読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
脳外科の検査で、3.5mmの脳動脈瘤が見つかりました。「小さいので様子をみて半年後、再検査しましょう」と言われたのですが、すぐ手術しなくてよいでしょうか。高血圧で薬を飲んでいます。(茨城・76歳)

この質問に関して、武蔵野赤十字病院脳神経外科部長である戸根修先生は、以下のようにお答えなさってます。
脳動脈瘤は、脳血管の一部が瘤状にふくらんだものです。破れていない場合、「未破裂脳動脈瘤」と呼ばれます。後で破裂してくも膜下出血を起こすと、約半数で、重い後遺症が残ったり、死亡したりします。

では、未破裂脳動脈瘤が見つかったら、早く手術すべきでしょうか。

治療法には、頭蓋骨を切開し、瘤の根元をクリップで挟んで出血を防ぐ「開頭手術」と、足の付け根の血管からカテーテル(細い管)を入れ、瘤に金属製コイルを詰める「血管内治療」があります。ただ、いずれも数%で、まひやしびれなどの合併症が起きる危険があります。

このため、破裂しやすいか、治療が難しい位置かを考えて、すぐ治療すべきか判断することになります。

脳動脈瘤は大きいほど破れやすいとされています。私は、瘤が10mm以上では治療を、5mm以下では経過観察をお勧めします。5〜10mmの場合、瘤の形や部位、年齢などから検討します。

脳動脈瘤の破裂が原因となり、大部分のくも膜下出血が起こります。くも膜下出血をきたすと、その半数近くは死亡してしまうと言われているため、未破裂脳動脈瘤の治療は、くも膜下出血を予防するという観点で非常に重要となっています。

未破裂脳動脈瘤は成人の約5%に存在していると考えられており、脳ドックや診断機器の普及により、その無症候性の未破裂脳動脈瘤の発見される頻度が増加傾向にあります。

以前は、サイズによらず予防手術が行われていたようですが、未破裂頭蓋内動脈瘤国際研究(ISUIA)による発表で変わりつつあります。

その内容としては、5年間の破裂率が内頸動脈・前交通動脈・中大脳動脈など前方循環に発生するもので、直径7mm未満で0%、7〜12mmで2.6%、13〜24mmで14.5%となっています。後交通動脈・椎骨脳底動脈系に発生するものでは2.5%、14.5%、18.4%と発表されました。つまり、サイズの小さいものでは破裂率はきわめて低い、ということです。

一方で、治療合併症は死亡1%以下、後遺症5%であるということもあり、「サイズが小さいものは、破裂する心配は少ない。それより、手術による合併症のリスクの方が高い」ということが考えられます。よって、サイズが小さいものは手術を行わないところが多いのではないでしょうか。

具体的には、日本脳ドック学会のガイドラインで以下のように定められています。
「70歳以下で5mm以上、治療に支障を生じる合併症がないこと」が治療の適応となり、10mm以上では積極的に治療が勧められます。3〜4mm未満または70歳を越える場合は、平均余命、大きさ、形態、部位、治療リスクなどを考慮し個別に判断します。

こうしたことをご説明しても、患者さんは上記の方のように、「脳動脈瘤が発見された…」と、多くは精神的に不安定になってしまうでしょう。ですが、すぐに破裂する可能性は一般に低いため、治療を焦って受けることなく、冷静に考えるようにご説明する必要があります。

こうしたことに関連し、戸根先生は以下のようにお答えなさっています。
ご質問の3.5mmの動脈瘤は、最初は半年以内に、その後は1年ごとに検査をします。瘤が少しでも大きくなった場合は治療が必要です。経過観察中は血圧を正常に保つことが大事ですので、血圧の薬は欠かさない方がいいでしょう。

未破裂脳動脈瘤の治療は、医師によって判断が異なるのが実情です。時間的猶予がありますので、経過観察するか、治療するにしても、開頭手術と血管内治療のどちらが適切か、複数の医師に意見を聞いてみた方がよいと思います。

高血圧で治療中ということもあり、慎重に経過観察する必要があるようです。また、不安に思ってらっしゃるようでしたら、セカンドオピニオンを求めることも重要である、とご指摘なさっています。

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