白内障で、視力の低下に悩んでいた東京都在住の女性医師(62)は、東京歯科大学水道橋病院で手術を受けた。目に遠近両用の眼内レンズを埋め込んだところ、0.3だった視力が、遠くを見た場合の視力は1.5、近くも0.8まで回復。車の運転も楽で、本も眼鏡なしで読めるため、「若いころに戻ったよう」と喜んでいる。

白内障は、目のレンズである水晶体が白く濁り、視力が落ちる病気。加齢に伴うものがほとんどだが、糖尿病や外傷などで起きることもある。治療は、水晶体を透明の人工眼内レンズに入れ替える手術が主流で、年間約100万件行われている。

手術はまず、角膜に約2ミリのすき間を開け、そこから超音波を照射、水晶体を細かく砕き吸引・除去する。その後、水晶体のあった場所に直径約6ミリの眼内レンズを入れる。点眼麻酔を使うため、強い痛みはなく、手術も15〜30分で終わる。

これまでの眼内レンズは、1か所だけにピントを合わせた単焦点のものが多かった。だが、遠くにピントが合うレンズを挿入した人は、新聞を読む時に文字がぼやけるため、老眼鏡が必要になる。逆に、近くにピントが合うレンズの人は、遠くを見る時に眼鏡が必要だ。

一方、遠くも近くも見やすいのが、多焦点眼内レンズだ。従来の製品は、夜の街灯や車のライトをまぶしく感じる欠点があったが、厚生労働省が昨年5〜6月に承認した2種類のレンズでは、そうした欠点も改善されたという。

多焦点レンズは、形状によって屈折型と回折型に分かれる。承認された2種類のうち、スイスのメーカーが作った「レストア」は回折型で、30センチ先と2〜5メートル先の遠近2か所にピントが合うため、読書や車の運転をよくする人に適している。米国製の「リズーム」は屈折型で、40センチ〜1メートル先の中間領域にピントが合いやすく、パソコン作業の多い人向きだ。

同病院眼科教授のビッセン宮島弘子さんらが、白内障の68人(136眼)に「レストア」を挿入したところ、88%が遠方視力0・7以上、近方視力も全例が0・4以上に回復した。

ただ、正常な水晶体と異なり、すべての距離でピントが合うわけではない。さらに角膜や網膜に病気のある場合、視力の回復は必ずしも十分ではなく、くっきり感(コントラスト)がやや低下する。ビッセン宮島さんは「こうした点を理解して、手術を受けるかどうか判断してほしい」と話す。

3000人に1人の頻度で、眼内炎で充血などが起き、治療が必要になるとの報告もある。製品の本格発売は今年に入ってからで、症例数の多い医療機関はまだ少ない。保険がきかないため自費診療となり、両眼で90万〜120万円かかる。
(白内障の眼内レンズ)


白内障とは、水晶体が混濁した状態の総称です。高齢者では加齢に伴うものが多く、若年者ではアトピー性皮膚炎患者に多く、その約1〜2割が白内障を生じるといわれています。

治療法としては、薬物療法や手術療法があります。薬物によって水晶体の混濁を軽減することは不可能であり、薬物療法は、混濁の進行を遅らせる目的で行われ、混濁の除去には、手術が選択されます。

薬物療法としては、白内障治療薬であるピレノキシン(カタリン、カリーユニ)、グルタチオン(タチオン点眼用)などがもちいられます。

手術に踏み切るかは、症例によって大きく異なりますが、目安として矯正視力がだいたい0.6くらいになると手術を考慮します(ただ、いくつ以下に視力が低下したらば手術というような視力による適応基準は決められていません)。

細隙灯顕微鏡にて水晶体の混濁の程度や範囲などを検査し、眼底検査なども十分行いって、視力低下の原因が白内障に起因するものかどうかを調べ、手術を行った際の術後の視力の程度も把握する必要があります。

手術は局所麻酔で行うことが多く、外来もしくは短期間の入院によって行います。成人に対する一般的手術方法としては、無縫合小切開超音波乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行います。

具体的な手術術式は、以下のようなものです。 
まずは麻酔(点眼・テノン嚢麻酔など、投与時の痛みの少ない麻酔で行うことも可能)を行います。水晶体の基底膜である水晶体嚢の角膜寄りのところを円形に切除し、ここから水晶体内容物(皮質・核)を超音波で破砕吸引しながら除去します。

中身のなくなった水晶体嚢に、プラスチック製の眼内レンズを挿入するということになります。術後の屈折度数は、挿入する眼内レンズの度数によって決まりますが、左右眼の度数を調整し、軽い近視となるように選択することが多いようです。

最近では、挿入する眼内レンズに付加価値をつけたものが多くなってきています。たとえば、上記のように多焦点眼内レンズでは、遠見と近見とも一定の視力が得られます。これにより、遠近が単一の眼鏡あるいは、眼鏡なしでみえる(遠近をかけかえる必要がない)ようになる場合があります。

他にも、非球面レンズでは、眼球全体の収差を減らし、夜間視力の向上につながります。着色レンズでは、色の見え方がより自然になり、網膜光障害を予防して眼鏡黄斑変性を予防する効果が期待されています。

上記のように、すべての距離でピントが合うわけではなかったり、角膜や網膜に病気のある場合、視力の回復は必ずしも十分ではなく、くっきり感(コントラスト)がやや低下することもあります。眼内炎で充血などが起き、治療が必要になる可能性もあります。また、現在では保険適応がきかず、高額な医療費負担をすることも必要になります。

こうした利点やリスクを考慮し、多焦点眼内レンズ治療を希望なさる場合、治療を行っている医療機関にご連絡をしてはいかがでしょうか。

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