静岡厚生病院(静岡市葵区)は2日、陣痛を訴え入院した静岡市内の妊婦(24)が先月27日、帝王切開の手術後に死亡したと発表した。同病院では「死亡に直結する医療ミスはなかった」としているが、2日までに異状死として県警に届け出た。司法解剖して死因を調べている。

病院によると、妊婦は平成19年9月に初診を受け、妊娠40週だった先月27日朝、陣痛を訴え入院。医師の診察で胎児の心拍がなく、胎盤のはく離が起きていたため、同日午前9時すぎ、帝王切開手術を行い、胎児が死亡しているのを確認した。妊婦は手術中にけいれんを起こし、意識レベルが低下。手術後の同日午後1時40分ごろ、死亡した。

玉内登志雄院長は「患者が亡くなったことを遺族におわびしたい」としている。
(帝王切開受けた妊婦死亡 静岡県警が司法解剖)


帝王切開術(cesarian section)とは、子宮壁を切開して胎児を娩出させる方法です。腹式帝王切開術と腟式帝王切開術とがありますが、行われているのはほとんど腹式帝王切開術です。

腟式帝王切開術とは、膀胱剥離後、子宮頸部と子宮下部の前壁を腟式に縦切開し、胎児を経腟的に娩出させる方法です。目的としては、妊娠中期の人工妊娠中絶法として行われていました。ですが、現在では、プロスタグランジン腟錠など安全な薬物投与による人工妊娠中絶法があるため、行われません。

一般に、帝王切開術というと、「腹式帝王切開術」を指すと思われます。腹式帝王切開術は、腹部に皮膚切開を加えて行う帝王切開術式で、麻酔は通常、脊椎麻酔や硬膜外麻酔ですが、全身麻酔のこともあります。皮膚切開は恥骨上を横切開する方法と臍下を正中に切開する方法があります。横切開は創部が目立ちませんが、術野が狭い短所があります。

帝王切開術が適応となるのは、
母体側の適応
狭骨盤や児頭骨盤不均衡、切迫子宮破裂、前回帝王切開、経腟分娩に母体が耐えられない
胎児側の適応
胎児仮死、胎盤の異常(前置胎盤、常位胎盤早期剥離など)、胎位、胎勢の異常(骨盤位、横位、回旋異常など)

などがあります。ですが、これらが重複することもあります。

帝王切開術におけるリスクとしては、以下のようなものがあります。
まず、術中のリスクとしては、多量出血が挙げられます。特に、既往帝王切開妊婦や前置胎盤、子宮筋腫合併、DICを合併する常位胎盤早期剥離などでは、多量出血のリスクがが予測されます。また、子宮筋層切開した裂傷において、大量出血が起こることもあります。こうした出血が起こり、止血が難しい場合には、子宮全摘が必要になることもあります。

さらに、子宮切開には子宮下部横切開法と体部縦切開法がありますが、通常、帝王切開は膀胱を剥離して子宮壁を切開する子宮下部横切開が選択されます。子宮下部横切開の場合、膀胱損傷を生じる可能性もあります。特に、妊婦に開腹手術の既往や強い癒着がある場合が問題となります。また、腸管損傷も起こる可能性があります。

また、帝王切開後の既往がある場合、次に分娩を行うときに子宮破裂の危険性が高まります。子宮破裂の頻度は、既往の切開様式が子宮下部横切開の場合には0.2〜2%,古典的縦切開の場合は4〜8%と言われています。

こうした術中の合併症の他に、術後の合併症も存在します。たとえば、肺塞栓症(肺動脈塞栓症)があります。肺塞栓症の発生率は、帝王切開後の発症は経腟分娩後の発症より5〜10倍高いと言われています。

妊娠・分娩時では、生理的に凝固能が亢進しており、妊娠子宮による血流の停滞、そして分娩時には静脈壁の損傷などが起こる可能性があり、深部静脈血栓が起こりやすくなっています。こうした血栓が肺動脈を閉塞し、肺塞栓症が起こります。

さらに妊娠中毒症や切迫早産で塩酸リトドリンを長期に使用していた場合、肺水腫や弛緩出血などによる術後の出血、ほかにも産褥感染症、癒合不全による出血、イレウス(腸閉塞)などが起こる可能性があります。

手術である以上、やはりリスクもあります。こうしたリスクを医療側もしっかりと説明し、納得いただくことが必要であると思われます。

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