国立感染症研究所 (東京都新宿区)によると、全国での感染件数は08年1〜4月で851件が報告されている。なかでも20歳以上の感染者が年々増加し、全体の40%を占める。20歳以上の割合が2%だった00年と比べると、08年は大人の感染者が激増していることがわかる。

地域別では、千葉県がもっとも多い。千葉県健康福祉部疾病対策課によると、08年1月からの4カ月間で、227人が感染した。そのうち20歳以上は170人で、75%を占める。感染者が多い理由について同課の担当者は、「千葉県だから多いという特定の理由はないと思う。県内の病院に注意を呼びかけているため、医師が発見する確率が高まったのではないか」と、話している。

百日咳の初期症状は軽い咳で、医師でも間違うほど、風邪の症状によく似ている。その後激しい咳の発作が起こる。夜間に目が覚めることや、咳き込んで肋骨が折れることもある。症状は約3週間も続く。

感染源は咳やくしゃみの飛び散りだ。国立感染症研究所に所属する内科医によると、「1人の患者から平均10人に感染する」と、麻疹(はしか)に次いで感染が広がる確率が高い。

07年には大学での集団感染も起こった。07年5月に香川大学で学生や職員75人が感染し、1週間休校になった。08年は、今のところ国立感染症研究所に報告はきていない。「だいぶ時間が経ってから情報が出る。伝わる頃には、既に感染が拡大している」と、懸念される。

百日咳の予防にもっとも有効なのは、ワクチンの接種だ。多くの人が乳幼児期に接種していて、乳児の感染数は年々減っている。一方で、20歳以上の感染者が増えているのはなぜか。

2つの原因が推測される。1つ目は、乳幼児期に接種したワクチンによって作られた免疫は持続期間が短く、年を取るにつれて低下する。2つ目は、ワクチンが普及して乳幼児期の感染者が減り、免疫を持たない大人が増えていることだ。

そこで、思春期にワクチンを接種する必要性を訴える声も上がっている。近年、大人の百日咳が大流行した欧米では、乳幼児期に加えて思春期にもワクチンを接種する機会を設けた。

国立感染症研究所では、感染者の実態調査を2008年5月から開始する。ホームページ上にデータベースを設けて、医師が感染者を診断した場合に、その情報を登録するよう呼びかけていく。
(「百日咳」2009年の大流行が心配)


百日咳とは、百日咳菌(Bordetella pertussis)による、長期間にわたる特徴的な激しい咳を主症状とする急性呼吸器感染症です。

潜伏期は1〜2週間で、病期はカタル期、痙咳期、回復期に大別されます。全経過は6〜12週間程度となっています。

カタル期
カタル期は、感冒症状(軽度の上気道症状)が1〜2週間持続します。

痙咳期
鎮咳薬などにより治療を行っても軽快せず、逆に咳がひどくなります。中枢性鎮咳薬には大きな効果は期待できず、かえって増悪することもあるので、百日咳が強く疑われる時には使用しない場合もあります。

この頃になると咳は、スタッカート様の短く連続的な咳になり、悪心・嘔吐を伴うようになります。ちなみに咳は、増殖した菌によって産生された毒素の結合により、気管支平滑筋が攣縮することで生じると考えられています。

さらに、せき発作は数回から十数回の連続的なせきに引き続き、吸気時には「ヒューヒュー」という吸気性笛声音を伴うようになります。せき発作と吸気性笛声音とを繰り返し(レプリーゼ)、透明粘稠な喀痰排出をもって咳発作が治まります。

発作時には顔面紅潮し、眼瞼浮腫、点状出血などを伴うことが多く、乳児、重症例などでは発作時にチアノーゼ、あるいは無呼吸発作を伴うこともあります。

回復期
痙咳期は2〜6週間持続し、以後は1〜3週間で次第に軽快していきます。ただ、回復していく最中にも気道感染を併発すると、痙咳期並みの症状を呈することがあります。

診断としては、特徴的なせき発作(レプリーゼ)とリンパ球増多があれば臨床診断は容易となります。CRPなどの炎症反応は陰性ですが、白血球増多が著明で、15,000/μl以上になることが多く、リンパ球優位(70%以上)となります(ただ、白血球数が正常な例もある)。

血清診断はPT(pertussis toxin)、FHA(filamentous hemagglutinin)に対するIgG抗体(EIA)の測定が推奨されており、確定診断はBordet-Gengou培地を用いて鼻咽喉スワブ、咳嗽飛沫からの百日咳菌分離によります。

治療としては、以下のようなものがあります。
投薬はカタル期に行えば有効で、マクロライド系抗菌薬が第1選択となります(痙咳期では軽症化は期待できない)。ピペラシリン、第三世代のセフェム系抗菌薬も感受性が高いと言われており、経口摂取困難な症例、重症例には適応があります。

百日咳毒素に対する抗体(抗毒素)を高力価で含む、免疫グロブリン製剤の大量静注が痙咳期においても軽症化に有効とする報告もあり、重症例などで用いられているケースもあるようです(ただし保険適応外)。

上記にもありますが、予防にはDPT接種が第一となります。また、接触後無症状のうち(潜伏期)にマクロライド系抗菌薬を2週間投与するのも有効であるといわれています。患者と接触のあった人は、こうした方策をとることも重要であると思われます(子どもで、まだDPTワクチン接種が3回以内の場合は追加接種)。

「風邪かな?」と思って、実は百日咳だった、ということもあるようです。疑った場合、すぐに病院に行って検査を受ける、といったことが必要であると思われます。

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