読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
4年前、両手の小指、薬指がしびれ、肘部管症候群と診断されました。昨秋から、指や手のひらが、今は右ひじが痛みます。まだ手術はしなくてよいと言われますが、どんな時に手術するのですか。(熊本・66歳男性)

この相談に関して、川崎市立川崎病院副院長である堀内行雄先生は、以下のようにお答えになっています。
肘部管症候群は、肘の内側の「肘部管」と呼ばれる神経の通り道で、小指や薬指の感覚や動きを支配する「尺骨神経」が圧迫されて起こります。尺骨神経は肘の内側をぶつけると電気が走るように感じる神経です。神経障害のうち、手のひらで神経が圧迫される「手根管症候群」に次いで多く、珍しいものではありません。

痛みのほか、小指と薬指の小指側がしびれ、手の筋肉がやせて、細かな動きがしにくくなります。こうした障害のほか、肘の内側を軽くたたき電気が走るような感じがあれば、この病気が疑われます。

エックス線画像の撮影や筋電検査を行い、肘をはさんで神経伝導の遅れがあれば診断が確定します。神経の回復は1日1mm程度なので、肘から手指まででは1年以上かかります。

上記の通り肘部管症候群は、尺骨神経が肘部管で圧迫されることで起こる神経障害です。骨・靭帯・筋膜で構成される肘部管の狭窄を基盤として、神経の圧迫や牽引、摩擦などの機械的要因が加わって発症します。

原因として主なものは、変形性肘関節症によるものと小児期の上腕骨外顆骨折偽関節に伴う外反肘によるものがあります。最近では変形性肘関節症によるものが多いです。その他の原因には、ガングリオン(手関節や手部に好発する非腫瘍性の嚢腫状病変で、手の腫瘤を気にして外来受診する患者さんの半数以上を占める)、習慣性尺骨神経脱臼などがあります。

症状としては、くすり指や小指のしびれ感、握力の低下、知覚障害分布(尺骨神経の支配領域であるくすり指の小指側半分と、小指)、手内筋の筋萎縮、薬指と小指の鉤爪手(いわゆる鷲手)がみられます。

診断や治療に関しては、以下のように行います。
診断する上でのポイントとしては、知覚障害が高位尺骨神経の支配領域にあること(小指とくすり指に限局している)、筋萎縮・筋力低下が高位尺骨神経の支配筋に限局していること、その原因が肘部管にあることを客観的に診断することが必要となります。

肘部管でのTinel様徴候(手首の辺りを叩くと、痛みがくすり指や小指に放散する)、Froment徴候(母指と示指での横つまみが不能な状態)、小指と環指の鷲手変形、肘屈曲試験(肘屈曲位でしびれの増強)などが陽性ならば本症と診断されます。

また、上記のように電気生理学的検査により、肘部管での尺骨神経の伝導遅延が確認されれば、客観的な確定診断となります。

治療に関しては、堀内先生は以下のようにお答えになっています。
手術を検討するのは、強い痛みや手の筋肉の委縮がある場合です。中指に人さし指を乗せることが出来ない時は、手術の可能性が高まります。

手術法は、神経の圧迫を除くため、〈1〉じん帯を切る〈2〉骨を削る〈3〉神経を前方に移動させる――などがありますが、合併症などの危険はほとんどありません。

手術後の回復は重症例では2年ほどかかるなど、治りにくいこともあります。症状の悪化を防ぐ意味で、手術することもあります。

ご質問者は両手に症状が出ているため、頸椎の病気、または肘との同時障害の可能性もあります。主治医によく相談してください。

肘部管症候群は進行性であり、筋萎縮と筋力低下があれば手術適応となりますが、知覚障害のみの軽症例には保存的治療を試みることもあります。保存的療法には、ビタミンB12の内服や、肘屈曲位を制限する装具の装着があります。

上記のように手術法には多くの方法があり、それぞれの病態に応じた手術が行われます。ガングリオンやごく軽度の変形性肘関節症によるものに対してOsborne法、変形性肘関節症によるものに対して肘部管形成術、外反肘によるものに対して筋層下前方移動術などが行われるようです。

手術成績は術前の重症度によって決まり、筋力の改善には術後1年以上を要したり、重症例は十分に回復しないこともあります。こうした点をしっかりと主治医と検討した上、手術を受けるかどうか決定されることが望まれます。

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