脳卒中や心筋梗塞の発症の危険性を高める「悪玉」とされるLDLコレステロールは、低いほど死亡率が高まることが、大櫛陽一・東海大教授(医療統計学)らの疫学調査で分かった。LDL値の高さは、4月から始まる特定健診・保健指導(メタボ健診)でも、メタボか否かを判断する基準の一つで、悪玉という位置づけの是非が議論になりそうだ。

大櫛教授らは、神奈川県伊勢原市で87〜06年に2回以上住民健診を受けた約2万6000人を平均8.1年追跡。LDL値ごとに7群に分け、死亡率や死因との関係を調べた。

全死因合計の「総死亡率」でみると、男女とも、最もLDL値が低い群(血液1デシリットル中79ミリグラム以下)が一番死亡率が高い。男性では年間死亡率が人口10万人あたり約3400人と、死亡率が最も低い群(140〜159ミリグラム)の約1.6倍。女性も人口10万人あたり約1900人で、死亡率が最も低い群(120〜139ミリグラム)の約1.3倍だった。

脳卒中や心筋梗塞など心血管疾患による死亡率に限ると、男性では180ミリグラム以上になると死亡率が上昇したが、女性はほとんど関係ない。男女ともLDL値が低いと、がんや呼吸器疾患による死亡が増え、全体の死亡率が高くなった。

大櫛教授はLDL値の適正範囲を「男性100〜180ミリグラム、女性120ミリグラム以上」と提案。メタボ健診の基準では、LDL値が120ミリグラム以上の人は下げることを勧めているが、大櫛教授は「適切な範囲にあるLDL値を下げ過ぎる危険がある。コレステロールは人体に必須の物質で、少ないと免疫機能が低下するため死亡率が上がるのではないか」と話している。
(少なくても危険? 脳卒中や心筋梗塞)


LDLはいわゆる「悪玉コレステロール」、HDLは「善玉コレステロール」といわれ、LDLはその値が高いと問題となり、後者は少ないことが問題となっています。

現在、HDLは、コレステロールの逆転送にかかわると考えられており、低HDL血症は(善玉コレステロールが少ないこと自体が)、粥状動脈硬化のリスクファクターの一つとされています。

ですが、上記のニュースでは、「悪玉コレステロール」と嫌われていたLDLコレステロールが、少なすぎると癌や呼吸器疾患のリスクとなるのではないか、と指摘されています。

そもそも、コレステロールは細胞膜やオルガネラ(細胞小器官)膜、ミエリン鞘(神経細胞の軸索を膜状に覆うもの)などの構成成分となっています。また、ステロイドホルモン、胆汁酸、ビタミンDなどの前駆体とです。つまり、コレステロールは体内の重要な構成物であったり、必要な物質の原材料であったりするわけです。

コレステロールは、体内で遊離型のほか、脂肪酸エステル(コレステロールエステル)として存在します。血中では、血漿リポ蛋白質中に、主にエステル型として存在しています(リポ蛋白粒子を形成している)。

血液中の脂質には、コレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)、リン脂質、遊離脂肪酸などがあります。それぞれ、細胞膜の成分やエネルギー源としての役割をもっていますが、脂質はそれ自体水に溶けません(文字通り、水と油なので)。ですので、アポリポ蛋白(または単にアポ蛋白)と結合した「リポ蛋白」という形で血中を運搬されるわけです。

リポ蛋白には、カイロミクロン(CM)、VLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)、HDL(高比重リポ蛋白)が存在します。

それぞれ、以下のような機能があります。
食事性の脂肪は、吸収された後、腸でカイロミクロン(CM)に組み込まれます。血管内のリポ蛋白リパーゼ(LPL)により、カイロミクロンのトリグリセリド(中性脂肪)は、水解されます。また、水解とともに、脂肪組織や筋肉で消費されたりすることでも、カイロミクロンは小型のカイロミクロンレムナントになります。最終的に、レムナントは、肝臓のレムナント受容体に取り込まれると考えられています。

一方、超低比重リポ蛋白(VLDL)は、肝臓で合成された血管壁のリポ蛋白リパーゼにより、カイロミクロン同様にトリグリセリド(中性脂肪)が分解され、中間比重リポ蛋白(IDL)となります。中間比重リポ蛋白(IDL)はその後、コレステリルエステルに富む低比重リポ蛋白(LDL)になります。

LDLは肝をはじめとする末梢諸臓器へ受容体を介して取り込まれ、全身へのコレステロールの供給源となります。これが、悪玉コレステロールと呼ばれる由縁となるわけです。つまり、全身へコレステロールをバラ撒いてしまうわけですね。

逆に高比重リポ蛋白(HDL)は、簡単に言ってしまえば、余分な全身のコレステロールを肝臓に戻す役割をもっています(そのため、善玉コレステロールと言われているわけです)。

HDLは、主に肝臓と小腸で合成・分泌され、血中で末梢細胞の細胞膜から、あるいは他のリポ蛋白の水解過程で生じる遊離コレステロールを受け取って、肝臓に戻ってHDL受容体により取り込まれます(正確には、血中のコレステリルエステル転送蛋白によって、VLDL、IDLやLDLへと転送するという機能もあり、これ以外が肝臓へと戻される)。

こうした機能の違いもあり、単純に考えれば「LDLは減らし、HDLは増やすべき」となると思われます。ですが、実際はLDLも生体内で重要な役割を果たしており、減らしすぎるべきではない、ということが上記ニュースではいわれているようです。

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