手のひらからわずかな皮膚細胞を採取するだけのコレステロール検査で、健常者の心疾患リスクを評価できることが報告された。この検査法は、血液中のコレステロールと分子的に関連した物質である皮膚のステロール値に着目するもの。
 
9,055人を対象とした試験の結果、皮膚ステロール値とHDL(善玉)コレステロール、および炎症マーカーで心血管疾患の危険因子(リスクファクター)とされるC反応性蛋白(たんぱく、CRP)の値との間に強い相関が認められた。グラクソ・スミスクライン社のDennis L. Sprecher博士が、米アトランタで開催された米国心臓協会(AHA)動脈硬化・血栓症・血管生物学会議でこの知見について発表した。

今回報告された検査法は、カナダPreMD社が販売する既存の皮膚ステロール検査に改変を加えたもの。旧型の検査は現在ヨーロッパ、カナダで用いられており、米国では限定的に使用されている。この検査では、小型のプラスチック器具を用いて手のひらの表面から死んだ角質細胞を剥離し、細胞内のコレステロール値を測定する。

2005年、米ウィスコンシン大学のJames H. Stein博士が、この旧型検査により得られるコレステロール値が、超音波で測定した動脈壁の厚さおよび狭窄の評価と相関していることを報告しているが、新型の検査についてはこのような超音波での評価は実施されていない。また、旧型ではその場でコレステロール値がわかるが、新型の検査は検体を研究室に搬送して分析する必要がある。PreMD社のMichael Evelegh氏は、新型検査はまだ臨床試験を始めたばかりと説明している。

Evelegh氏は、この方式の検査は「保険加入の際などに、血液を採取せずにコレステロール検査をしたい場合に有用」と述べている。今回の研究は、生命保険加入のために検査を受けた被験者を対象とした。皮膚コレステロール検査が有効である理由は、血液中のコレステロール値よりも、血管壁に蓄積されるコレステロールが重要であるためだという。コレステロールが血管壁に蓄積されるなら、皮膚をはじめとする全身の組織にも蓄積されると同氏は説明している。

また、従来のコレステロール検査では検査前に絶食する必要があったが、この検査では絶食の必要がなく、朝食の内容によって結果が左右されない点も長所の1つだという。
(皮膚のコレステロール検査で心疾患リスクを評価)


コレステロールは、そもそも細胞膜やミエリン鞘(神経細胞の軸索を膜状に覆うもの)などの構成成分となっています。また、ステロイドホルモン、胆汁酸、ビタミンDなどの前駆体としての役割をもっています。

つまり、コレステロールは体内の重要な構成物であったり、必要な物質の原材料であったりするわけです。コレステロールは、体内で遊離型のほか、脂肪酸エステル(コレステロールエステル)として存在します。

血中では、血漿リポ蛋白質中に、主にエステル型として存在しています(リポ蛋白粒子を形成している)。血液中の脂質には、コレステロール、トリグリセリド(中性脂肪)、リン脂質、遊離脂肪酸などがあります。それぞれ、細胞膜の成分やエネルギー源としての役割をもっていますが、脂質はそれ自体水に溶けません(文字通り、水と油なので)。

ですので、アポリポ蛋白(または単にアポ蛋白)と結合した「リポ蛋白」という形で血中を運搬されるわけです。リポ蛋白には、カイロミクロン(CM)、VLDL(超低比重リポ蛋白)、IDL(中間比重リポ蛋白)、LDL(低比重リポ蛋白)、HDL(高比重リポ蛋白)が存在します。

食事性の脂肪は、吸収された後、腸でカイロミクロン(CM)に組み込まれます。血管内のリポ蛋白リパーゼ(LPL)により、カイロミクロンのトリグリセリド(中性脂肪)は、水解されます。また、水解とともに、脂肪組織や筋肉で消費されたりすることでも、カイロミクロンは小型のカイロミクロンレムナントになります。最終的に、レムナントは、肝臓のレムナント受容体に取り込まれると考えられています。

一方、超低比重リポ蛋白(VLDL)は、肝臓で合成された血管壁のリポ蛋白リパーゼにより、カイロミクロン同様にトリグリセリド(中性脂肪)が分解され、中間比重リポ蛋白(IDL)となります。中間比重リポ蛋白(IDL)はその後、コレステリルエステルに富む低比重リポ蛋白(LDL)になります。

LDLは肝をはじめとする末梢諸臓器へ受容体を介して取り込まれ、全身へのコレステロールの供給源となります。これが、悪玉コレステロールと呼ばれる由縁となるわけです。つまり、全身へコレステロールをバラ撒いてしまうわけですね。

逆に高比重リポ蛋白(HDL)は、簡単に言ってしまえば、余分な全身のコレステロールを肝臓に戻す役割をもっています(そのため、善玉コレステロールと言われているわけです)。

高コレステロール血症による影響は、以下のようなものがあります。
高コレステロール血症とは、血中のコレステロール値が増加する状態で、空腹時の総コレステロール(TC)値が220mg/dL以上、LDLコレステロール(LDL-C)値が140mg/dL以上の場合を指します。

高コレステロール血症は、それ単体では自覚症状を伴わいません。ですが、高HDL-C血症以外の高コレステロール血症は、虚血性心疾患や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症、腎動脈の硬化性病変といった動脈硬化性疾患の最も重要なリスクファクターであると考えられています(LDL-コレステロールは、動脈硬化症起因性のコレステロールとして知られている)。

ただ、日本動脈硬化学会の提唱する管理基準により、危険因子の数が増加するに伴い管理基準は厳しくなります。特に糖尿病の合併例(Bカテゴリー)や、脳梗塞や閉塞性動脈硬化症の合併例(Cカテゴリー)では、厳重に管理する必要があります。

LDLコレステロールの値は、食事により左右されるため、空腹時採血にて速やかに測定することが望ましいといわれています。また、ステロイド薬、経口避妊薬、β-遮断薬、サイアザイド系薬剤、アルコールなどで高値を示す傾向にあります。

治療法としては、食事療法、運動療法などによるライフスタイル改善が根幹にあります。カロリー制限・栄養素配分などに加え、1日3食の配分をほぼ均等にし、間食をしないなどの食生活の改善も重要です。

3〜6ヶ月観察しても管理基準に達しない場合には、薬物療法を開始します。ただ、動脈硬化性疾患を生じた症例や、LDL-C値が200mg/dLを超えておりライフスタイル改善のみではコントロール困難な症例では、早期から薬物療法を開始します。

薬物療法としては、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)、陰イオン交換樹脂、プロブコールのいずれか単独、あるいは適宜併用にてコントロールを図ります。ただ、高脂血症治療として、LDLコレステロール値が優位に上昇している場合はスタチン、中性脂肪値が優位に上昇している場合にはフィブラート系薬剤、あるいはニコチン酸誘導体を第1選択薬として用います。

上記のように、食事内容に左右されず、患者さんの身体に対する負担が少ないとなれば、有望な検査として期待されるものではないでしょうか。

【関連記事】
本当は怖い足の冷え−閉塞性動脈硬化症

「高脂血症」→「脂質異常症」に名前変更