以下は、最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学で扱われていた内容です。

今から3年前の春、健康診断で精密検査を受けたところ、狭心症と診断された加藤茶さん。原因は日頃のハチャメチャな食生活によるもの。血管はいつ心筋梗塞が起きてもおかしくない状態にまで悪化していました。

このままでは危険なため、動脈硬化を起こしている場所にステントと呼ばれる特殊な金属の筒を入れ、血管を拡げる手術を受けた加藤さん。しかし、節制を勧める医師の助言を受け流し、再びハチャメチャな生活に戻ってしまいました。

そして手術から1年半後の2006年秋、地方での仕事が終わりホテルに戻ったとき、突然、胃の辺りに激痛を感じた加藤さん。その痛みは背中や肩に移動していったばかりか、新たな症状も襲いかかりました。具体的な症状としては、以下のようなものがありました。

1)激しい胃痛
2)背中の痛み
ホテルに深夜飲んで帰ってくると、激しいみぞおちの辺りの痛みや不快感、背中の痛みが生じました。始めはまるで丸太で殴られたような痛みだったそうです。
3)肩の痛み
最初に生じた胃痛や背中の痛みのほかに、肩の痛みが生じてきて、その日は朝まで一睡もできませんでした。

4)体がだるい
5)発熱
上記の胃痛、背部痛、肩の辺りの痛みなどが現れましたが、仕事を休むわけにいかないということで、病院に行かずにそのまま仕事へ向かってしまいました。その後、倦怠感や38℃近くの熱が続きました。

そんな状態が半月続いた後、ようやく病院に行きました。腹部CTを撮ると、主治医は「すぐに大学病院で入院しましょう」と勧め、救急車で運ばれることになりました。大学病院へ向かう途中、加藤さんは意識を失っていまいました。

加藤さんの診断された病名は、以下のようなものでした。
加藤さんの病名は、大動脈解離でした。
動脈壁は、内膜・中膜・外膜の三層構造になっています。「大動脈解離」とは、大動脈壁の中膜層が内外に剥離する病態をいいます。簡単に言えば、心臓から全身に血液を送り出す大動脈、その血管壁に亀裂が生じ、流れ込んだ血液によって、本来1本のはずの流れがわずか数秒で2本になってしまう疾患です。2本に分かれた血管は極めてもろく、破裂すれば即死してしまう可能性もあります。

多くの場合、粥状硬化や中膜壊死のある大動脈において生じ、亀裂(エントリー)を生じた内膜から大動脈壁内に血液が侵入し、中膜層を解離させながら病変が進展していきます。中でも、瘤を形成する症例は解離性大動脈瘤といいます。

加藤さんの場合、長年の暴飲暴食、ハチャメチャな食生活に原因がありました。肉類などコレステロールの多い食事ばかりを続けていると、血液中に増えた悪玉(LDL)コレステロールが、血管壁の中に入り込んで動脈硬化を起こしてしまいます。すると内膜と中膜がもろくなり、ちょっとした刺激でも壊れやすくなります。その引き金を引いたのが、加藤さんの高血圧。あのホテルの夜、もろくなった内膜に高い血圧がかかり破れてしまったのです。結果、大動脈は心臓近くから腹部にまで裂けてしまっていました。そのため、おなかや背中、肩までが強い痛みが生じました。さらに裂けた血管では炎症が起き始めます。それがあの長く続いた発熱の原因でした。

大動脈解離の症状としては、上記のように突然の激烈な胸部や背部痛があります。痛みは最初が一番激しく、その後ジワーッと長く続きます(12時間〜数日)。痛みの部位は、肩などに移動することもあります(胸部に発生して、腹部に移動することも)。

血圧は通常高値ですが、破裂や心タンポナーデ、冠動脈閉塞を合併するとショックに陥ることもあります。心嚢液、また胸水の貯留により心不全、呼吸不全を呈することもあります。心臓、脳、肝臓、腎臓などの臓器障害、上・下肢の血行障害を呈することもあります。(上行大動脈解離では心タンポナーデ、縦隔内出血を生じ、下行大動脈解離では縦隔、胸腔へ、腹部大動脈解離では腹膜腔あるいは後腹膜腔へ出血する)。

単純CTでは、大動脈の拡大・胸腔などへの出血が確認できますが、解離の程度、範囲、血栓閉塞の有無など確定診断には造影CTが必要となります。大動脈造影でも診断できます(比較的安全に施行でき、CTで検出困難な解離腔なども診断できる可能性もあります)。心エコーでも、胸壁からのアプローチで上行大動脈基部の拡大、フラップ、心膜腔への出血、大動脈弁閉鎖不全が検出できます。血液検査では、一般的な炎症所見として白血球増加、赤沈値促進などがみられ、疼痛がおさまってもCRPや赤沈値は比較的長期に、時には数ヶ月にわたって異常値を示します。

加藤さんの治療には、大きな問題がありました。日頃の不摂生から起きた狭心症のため、血液が固まりにくくなる薬(抗血小板薬)を服用していました。このまま手術を行なうと、出血がとまらず、死亡する危険性が高くなると判断されました。薬の効果が弱まるには時間が必要で、いつ破裂するとも知れない爆弾をかかえ、加藤さんはただ待つしかありませんでした。緊急入院から5日目。医師団は加藤さんの容態からこれ以上は待てないと判断。ついに手術に踏み切りました。それは大動脈の一部を人工血管にとりかえるというものです。

大動脈解離の分類には、Stanford分類が有用で、治療もその分類に沿って行われます。上行大動脈に解離の存在するA型解離と、上行大動脈に解離の存在しないB型解離に分類されます。A型解離は心タンポナーデ、冠動脈閉塞、急性大動脈弁閉鎖不全症などを併発する可能性が高く、自然予後がきわめて不良です。B型解離は、破裂や主要臓器虚血、持続する痛みなどがなければ、予後は比較的良好です。

Stanford A型は外科手術、Stanford B型は内科的薬物治療が原則となります。手術としては、人工血管置換術が行われます。これは上記の通り、解離した部分の血管を、人工血管に取り替えるものです。

一方で、最近ではより侵襲の少ないステントグラフト内挿術などがあります。これは、ステントグラフトと呼ばれる人工血管を、腹部を切開せずに体内に入れる血管内手術です。方法としては、まず、足の付け根を通る2ヶ所の動脈から、道しるべとなるワイヤー(ガイドワイヤー)を入れます。次に、そのワイヤーを利用して、ステントグラフトが入ったチューブを血管に差し入れます。そして動脈瘤に到達したところでチューブだけ外すと、形状を記憶したステントグラフトが広がるという仕組みです。

10時間にもおよぶ手術は無事成功し、見事に復帰なさっています。日頃の不摂生や、高血圧の既往のある方は、十分にお気をつけください。

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