突然、頭のてっぺんを金づちで殴られたような強い衝撃を感じた。この猛烈な痛みは間断なく続く。2005年3月下旬の深夜。川崎市の主婦、政時久子さん(55)は、就寝中の寝床で頭を抱えた。
久子さんは20歳くらいから片頭痛に悩まされてきた。左右のこめかみ周辺が月1度ほどの割合で痛み、気分が悪くなって吐くこともあった。いつもの片頭痛とは違うような感じもした。
隣で寝ていた夫の幸生さん(51)は嫌な予感がした。その2年前。幸生さんは自宅で脳出血のため倒れた。突然、足がふらつき、意識がもうろうとした。救急車で病院に運ばれ、手術を受け、一命を取り留めたが、左半身は不自由になった。
実は前妻をくも膜下出血で失っていた。脳血管の分岐部にできたコブ・脳動脈瘤が破裂して、くも膜下腔というすきまに出血する病気だ。脳卒中の約1割を占める。
久子さんの頭痛は数時間後、弱くなった。しかし、幸生さんは「脳の病気かもしれない」と直感し、翌朝、病院へ行くよう勧めた。久子さんはタクシーで病院に着くと、再び、頭痛に襲われた。CT(コンピューター断層撮影)検査で、くも膜下出血と診断された。
この病気は時に、患者が片頭痛と思いこんで、治療が遅れる例がある。確かに頭痛のほか、嘔吐を伴うなど似た点があるが、異なる点もある。
国立循環器病センター(大阪府吹田市)脳神経外科医長の高橋淳さんによると、くも膜下出血は突然、激烈な頭痛に襲われ、その痛みが持続するのが特徴だ。
一方、片頭痛の痛みは徐々に強くなっていくのが普通で、痛む前にチカチカとした光が見えるなど前兆症状を自覚する人もいる。ズキンズキンと脈とともに痛み、くも膜下出血の「ハンマーで殴られたような激痛」とは違う。
くも膜下出血は発病すると4割が命を落とし、2割が寝たきりなどになる怖い病気だ。ただし、早く適切な治療を受けることができると、救命率は高くなる。久子さんは病院で緊急の外科手術を受けた。破裂した動脈瘤をクリップで留めて止血する治療だ。手術は成功し、1ヶ月後に、まったく後遺症なく退院した。
久子さんは「病院へ行くように勧めてくれた夫のおかげで助かった」と話す。患者はもちろん、家族ら周囲が病気をできるだけ早く察知し、患者を受診させることが重要だ。
(間断なく激しい頭痛)
クモ膜下出血とは、クモ膜下腔に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態をいいます。
脳と脊髄を覆う3層の膜を髄膜といい、脳・脊髄の表面に密着した軟膜、その外側にあるくも膜、最外側にある硬膜からなります。この髄膜のうち、くも膜と軟膜との間に存在するやや広い空間のことをクモ膜下腔といいます。
人口10万人に対して、10〜20人程度が発症するといわれています。発症年齢としては、脳動脈瘤の破綻によるものは40〜60歳の間に多く、脳動静脈奇形によるものは20〜40歳の間に多いといわれています。多くは脳動脈瘤の破裂(約70%)によるもので、約5〜10%が脳動静脈奇形によるものであるといわれています。
最近では、脳ドックを受けられる方も多くなり、未破裂脳動脈瘤の発見頻度が増加して、約2%の発見率(未破裂脳動脈瘤は成人の約5%に存在していると考えられている)といわれています。そうした場合、破裂してクモ膜下出血を起こす前に手術を行うことができます。
クモ膜下出血は、特徴的な症状である「(バットで殴られたような)突然起こる激しい頭痛」で起こる、といったことでも有名です。さらに悪心・嘔吐を伴い、頭痛は持続性です。約半数が意識障害を起こすといわれています(一過性のことが多いようですが)。約20%が初発で亡くなってしまいます。
上記のように、いつもとは感じの異なる頭痛(突然の激しい頭痛)や、持続性の頭痛があった場合、やはり受診されることが望ましいと思われます。
医療者からすれば、「頭痛を主訴にやってきた患者さん」で見逃してはならない疾患(片頭痛などと誤診してしまう)、ということもいわれています。強い痛みを起こすのは、発症の25%程度と言われており、minor leak(出血が少ない)の場合は、頭痛はそれ程強くない事が多いといわれています。そのため、見逃されやすい、とも考えられます。
他にも発症時は昏睡でも、救急車の中であるいは入院後に意識が清明となることもあり、刻々と症状が変化するという特徴もあります。再出血することもあり、初発後2週間以内が多く、6か月以内に約半数は再出血し、死亡率が高いといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
久子さんは20歳くらいから片頭痛に悩まされてきた。左右のこめかみ周辺が月1度ほどの割合で痛み、気分が悪くなって吐くこともあった。いつもの片頭痛とは違うような感じもした。
隣で寝ていた夫の幸生さん(51)は嫌な予感がした。その2年前。幸生さんは自宅で脳出血のため倒れた。突然、足がふらつき、意識がもうろうとした。救急車で病院に運ばれ、手術を受け、一命を取り留めたが、左半身は不自由になった。
実は前妻をくも膜下出血で失っていた。脳血管の分岐部にできたコブ・脳動脈瘤が破裂して、くも膜下腔というすきまに出血する病気だ。脳卒中の約1割を占める。
久子さんの頭痛は数時間後、弱くなった。しかし、幸生さんは「脳の病気かもしれない」と直感し、翌朝、病院へ行くよう勧めた。久子さんはタクシーで病院に着くと、再び、頭痛に襲われた。CT(コンピューター断層撮影)検査で、くも膜下出血と診断された。
この病気は時に、患者が片頭痛と思いこんで、治療が遅れる例がある。確かに頭痛のほか、嘔吐を伴うなど似た点があるが、異なる点もある。
国立循環器病センター(大阪府吹田市)脳神経外科医長の高橋淳さんによると、くも膜下出血は突然、激烈な頭痛に襲われ、その痛みが持続するのが特徴だ。
一方、片頭痛の痛みは徐々に強くなっていくのが普通で、痛む前にチカチカとした光が見えるなど前兆症状を自覚する人もいる。ズキンズキンと脈とともに痛み、くも膜下出血の「ハンマーで殴られたような激痛」とは違う。
くも膜下出血は発病すると4割が命を落とし、2割が寝たきりなどになる怖い病気だ。ただし、早く適切な治療を受けることができると、救命率は高くなる。久子さんは病院で緊急の外科手術を受けた。破裂した動脈瘤をクリップで留めて止血する治療だ。手術は成功し、1ヶ月後に、まったく後遺症なく退院した。
久子さんは「病院へ行くように勧めてくれた夫のおかげで助かった」と話す。患者はもちろん、家族ら周囲が病気をできるだけ早く察知し、患者を受診させることが重要だ。
(間断なく激しい頭痛)
クモ膜下出血とは、クモ膜下腔に出血が生じ、脳脊髄液中に血液が混入した状態をいいます。
脳と脊髄を覆う3層の膜を髄膜といい、脳・脊髄の表面に密着した軟膜、その外側にあるくも膜、最外側にある硬膜からなります。この髄膜のうち、くも膜と軟膜との間に存在するやや広い空間のことをクモ膜下腔といいます。
人口10万人に対して、10〜20人程度が発症するといわれています。発症年齢としては、脳動脈瘤の破綻によるものは40〜60歳の間に多く、脳動静脈奇形によるものは20〜40歳の間に多いといわれています。多くは脳動脈瘤の破裂(約70%)によるもので、約5〜10%が脳動静脈奇形によるものであるといわれています。
最近では、脳ドックを受けられる方も多くなり、未破裂脳動脈瘤の発見頻度が増加して、約2%の発見率(未破裂脳動脈瘤は成人の約5%に存在していると考えられている)といわれています。そうした場合、破裂してクモ膜下出血を起こす前に手術を行うことができます。
クモ膜下出血は、特徴的な症状である「(バットで殴られたような)突然起こる激しい頭痛」で起こる、といったことでも有名です。さらに悪心・嘔吐を伴い、頭痛は持続性です。約半数が意識障害を起こすといわれています(一過性のことが多いようですが)。約20%が初発で亡くなってしまいます。
上記のように、いつもとは感じの異なる頭痛(突然の激しい頭痛)や、持続性の頭痛があった場合、やはり受診されることが望ましいと思われます。
医療者からすれば、「頭痛を主訴にやってきた患者さん」で見逃してはならない疾患(片頭痛などと誤診してしまう)、ということもいわれています。強い痛みを起こすのは、発症の25%程度と言われており、minor leak(出血が少ない)の場合は、頭痛はそれ程強くない事が多いといわれています。そのため、見逃されやすい、とも考えられます。
他にも発症時は昏睡でも、救急車の中であるいは入院後に意識が清明となることもあり、刻々と症状が変化するという特徴もあります。再出血することもあり、初発後2週間以内が多く、6か月以内に約半数は再出血し、死亡率が高いといわれています。
治療としては、以下のようなものがあります。
クモ膜下出血の治療法としては、手術療法が第一選択となります。手術は、再出血が起こる前の発症後数時間以内のきわめて早期に行うことが多いです。手術法としては、直接手術法(動脈瘤のクリッピング、コーティング)、間接手術法(血管内手術として動脈瘤のコイル塞栓術)などがあります。
動脈瘤クリッピングは、全身麻酔をかけ、手術で頭を開いて脳動脈瘤を露出させ、脳動脈瘤の根本に脳動脈瘤用の特殊なクリップをかけて、はさみつぶす方法です。
一方、血管内コイル塞栓術は、足の付け根から細いカテーテルを脳動脈瘤の中まで誘導し、ここからプラチナ製のコイルを脳動脈瘤の内部に何本も詰めていく方法で、「脳動脈瘤塞栓術」と呼ばれます。この十数年で普及してきた新しい治療法で、治療は手術室ではなく血管撮影室で行われます。開頭手術と異なり、頭を開けずに済むのが最大の利点です。
他にも、3H療法とよばれる高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われます。これは、血管攣縮の予防、並びに脳浮腫の状態でも動脈潅流を維持するため、高張輸液の大量投与、時には高カロリー輸液やアルブミンの投与を行います。
この保存的な治療法は、最重症例で症状が改善するまでの間や手術適応とならない場合にも行われます。再出血の防止、脳循環障害の改善、脳浮腫の改善などを目的に行います。
未破裂動脈瘤に関しては、「70歳以下で5mm以上、治療に支障を生じる合併症がないこと」が治療の適応となり、10mm以上では積極的に治療が勧められます。3〜4mm未満または70歳を越える場合は、平均余命、大きさ、形態、部位、治療リスクなどを考慮し個別に判断します。
また、手術をしない場合にもフォローアップも重要であり、検査して大きくなっていないことを確認したり、高血圧治療などが重要となります。
「単なる頭痛」などと思わず、上記のように、「いつもと異なる激しい頭痛」があった場合、しっかりと受診することがお勧めできると思われます。
【関連記事】
生活の中の医学
小脳出血で、長く続くめまいが生じた69歳男性
動脈瘤クリッピングは、全身麻酔をかけ、手術で頭を開いて脳動脈瘤を露出させ、脳動脈瘤の根本に脳動脈瘤用の特殊なクリップをかけて、はさみつぶす方法です。
一方、血管内コイル塞栓術は、足の付け根から細いカテーテルを脳動脈瘤の中まで誘導し、ここからプラチナ製のコイルを脳動脈瘤の内部に何本も詰めていく方法で、「脳動脈瘤塞栓術」と呼ばれます。この十数年で普及してきた新しい治療法で、治療は手術室ではなく血管撮影室で行われます。開頭手術と異なり、頭を開けずに済むのが最大の利点です。
他にも、3H療法とよばれる高血圧(Hypertension)・高循環血液量(Hypervolemic)・血液希釈(Hemodilusion)療法が行われます。これは、血管攣縮の予防、並びに脳浮腫の状態でも動脈潅流を維持するため、高張輸液の大量投与、時には高カロリー輸液やアルブミンの投与を行います。
この保存的な治療法は、最重症例で症状が改善するまでの間や手術適応とならない場合にも行われます。再出血の防止、脳循環障害の改善、脳浮腫の改善などを目的に行います。
未破裂動脈瘤に関しては、「70歳以下で5mm以上、治療に支障を生じる合併症がないこと」が治療の適応となり、10mm以上では積極的に治療が勧められます。3〜4mm未満または70歳を越える場合は、平均余命、大きさ、形態、部位、治療リスクなどを考慮し個別に判断します。
また、手術をしない場合にもフォローアップも重要であり、検査して大きくなっていないことを確認したり、高血圧治療などが重要となります。
「単なる頭痛」などと思わず、上記のように、「いつもと異なる激しい頭痛」があった場合、しっかりと受診することがお勧めできると思われます。
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