「めまい」は日常生活でしばしば見られる、ありふれた症状だが、脳卒中が潜んでいる可能性もあるので注意が必要だ。
大阪府の源間勇さん(69)は昨年4月下旬の夕方、この日は休日だったので自宅の居間で、のんびりとテレビを見ていた。
急に、天井が回るようなめまいがした。貧血の持病があり、年に3、4回、血圧が急激に下がって冷や汗が出て、ふらつくことがあった。貧血は数分で回復することが多いのに、この時は治まらなかった。
気持ちが悪くなって吐いた。妻の加代子さん(65)は、めまいが主症状のメニエール病を持っているので、夫も「同じ病気か」と思ったが、あまりにも体調が悪そうなので救急車を呼んだ。
勇さんは救急車の中で意識を失った。府内の病院に運ばれ、CT(コンピューター断層撮影)検査などの結果、脳出血と分かった。
国立循環器病センター(大阪府吹田市)脳神経外科医長の高橋淳さんによると、脳の血管が破れる脳出血は脳卒中の約2割を占める。通常、片側の手足のまひやろれつが回らないなど脳梗塞と同様の様々な症状が表れる。
勇さんは、体のバランスを保つなど運動機能に関係する「小脳」で出血していたが、このような例も少なからずある。その特徴的な症状が、「回転するようなめまいと嘔吐」だ。
メニエール病では、耳の奥にあり、平衡感覚をつかさどる内耳がうまく働かなくなってめまいが起きる。耳鳴りや難聴を伴うことがあり、症状は1〜2時間で消えることが多い。
一方、小脳出血なら耳鳴りなどの症状は通常なく、めまいはずっと続く。小脳に隣接し、呼吸や意識に関係する「脳幹」が圧迫されて生命にかかわることがあるので、緊急治療が必要だ。勇さんは、高度な治療ができる国立循環器病センターに転送され、緊急手術を受けた。後頭部の頭蓋骨を開き、小脳から血液の塊を摘出し、脳幹への圧迫を取り除いた。
3時間に及ぶ手術で、命は助かった。発病から約2時間20分という早さで手術を開始できたことが成功の要因で、高橋さんは「経験したことのないような回転性めまいと嘔吐が続くようなら、救急車を呼んでほしい」と話す。
勇さんは昨年9月下旬、約5ヶ月ぶりに帰宅した。4点で支えるつえで自宅内を数メートル歩けるようになった。「苦労をかけている妻を連れて温泉旅行に行けるようになりたい」。リハビリに力が入る。
(小脳出血で長いめまい)
脳内出血(脳出血)とは、何らかの原因によって脳の動脈が破れて出血し、脳実質内に出血(血腫)を形成したものです。脳血管障害(脳卒中)の3大疾患である、脳梗塞、くも膜下出血とともに、脳内出血はその内の1つです。
年間10万人当たり50名前後との報告が多く、脳卒中全体の25〜30%前後を占める以前は日本での発症率が、欧米諸国に比べて高い傾向にありました。ですが、生活環境の変化や高血圧管理の普及とともに、減少しつつあります。年齢別発症率では、60〜70歳代にピークがあり、男性に多いという特徴があります。
頻度としては、脳出血の約4〜6割は高血圧性脳出血(高血圧が原因で、小動脈に血管壊死が生じ、それが動脈瘤のようになり、破綻して出血します)で、その大部分は被殻出血と視床出血となっています。次いで皮質下出血が多く、橋出血および小脳出血は脳出血全体の1割前後となっています。
上小脳動脈分枝の破綻によるものが多く、特に歯状核部付近原発の出血が多いといわれています。
典型例では突然激しい回転性めまい、嘔吐、頭痛をもって始まります。軽症例では意識障害を呈することは少なく、あっても一過性のことが多いです。こうした場合、運動麻痺はありませんが、歩行が困難になります。四肢に麻痺はないのに、起立・歩行が著明に障害されていることが特徴となります。
重症例では出血が橋にまで及び、昏睡、四肢麻痺に陥ることもあります。こちらは非常に危険で、予後も悪いと言われています。
ちなみに、めまいは以下のように分類することが出来ます。
大阪府の源間勇さん(69)は昨年4月下旬の夕方、この日は休日だったので自宅の居間で、のんびりとテレビを見ていた。
急に、天井が回るようなめまいがした。貧血の持病があり、年に3、4回、血圧が急激に下がって冷や汗が出て、ふらつくことがあった。貧血は数分で回復することが多いのに、この時は治まらなかった。
気持ちが悪くなって吐いた。妻の加代子さん(65)は、めまいが主症状のメニエール病を持っているので、夫も「同じ病気か」と思ったが、あまりにも体調が悪そうなので救急車を呼んだ。
勇さんは救急車の中で意識を失った。府内の病院に運ばれ、CT(コンピューター断層撮影)検査などの結果、脳出血と分かった。
国立循環器病センター(大阪府吹田市)脳神経外科医長の高橋淳さんによると、脳の血管が破れる脳出血は脳卒中の約2割を占める。通常、片側の手足のまひやろれつが回らないなど脳梗塞と同様の様々な症状が表れる。
勇さんは、体のバランスを保つなど運動機能に関係する「小脳」で出血していたが、このような例も少なからずある。その特徴的な症状が、「回転するようなめまいと嘔吐」だ。
メニエール病では、耳の奥にあり、平衡感覚をつかさどる内耳がうまく働かなくなってめまいが起きる。耳鳴りや難聴を伴うことがあり、症状は1〜2時間で消えることが多い。
一方、小脳出血なら耳鳴りなどの症状は通常なく、めまいはずっと続く。小脳に隣接し、呼吸や意識に関係する「脳幹」が圧迫されて生命にかかわることがあるので、緊急治療が必要だ。勇さんは、高度な治療ができる国立循環器病センターに転送され、緊急手術を受けた。後頭部の頭蓋骨を開き、小脳から血液の塊を摘出し、脳幹への圧迫を取り除いた。
3時間に及ぶ手術で、命は助かった。発病から約2時間20分という早さで手術を開始できたことが成功の要因で、高橋さんは「経験したことのないような回転性めまいと嘔吐が続くようなら、救急車を呼んでほしい」と話す。
勇さんは昨年9月下旬、約5ヶ月ぶりに帰宅した。4点で支えるつえで自宅内を数メートル歩けるようになった。「苦労をかけている妻を連れて温泉旅行に行けるようになりたい」。リハビリに力が入る。
(小脳出血で長いめまい)
脳内出血(脳出血)とは、何らかの原因によって脳の動脈が破れて出血し、脳実質内に出血(血腫)を形成したものです。脳血管障害(脳卒中)の3大疾患である、脳梗塞、くも膜下出血とともに、脳内出血はその内の1つです。
年間10万人当たり50名前後との報告が多く、脳卒中全体の25〜30%前後を占める以前は日本での発症率が、欧米諸国に比べて高い傾向にありました。ですが、生活環境の変化や高血圧管理の普及とともに、減少しつつあります。年齢別発症率では、60〜70歳代にピークがあり、男性に多いという特徴があります。
頻度としては、脳出血の約4〜6割は高血圧性脳出血(高血圧が原因で、小動脈に血管壊死が生じ、それが動脈瘤のようになり、破綻して出血します)で、その大部分は被殻出血と視床出血となっています。次いで皮質下出血が多く、橋出血および小脳出血は脳出血全体の1割前後となっています。
上小脳動脈分枝の破綻によるものが多く、特に歯状核部付近原発の出血が多いといわれています。
典型例では突然激しい回転性めまい、嘔吐、頭痛をもって始まります。軽症例では意識障害を呈することは少なく、あっても一過性のことが多いです。こうした場合、運動麻痺はありませんが、歩行が困難になります。四肢に麻痺はないのに、起立・歩行が著明に障害されていることが特徴となります。
重症例では出血が橋にまで及び、昏睡、四肢麻痺に陥ることもあります。こちらは非常に危険で、予後も悪いと言われています。
ちなみに、めまいは以下のように分類することが出来ます。
めまいは、その性質から
このように症状の性質は分けられます。
一般的に、回転性めまいは末梢前庭性めまい(内耳にある前庭が原因となる)に、非回転性のめまいは中枢性めまいに、立ちくらみ型めまいは、心拍低下や起立性低血圧などの疾患によるめまいに生じやすいと考えられます。ただ全部が全部、こうした症状から簡単に分類できるわけでなく、"よくみられる"ということです(小脳出血の場合、回転性めまいがみられることからも分かるとおり)。
また、耳鳴りや難聴などの聴覚症状があれば末梢前庭性めまいを、麻痺などの神経学的異常があれば中枢性めまいを考えます。
めまいは、その原因が末梢性(半規管,前庭神経の異常)なのか、中枢性(脳幹,小脳)であるのかをすばやく判断する必要があります。特に、中枢性の場合は、生命の危険を伴う重症疾患、つまりは脳幹・小脳梗塞、小脳出血、炎症や外傷、腫瘍のことがあり、診断・治療を迅速かつ適切に行う必要があるからです。
血腫径が3〜4cm以上にも及び、脳幹圧迫の可能性のある重篤例は外科療法の適応となり、早期診断が重要となります。そのため、長く続くめまいや、悪心・嘔吐などがみられたら、すぐに病院に行くことが勧められます。
【関連記事】
生活の中の医学
小脳出血で倒れた 日本医師会の会長
・回転性めまい(vertigo)
天井や自分がぐるぐる回るように感じるめまい
・非回転性のめまい(dizziness)
「浮動性めまい」とも呼ばれる。小さな地震を経験したとき、あるいは船に揺られているような、といわれる身体のふらつきや動揺感を主体とする。
・立ちくらみ型めまい(faintness,lightheadedness)
急に立ち上がったときに、フワーっとする気が遠くなる感じ
このように症状の性質は分けられます。
一般的に、回転性めまいは末梢前庭性めまい(内耳にある前庭が原因となる)に、非回転性のめまいは中枢性めまいに、立ちくらみ型めまいは、心拍低下や起立性低血圧などの疾患によるめまいに生じやすいと考えられます。ただ全部が全部、こうした症状から簡単に分類できるわけでなく、"よくみられる"ということです(小脳出血の場合、回転性めまいがみられることからも分かるとおり)。
また、耳鳴りや難聴などの聴覚症状があれば末梢前庭性めまいを、麻痺などの神経学的異常があれば中枢性めまいを考えます。
めまいは、その原因が末梢性(半規管,前庭神経の異常)なのか、中枢性(脳幹,小脳)であるのかをすばやく判断する必要があります。特に、中枢性の場合は、生命の危険を伴う重症疾患、つまりは脳幹・小脳梗塞、小脳出血、炎症や外傷、腫瘍のことがあり、診断・治療を迅速かつ適切に行う必要があるからです。
血腫径が3〜4cm以上にも及び、脳幹圧迫の可能性のある重篤例は外科療法の適応となり、早期診断が重要となります。そのため、長く続くめまいや、悪心・嘔吐などがみられたら、すぐに病院に行くことが勧められます。
【関連記事】
生活の中の医学
小脳出血で倒れた 日本医師会の会長