今年1月の連載「がんのサイン のどと口」で、口やのどにできるがんの治療を紹介したところ、兵庫県の会社員男性(36)の妻(36)から手紙をいただいた。

男性は、あごの関節にできたがんで、左下あごを切断する手術を受け、食事や会話がしづらくなった。同じような治療を受けた患者から、「日常生活の工夫などについて情報提供を受けたい」という。

男性は昨年夏、左の奥歯からあごの関節にかけて、鈍い痛みを感じた。気にかけずにいたが、9月下旬ごろ、左ほおが腫れ、痛みが少し強くなった。

翌月、近くの歯科医で「顎関節症」と言われた。この病気について自分で調べたところ、口を開けるとポキポキ音がすることが多いという。男性にはそういう症状がなく、念のため、会社近くの大学病院で意見を聞いた。

大学病院の歯科医は男性のほおの腫れを見て、「違う病気では?」と直感した。様々な画像診断や細胞を採取する検査で、下あごの「骨肉腫」と診断がついた。骨肉腫は骨にできる悪性腫瘍で、骨のがんとも言われる。ひざや腕にできることが多く、あごの関節にできることは少ない。10月末に入院、手術を受けた。

手術でがんは取り切れたが、左の下あごの3分の1と歯、ほおの筋肉や神経もごっそり切除された。骨と肉がないので、顔の輪郭がへこんだ。

そればかりでなく、ものをかむのが難しくなった。普通の食事をミキサーにかけ、流動食状にした。それでも、以前は30分で済んだ食事に2時間以上かかる。口も大きく動かせず、しゃべりにくくなった。

昨年12月から、抗がん剤治療を始め、順調に行けば6月には治療が終わる。抗がん剤治療で髪が抜けたが今のところ転移もなく、一日も早く仕事を再開したいという。「5年間は再発、転移との闘い。今は社会復帰を目指したい」と話す。

気がかりなのが、下あごを取った後の生活だ。顔かたちが変わってしまったことへの不安もある。骨肉腫だけでなく、口のがんでも下あごを取ることはあるが、いずれも珍しい病気で、周囲に同じような患者はいない。

「今後の生活の見通しがわかれば、前向きに治療を受けられる。でも、あご骨やほおの筋肉を切除した後の情報がなかなか集められません。同じような体験をした方は、ぜひアドバイスを」と話している。
(あご切除 情報なく不安)


骨(類骨)をつくる、骨発生の肉腫を骨肉腫と呼びます。骨肉腫は代表的な骨の悪性腫瘍であり、腫瘍細胞が骨組織を作るという特徴をもっています(腫瘍細胞が、直接類骨あるいは幼若な骨を形成する能力をもっています)。

原発性悪性骨腫瘍の中では、骨肉腫が最も多く、ほかにも多発性骨髄腫、軟骨肉腫、Ewing肉腫、悪性線維性組織球腫、悪性リンパ腫といったものが頻度として多いです。

好発年齢は10歳代で、とくに15〜19歳に好発します。膝の周り(約半数例は、大腿骨遠位骨幹端に発生します。次は脛骨近位側に後発します)、肩の骨(上腕骨近位側)にできやすいです。他にも、頻度としては少なくなりますが、骨盤や脊椎、下顎などに発生することもあります。症状としては痛みを感じたり、局所の腫れを伴うことがあります。

検査としては、単純X線像の所見も重要で、いわゆる虫食い像や浸潤像を示す溶骨性病変、辺縁不正な骨硬化像などが髄内に認められます。他にも、骨皮質の破壊,連続性の消失あるいは骨膜反応などがみられます。単純X線像で、こうした悪性所見を見落とさないことが重要です。

造影MRIで造影され、MRI像では骨外腫瘍像が認められ、血管造影で腫瘍濃染像が認められます。さらに、MRIは生検する部位の想定にも重要であり、さらに化学療法の効果判定、腫瘍広範切除における切除範囲決定にも必須となっています。

確定診断は、生検(針生検または切開生検)を行います。針生検または切開生検を施行し、迅速病理検査や迅速細胞診を行います。診断確定の翌日から、全身化学療法を開始します。

治療としては、以下のようなものがあります。
上記のように、治療としては確定診断後、ただちに化学療法を開始します。
骨肉腫の化学療法は、
・ADR(アドリアマイシン)
・MTX(メトトレキサート)
・CDDP(シスプラチン)
・IFM(イホスファミド)

の4剤が現在キードラッグとなっており、これらの組み合わせであるNECO-95Jプロトコール(厚生労働省悪性骨腫瘍研究班による多施設共同研究に基づく化学療法レジメン)を行います。
 
まずはADR、MTX、CDDPの3剤で術前化学療法を行い、切除腫瘍の病理学的な化学療法の効果判定で有効であれば、同じ3剤の組み合わせで術後化療を行い、効果不十分であれば3剤にIFMを加えた4剤の治療を行うことになります。

また、原発巣の外科的な切除が必要となります。上記の通り、広範囲な切除が必要なこともあり、機能回復に関する問題、上記のケースでは顔面ということで美容面での問題も起こりえます。

長く辛い治療、しかも生活に大きな支障をきたすこともあり、上記のような患者さん同士が助け合っていけるような交流があれば、と思われます。

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