「男が妊娠した!?」こんな話題が世間をにぎわせている。話題の主役はトーマス・ベティさん。トーマスさんは男の顔をしているが、お腹をみると妊婦そのものだ。実はトーマスさんは8年前に性転換手術を受けて男になった女性だ。トーマスさんは自分の妻に代わって子供を生むため、男性ホルモンの注射をやめ、人工授精を受けた。もうすぐパパになるトーマスさんは、「とても興奮している」とのこと。

イギリスのメディア「デイリーメール」は26日の記事で、トーマスさんは現在妊娠6ヶ月で、7月3日に女の子を出産する予定だと報じている。

トーマスさんとその妻、ナンシーさんはアメリカのオレゴン州に暮らしている。8年前、トーマスさんは性転換手術を受け、法律上男となった。そして後に、ナンシーさんと結婚することになる。トーマスさんのお腹が大きくなるまで、隣家の人達の目には、2人はごく普通の仲のいい夫婦と映っていた。

トーマスさんは子供をほしいと思っていたが、自分は精子を持っていない上、ナンシーさんも20年前の手術で子宮を摘出してしまっていた。2人は相談した結果、人工授精を受け、トーマスさんが妊娠することに決めたのだという。

幸運なことに、トーマスさんが受けた性転換手術は完全なものではなかった。彼が受けた性転換手術は、胸を整形し、男性ホルモンを服用するというだけのものだった。トーマスさんは2年前に男性ホルモンの注射をやめた。その4ヶ月後、長年とまっていた生理が再び始まったという。
(「男が妊娠」のニュースに世間騒然)


男性ホルモンの同義語としてアンドロゲンがあり、アンドロゲンとは、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン、テストステロンなどの男性ホルモン活性を有するものの総称を指します。

男性ホルモンは、脳下垂体の黄体化ホルモン(LH)の刺激によって精巣の間質細胞(ライディッヒ細胞)で合成・分泌されます。その名のとおり、基本的には男性生殖器の発達を促進し、男性の二次性徴を発現する物質を分泌するものです。

男性ホルモンは、類宦官症など男子性腺機能不全、造精機能障害による男子不妊症、再生不良性貧血、性同一性障害における男性化の促進などの治療に用いられます。

天然の男性ホルモンであるテストステロンは,肝臓で速やかに代謝されるため、経口投与では不活化されてしまいます。そのため、一般的には注射によって投与されるわけです(ただ、17α位にメチル基を導入したメチルテストステロンやフルオキシメステロンは、肝臓での代謝を遅くできます。そのため、経口投与が可能となっています)。

ただ、注射として投与した場合でも、半減期が5〜20分と短いため、17-水酸基をエナント酸やプロピオン酸によりエステル化し、油性注射剤として、作用を長く持続する必要があります。

アンドロゲンで、特に生理的活性をもつのはテストステロンです。これは、以下のような作用をもちます。
テストステロンの正常血漿濃度は、250〜1,100pg/mL程度であり、そのうち強い活性をもつ遊離型は、わずか1〜2%です。テストステロンは、標的細胞内でジヒドロテストステロンあるいはエストラジオールに変換された後、核内受容体に結合します。

ジヒドロテストステロンは、生体内で産生されるステロイドホルモンのうち、アンドロゲン受容体との結合能が高く、アンドロゲン作用が最も強いと言われています。

テストステロンは、前立腺細胞内に取り込まれると、細胞質内に存在する5α還元酵素によって変換され、ジヒドロテストステロンとなって、その作用を発揮します。ちなみに、発毛剤といわれるフィナステリドは、この5α還元酵素を阻害して、ジヒドロテストステロンの発生を抑えます。このことから分かるとおり、男性型脱毛症の原因は、ジヒドロテストステロンの存在であるとも考えられます。

実は、女性でも産生されており、アンドロゲンが副腎と卵巣で産生されています。アナボリックステロイドホルモン(筋肉増強剤としても用いられる蛋白同化ステロイド類)としての作用と抗エストロゲン作用を示します。

女性においてアンドロゲンが過剰状態になると、男性化が起こります。代表的なものとしては、ヒゲの密生、恥毛の男性型化、多毛、音声の低音化、陰核の肥大、ニキビの発生、三角筋の発達などが起こってきます。

副腎腫瘍や、卵巣腫瘍によるアンドロゲン産生によりこうしたことが女性でも起こってきます。性同一性障害の方は、あえてこうした変化を起こすために男性ホルモンを用いています。もちろん、抗エストロゲン作用をもち、無月経状態が起こります(これまであった月経が3か月以上停止したものを続発性無月経という)。

今回のケースでは、男性ホルモンの投与は中止しており、無月経状態は終わり、妊娠可能の状態になったようです。

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