東京都内の女性(61)は昨年、自治体の検診で大腸がんを調べる便潜血検査を受け、陽性反応が出た。豊島区の平塚胃腸病院で内視鏡検査を受けると、直腸の中ほどに直径7.6cmの大きながんが見つかった。

がんは、腸管をほとんどふさぐ大きさだったが、便秘はなく、一昨年から下痢が続いていた。実はこれが、がんのサインだった。

同病院副院長の佐藤健さんは「がんが成長すると、腸管をふさいで便秘が起こる場合と、逆に便の詰まりを防ぐため、大腸が自然に水分の吸収を抑え、下痢になる場合がある。以前はなかった便秘や下痢が続く時は、消化器科を受診してほしい」と話す。

血便も、大腸がんのサインの一つだが、目に見える血便がないまま、進行するがんも多い。

埼玉県の大学教授(62)は昨年夏、年に1度の人間ドックで便潜血検査が陽性になった。同病院で内視鏡検査を受けたところ、直腸の上部に直径2センチ超のがんが見つかった。

内視鏡で粘膜内のがんを切り取る治療を受けた。切除した組織を調べると粘膜の下に食い込んでいたため、転移を起こす可能性が5%〜10%ほどあり、手術で腸管を約20cm切除した。

幸い、リンパ節への転移は見つからなかった。「目で見える血便はなく、がんと言われた時は本当に驚きました」と話す。

がんが腸管内で成長すると、便でこすれたりして出血が起こる。だが、早期のがんでは出血はあっても微量で、肛門に近い直腸のがんからの出血でも、肉眼では見逃しやすい。また、肛門から遠い位置にできたがんでは、まだ軟らかい便に血液が混じるため、肉眼では分からず、便潜血検査でも陰性と出ることがある。

さらに、がんがポリープ状に隆起せず、粘膜の下に潜り込んでいく悪性度の高い陥凹型のがんでは、進行しても出血が起こりにくく、便潜血検査も陽性になりにくい。

佐藤さんは「早期の大腸がんでは、典型的な自覚症状はほとんど表れません。便秘や下痢などの症状が出た時は、すでに進行していることが多いのが現状です」と話す。

年齢50歳以上で、大腸や胃など消化器のがんにかかった肉親がいる人や、肥満の傾向がある人は大腸がんの危険性が高まる。このような人は「特に自覚症状がなくても、大腸の内視鏡検査を一度受けて、ポリープの有無など、腸内の様子を確認しておくことが早期発見につながります」と佐藤さんは勧める。そして、異常に気づいたら、ためらわずに内視鏡検査を受けることだ。
(便秘や下痢続いたら…)


大腸癌とは、大腸(結腸、直腸)粘膜に発生する悪性腫瘍のことを指します。癌がどれだけ深達しているかにより、粘膜下層までの早期癌と、固有筋層より深部に達している進行癌に分けられます。大部分が腺癌ですが、まれに扁平上皮癌のこともあります。

大腸癌の中では、直腸癌が大腸癌全体の約40%と最も多く、次いでS状結腸癌に頻度が高くなっています。男性に多いといわれ、40歳以上に多く、50〜60歳台に最も高率であるとのことです。

症状としては、早期癌は無症状のことが多いです。早期癌に関係のある症状は、下部(直腸,S状結腸)大腸癌における血便のみです。

ただ、S状結腸癌では、直腸癌とは異なり、癌からの出血があっても通過している間に血が便に混じりこみ、見た目では出血が分かりにくいこともあります。そのため、トイレの時での見た目だけでは、血便があるかどうか判断しかねる、というところがあります(便潜血反応は陽性となり、検査では容易に分かります)。

進行癌では、大きさと存在部位によって症状が異なります。具体的には、以下のように分かれます。
右側結腸は、腸管腔が広く、腸内容が液状であるため、症状が発現しにくいです。大きくなって腫瘤として触れたり、原因不明の貧血(血便など出血による貧血)の検査で発見されることがあります。右側結腸癌の70〜80%は、軽度の腹痛などを生じます。

左側結腸は管腔が狭く、伸展性も悪く、なおかつ腸内容は固形化しています。そのため、腹痛を伴った通過障害が出現してきます。特に、左側結腸は癌によるイレウス(腸閉塞)がよく生じ、さらに肛門に近いため、出血もわかりやすいと考えられます。

直腸癌は肛門に近いため、さらに小さな病変でも早く症状が出現してきます。排便時の違和感、糞便の細小化(便が細くなる)、便通障害、テネスムス(腹痛があり、頻繁に便意をもよおすのに、ほとんど便が出なかったり、あってもわずかしかない場合)、出血、などがみられます。

検査としては、上記のように便潜血反応、内視鏡検査などが行われます。内視鏡検査では、生検により組織的診断可能であり、確定診断に有用です。大腸癌では病変が多発することも多く、併存する病変の発見に有用です。他にも、注腸X線検査(二重造影による全大腸の造影が必須)などが行われます。

腫瘍マーカーではCEAが上昇してきます。CEAは、大腸癌全体の陽性率は40〜60%ですが、進行するにつれ高くなり、肝転移,肺転移の指標ともなります。

腹部超音波検査は、肝転移やリンパ節転移の有無に有用であり、CT検査では肝転移やリンパ節転移の診断、隣接臓器への浸潤、直腸癌の再発、骨盤内進展の程度を知るのにも有用です。

もし上記のような症状で思い当たる節がありましたら、大腸の内視鏡検査などを受けられることが勧められます。

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