埼玉県に住む大工(32)は、小学生のころから、鼻づまりや、うみのような鼻水に悩まされてきた。蓄膿症(副鼻腔炎)で、頭痛もあった。昨年1月、東京慈恵会医科大病院(東京都港区)で、手術器具の位置をカーナビのように的確に画像に表示する「ナビゲーションシステム」を使った内視鏡手術(ナビ手術)を受けた。鼻づまりなどの症状は解消され、快適な毎日を送っている。

蓄膿症はウイルスや細菌の感染、アレルギーなどで、鼻の周囲の空洞(副鼻腔)に炎症が起きる病気。治療は、鼻からの薬剤吸入や抗生物質の服用などが一般的だが、重症の場合は手術をする。

かつては口内の歯茎の上を切り開き、ほお内側の炎症を起こした部分を取り除く大がかりな手術が主流で、患者は手術後に顔の腫れなどに苦しんだ。約20年前から、鼻から小型カメラや手術器具を入れて行う内視鏡手術が普及し、体への負担は小さくなった。ただ、患部の副鼻腔は目や脳、視神経などの重要器官に近いため、手術器具の操作を誤ると、これらの器官を傷つけて後遺症が残る恐れもある。

そこで、安全な内視鏡手術を実現しようと登場したのが、ナビ手術だ。人工衛星が発射した電波を受信して、自動車の位置を割り出すカーナビと同じ原理で、利用するのは電波ではなく赤外線だ。

同病院耳鼻咽喉科准教授の鴻(おおとり)信義先生によると、まず手術前に、患者の顔全体をコンピューター断層撮影法(CT)で撮影し、副鼻腔の形状や目の位置などをコンピューターに取り込んでおく。こうした顔内部の構造データは、カーナビの地図に当たる。

次に、赤外線を反射する直径約1センチの球を、ドリル、はさみなどの手術器具や患者の頭に、それぞれ3〜4個取り付けてから、手術を始める。

手術中は、手術台上方の約2メートルの高さに設置された2台の装置から、患者に向かって赤外線を発射。これらの装置は、手術器具などに取り付けた球から反射した赤外線の受信機能も備えている。反射してきた赤外線の方向をもとに、コンピューターで手術器具の先端がどこにあるかを計算、手術前に撮影したCT画像の中に表示する。

鴻さんは「手術器具の位置が正確に分かるため、手術を安全に行える。しかも、手術時間は2時間程度と以前の3分の2に短縮でき、利点が大きい」と強調する。

蓄膿症のナビ手術は今月から保険適用され、今後さらに普及するとみられている。

日本医大准教授の大久保公裕さん(耳鼻咽喉科・頭頸部外科)は「ナビ手術は目や脳の近くにある腫瘍の除去など、蓄膿症以外の分野にも応用できると期待される」と話している。
(蓄膿症の内視鏡手術)


副鼻腔は、鼻腔をとり囲む骨の内部に発達した空洞で、鼻腔に通ずる開口部をもちます。副鼻腔には、上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞があります。

副鼻腔は、鼻腔の粘膜のつづきによって内面をおおわれていますが、粘膜は鼻腔よりも薄く、線毛も丈が低いという特徴があります。鼻腔と交通するため、内部に空気を含んでおり、鼻粘膜の炎症が起こると、そこから炎症が波及して副鼻腔炎をきたしやすいです。

副鼻腔炎の種類としては、次のようなものがあります。
急性副鼻腔炎:急性副鼻腔炎の多くは、かぜ症候群、ウイルス感染に引き続いて、細菌の2次感染により発症します。
慢性副鼻腔炎:慢性副鼻腔炎は、急性副鼻腔炎から移行して、一般的には3ヶ月以上持続、または徐々に悪化する粘性・粘膿性鼻漏が認められる状態を指します。
副鼻腔真菌症:副鼻腔真菌症は、アスペルギルス、ムコール、カンジダなどにより引き起こされるものを指します。
アレルギー副鼻腔炎:鼻アレルギー患者の副鼻腔には、X線検査にて30〜70%の頻度で陰影の存在が確認されるといわれています。

手術適応となるのは、慢性副鼻腔炎や真菌性副鼻腔炎などです。慢性副鼻腔炎では、まずニューマクロライド(抗菌薬)療法と局所療法を行い、症状の改善がなければ手術を行います。

症状としては、膿性鼻漏(鼻からウミが出てくる)、鼻閉(鼻づまり)、嗅覚障害が主たる症状ですが、自然孔の閉塞が生じると頬部痛、頭重感も強く訴えることがあります。また、炎症が頭蓋腔や眼窩に波及することもあります。

必要な検査や治療としては、以下のようなものがあります。
まずは鼻鏡によって鼻の所見をみます。中鼻道に分泌物の貯留がみられ、特に急性期のものでは膿の排泄が顕著です。アレルギー性では、粘性・粘漿液性分泌物がみられます。

X線検査では、副鼻腔に種々の程度の陰影を認めます。感染が原因の場合では、上顎洞、篩骨洞を中心に両側性に副鼻腔にびまん性陰影、時には上顎洞に貯留液が認められます。通常、症状やX線検査から診断できます。頭部のCT検査では、病変が両側性かどうか、骨破壊の有無などがあるかどうかなどを診ます。

感染によるものが原因であると考えられる場合、鼻内中鼻道の分泌物や、上顎洞探膿針などで吸引採取して検査を行うことや、アレルギーが原因であると考えられる場合、鼻汁好酸球、特異的IgE抗体の有無などをみます。

まずは、上記のように抗生物質投与などで保存的治療を行います。それでも改善が見られなかった場合(2ヶ月など)、手術を行うことを考えます。
ほかにも、手術の適応となるのは
・鼻中隔彎曲など鼻腔形態異常を合併するとき
・眼・脳合併症のあるとき
・腫瘍の合併が否定され得ないとき

最近では、上記のように鼻内より内視鏡を用いた、粘膜保存型の手術が行われます。骨肥厚が顕著な場合や、病変が著しく高度な場合には、Caldwell Luc法(上記に書かれている、口内の歯茎の上を切り開き、ほお内側の炎症を起こした部分を取り除く手術)による根本手術が行われることもあります。

鼻水、鼻づまり、嗅覚障害、頭痛などの症状でお困りの方は、一度、耳鼻咽喉科を受診されてはいかがでしょうか。

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