読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、平塚胃腸病院副院長の佐藤健先生は、以下のようにお答えになっています。
腹膜偽粘液腫とは、卵巣の粘液性腫瘍や虫垂粘液瘤が破綻して起こるものです。粘液を産生する腺腫や悪性度の低い腺癌から、ゼリー状膠様粘性物質が腹腔内に流出し、腹膜や大網に転移します。
簡単に言えば、最初は虫垂や卵巣に腫瘍が発生し、そこに液体を貯留させていきます。やがて許容量の限界に達すると虫垂や卵巣は破裂し、今度は、腹部全体に広がっていきます。
粘液をどんどんと産生する腫瘍細胞が、腹腔全体に拡散した結果、腹腔内にはゼリー状(ゼラチン様)と表現される腹水が貯留して、腹部膨満をきたします。
100万人に1人の割合で発症するという珍しい疾患で、50代の女性に多いと言われています。しかも治療としては、あらゆる臓器に偽粘液腫が癒着しているため、完治が難しいといわれています。
症状としては、発症初期には全く無症状ですが、腹腔内容が大量になると腹部膨満感、膨隆(お腹がふくれてくる)が認められるようになります。診断は、ゼリー状の腹水穿刺液の証明や、腹腔鏡での腹膜面のゼラチン状膠様粘性物質の貯留を確認します。超音波検査では、ゼラチン様物質の腹水所見や、腸管を取り囲む多発性の丸い液体で満たされた嚢胞をとらえることができます。
こうしたことでも分かるとおり、上記のように直腸からの粘液の排出とは異なります。佐藤先生は、上記のように痔核や直腸粘膜脱を鑑別として挙げています。これらの疾患に関しては、以下のように説明なさっています。
痔核(イボ痔)とは、肛門管の静脈叢が静脈瘤状に膨らんだ状態をいいます。肛門病変の約60%を占め、最も頻度の高い疾患であるといわれています。男性にやや多いですが、女性では妊娠に続発するものが多いといわれています。
原因としては、肛門管に分布する上・下直腸静脈叢のうっ血によって起こるといわれています。どうしてこうしたことが起こるのかと言えば、排便時の怒責、便秘や妊娠などの腹圧、門脈亢進をきたす肝硬変など背景にあると言われています。
直腸粘膜脱とは、排便時や腹圧を加えた際に、直腸の粘膜あるいは直腸壁が肛門輪の外に脱出して環納しなくなる(元に戻らなくなる)状態を指します。
原因としては、肛門括約筋の緊張不全、肛門挙筋・骨盤底靭帯の弱さ、直腸周囲組織の仙骨への固定不全などがあります。内痔核や慢性便秘などがあると、こうしたことが起こりやすくなる、と考えられています。
診断としては、脱出した直腸粘膜を確認することにより、簡単に診断できます。治療には、直腸を仙骨に固定する直腸固定術などがあります。
いずれにしても、肛門科。消化器内科などで専門医による治療を受けられることが望ましいと思われます。
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3年ほど前から、透明なゆるいゼリー状のものが、肛門から1日5、6度出て下着を汚します。大腸内視鏡検査や腹部エコー検査では異常なしです。腹膜偽粘液腫という病気でしょうか。(神奈川・65歳女性)
この相談に対して、平塚胃腸病院副院長の佐藤健先生は、以下のようにお答えになっています。
肛門から出る、透明なゆるいゼリー状のものは直腸からの粘液と考えられます。本来、粘液は腸粘膜を膜のように覆って保護する役割を担っています。
まず直腸がんや大腸炎が疑われますが、大腸内視鏡検査で異常なしとのことですから、これらは心配ないでしょう。
おなかに多量の粘液がたまり、臨月の妊婦のようになる腹膜偽粘液腫という難治性の病気もありますが、この場合は粘液が肛門から出ることはありません。腹部エコー検査でも異常なしとのことですから、こちらも心配ないでしょう。
可能性として考えられるのは、肛門から飛び出た痔核(いぼ痔)により直腸粘膜が引っ張り出された場合と、直腸の粘膜が垂れ下がる「直腸粘膜脱」になり、粘膜が肛門外に脱出した場合の二つです。
腹膜偽粘液腫とは、卵巣の粘液性腫瘍や虫垂粘液瘤が破綻して起こるものです。粘液を産生する腺腫や悪性度の低い腺癌から、ゼリー状膠様粘性物質が腹腔内に流出し、腹膜や大網に転移します。
簡単に言えば、最初は虫垂や卵巣に腫瘍が発生し、そこに液体を貯留させていきます。やがて許容量の限界に達すると虫垂や卵巣は破裂し、今度は、腹部全体に広がっていきます。
粘液をどんどんと産生する腫瘍細胞が、腹腔全体に拡散した結果、腹腔内にはゼリー状(ゼラチン様)と表現される腹水が貯留して、腹部膨満をきたします。
100万人に1人の割合で発症するという珍しい疾患で、50代の女性に多いと言われています。しかも治療としては、あらゆる臓器に偽粘液腫が癒着しているため、完治が難しいといわれています。
症状としては、発症初期には全く無症状ですが、腹腔内容が大量になると腹部膨満感、膨隆(お腹がふくれてくる)が認められるようになります。診断は、ゼリー状の腹水穿刺液の証明や、腹腔鏡での腹膜面のゼラチン状膠様粘性物質の貯留を確認します。超音波検査では、ゼラチン様物質の腹水所見や、腸管を取り囲む多発性の丸い液体で満たされた嚢胞をとらえることができます。
こうしたことでも分かるとおり、上記のように直腸からの粘液の排出とは異なります。佐藤先生は、上記のように痔核や直腸粘膜脱を鑑別として挙げています。これらの疾患に関しては、以下のように説明なさっています。
痔核は妊娠、出産や長年の便秘などで悪化します。また、粘膜脱は、トイレで強く息むことを繰り返すと起こりやすくなります。加齢に伴い肛門周辺の筋力が低下し、肛門がゆるくなると、さらに外に飛び出やすくなります。
粘膜脱は、痔核に対する治療として1960年前後によく行われた肛門部分をリング状に大きく切除するホワイトヘッド手術の後遺症としても起こります。
大きく飛び出した痔核も、肛門外に出た粘膜脱も、薬で治すことは不可能です。根治を希望するなら手術が必要です。
痔核(イボ痔)とは、肛門管の静脈叢が静脈瘤状に膨らんだ状態をいいます。肛門病変の約60%を占め、最も頻度の高い疾患であるといわれています。男性にやや多いですが、女性では妊娠に続発するものが多いといわれています。
原因としては、肛門管に分布する上・下直腸静脈叢のうっ血によって起こるといわれています。どうしてこうしたことが起こるのかと言えば、排便時の怒責、便秘や妊娠などの腹圧、門脈亢進をきたす肝硬変など背景にあると言われています。
直腸粘膜脱とは、排便時や腹圧を加えた際に、直腸の粘膜あるいは直腸壁が肛門輪の外に脱出して環納しなくなる(元に戻らなくなる)状態を指します。
原因としては、肛門括約筋の緊張不全、肛門挙筋・骨盤底靭帯の弱さ、直腸周囲組織の仙骨への固定不全などがあります。内痔核や慢性便秘などがあると、こうしたことが起こりやすくなる、と考えられています。
診断としては、脱出した直腸粘膜を確認することにより、簡単に診断できます。治療には、直腸を仙骨に固定する直腸固定術などがあります。
いずれにしても、肛門科。消化器内科などで専門医による治療を受けられることが望ましいと思われます。
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