともなります。
腹部超音波検査は、肝転移やリンパ節転移の有無に有用であり、CT検査では肝転移やリンパ節転移の診断、隣接臓器への浸潤、直腸癌の再発、骨盤内進展の程度を知るのにも有用です。
治療としては、粘膜内に限局している場合には、内視鏡的ポリペクトミーが行われることがあります。ただし、粘膜下層に浸潤している疑いがあっても軽度であると判断した病変で、2cm未満の大きさであれば、内視鏡的摘除を行うこともあります。根治手術は、原病巣の切除とリンパ節の廓清(浸潤癌は基本的にリンパ節郭清を伴う外科的切除の適応)が行われます。
S・Tさんのガンは転移も見つからず、すぐに摘出手術が施されました。現在は3ヶ月に1度、定期健診を受け、再発の防止に努めています。同様な症状がみられる方は、消化器内科などを受診されてはいかがでしょうか。
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大腸は、盲腸に始まり、上方(頭部の方向)に向かう部分が上行結腸、次いで横たわっている部位を横行結腸、下方(足の方)に向かう部分が下行結腸、S字状に曲がっている部分がS状結腸、約15cmの真っすぐな部分が直腸となっています。この直腸の上に位置しているS状結腸の部分に、癌が発生していたわけです。
大腸癌の中では、直腸癌が大腸癌全体の約40%と最も多く、次いでS状結腸癌に頻度が高くなっています。男性に多いといわれ、40歳以上に多く、50〜60歳台に最も高率であるとのことです。
食生活と深い関連があると指摘されており、大腸癌の発生率は西欧食の特徴である高脂肪・高蛋白、かつ低線維成分の食物と正の相関関係にあると考えられています。
その理由として、高脂肪・高蛋白食は、消化管を通過するうちに胆汁酸や腸内細菌などによって、発癌性をもった物質に転換されると言われ、一方、高繊維食は糞便量を増やし、その大腸内通過を速めるために発癌率が低いと考えられています。
S状結腸癌は、初期の段階では痛みなどの分かりやすい症状がなかなかないため、発見が遅れてしまうことが多いといわれています。見逃すべきでないサインとしては、便通異常があります。
通常、便は大腸の蠕動運動によって、S状結腸を通って直腸へと送り出されて行きます。ところが、S・Tがお通じの異変を感じたあの時、S状結腸にはすでにガンが発生し、腸管が4割ほど塞がれ、詰まったように引っかかってしまったと考えられます。
結果、便は少しずつしか通れなくなり、1回に出る量が減った上、トイレに行く回数が自然と増えてしまったと考えられます。単なる便秘と思い、放置してしまったため、癌はS状結腸の9割を塞いでしまいました。そこで便秘薬を使用したため、便は腸の無理な蠕動運動によって行き場を失い、腹部に激痛が起こり、たまった便でお腹が膨らんでしまいました。
また、S・Tさんは便に血が付着してなかったので、安心して病院にいきませんでした。これはS状結腸ガンの落し穴で、直腸癌とは異なり、癌からの出血があっても通過している間に血が便に混じりこみ、見た目では出血が分かりにくいことも多いです(ただ、粘血便がみられることもあります。検査では、免疫学的潜血反応となります)。
こうした症状の他、疝痛様腹痛(シクシクする痛み)、急性腸閉塞や穿孔(穴が開いてしまう)を起こす可能性があります。
検査としては、内視鏡検査が行われ、生検により組織的診断可能であり、確定診断に有用です。大腸癌では病変が多発することも多く、併存する病変の発見に有用です。他にも、注腸X線検査(二重造影による全大腸の造影が必須)などが行われます。
腫瘍マーカーではCEAが上昇してきます。CEAは、大腸癌全体の陽性率は40〜60%ですが、進行するにつれ高くなり、肝転移,肺転移の指標ともなります。
腹部超音波検査は、肝転移やリンパ節転移の有無に有用であり、CT検査では肝転移やリンパ節転移の診断、隣接臓器への浸潤、直腸癌の再発、骨盤内進展の程度を知るのにも有用です。
治療としては、粘膜内に限局している場合には、内視鏡的ポリペクトミーが行われることがあります。ただし、粘膜下層に浸潤している疑いがあっても軽度であると判断した病変で、2cm未満の大きさであれば、内視鏡的摘除を行うこともあります。根治手術は、原病巣の切除とリンパ節の廓清(浸潤癌は基本的にリンパ節郭清を伴う外科的切除の適応)が行われます。
S・Tさんのガンは転移も見つからず、すぐに摘出手術が施されました。現在は3ヶ月に1度、定期健診を受け、再発の防止に努めています。同様な症状がみられる方は、消化器内科などを受診されてはいかがでしょうか。
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