僕のがんは、ワインじゃないけど「10年物」だと言われまして。30歳のときにはすでに腹の中にあったらしいんです。でも痛みもないし、まったく分からなかった。おかしいと思ったのは、40歳の春。飲み物がないと食べ物が通らなくなったんです。でも、ちょうどライブで思い切り歌を歌った後で、ポリープができたんだろうと。やせたのは、ダイエットが順調なんだとか、いい方に考えてしまって。

夏にラーメンを食べてもどしたのがきっかけで病院を受診しました。吐くと普通なら気持ち悪いのに、すっきり感があった。痛くないのに吐いたし、怖いなと。

なじみの診療所で胃カメラをのんだんですが、最初は余裕だったんですよ。先生もモニターを指して「ここに映るから」なんて。ところが、カメラが何かに引っかかった瞬間、先生が一生懸命モニターを隠そうとしたんです。ごつごつした岩のようなものがはっきりと映ってました。でも、それを見てもがんだと思わなかったんです。がんの家系なのに、自分だけは大丈夫だと信じてた。県立がんセンターを紹介されても、まだ、「がんじゃねぇだろう」と。だから、がんセンターで「決して初期ではありません」と、現実を突きつけられたときは、ショックでした。
 
臆病だったのか、死が怖かったのか。その晩から眠れなくなりました。眠ったら、腹の中でがん細胞が増えて、朝、目が覚めないんじゃないかと恐怖心があって。
 
ずっと仕事を最優先でやってきたのに、翌日のドラマ撮影のセリフが入らない。家族のことも考えられない。ただ「がんなんだ。がんなんだ」と、それだけ。逃げだそうとしたりね。一番逃げたいものからは、逃げきれないのに。
 
そんなとき女房が「万が一のことがあったら、私も死ぬから」と言ったんです。当時、子供は11歳、9歳、2歳。子供のことは「実家に頼もう。2人分の保険金があるから、大丈夫よ」と。ハンマーで殴られた気分でしたね。「1人じゃないんだ。自分の肩にはこいつらが乗ってるじゃないか」とやっと気づいて、手術を受ける決心がつきました。
 
恐怖心は消えません。だけど、照れなのか、思いと違う言葉が出てしまう。そんな気持ちを察し、女房が「交換日記をしよう」と。今思うと、気恥ずかしいんですが(笑)。「怖い」とか「眠れない」とか素直に書けました。ネガティブになる一方だった精神状態も、書いているうちにポジティブになって。救われた部分は大きかったです。
 
結局、がん宣告の1カ月後に手術しました。胃と胆嚢、脾臓を全部、食道を半分取って、6年目になります。手術直後は息をするのも痛かったし、ささいなことでイライラしましたが、今はいたって元気(笑)。食べる量も1人前じゃ足りません。
 
でも、気持ちはすごく変わりました。自分にとって何が大事なのか−。僕にとっては家族ですが、優先順位が明確になりました。仕事も昔は責任感でやっていましたが、今は僕が頑張ることで、たとえ1人か2人でも、同じ病気で苦しんでいる人やその家族に勇気や自信を与えられたらと。そんな使命感を感じます。
 
手術から3年後、先生から「開けても8割方ダメだろうって意見が大半だった」と教えられました。主治医が「やってみなきゃ分からない」と半ばごり押しで手術してくださったそうです。それを聞きホント怖かったし、「生かされてる」と実感しました。がんで40年の人生観がすべて変わりました。生きてることを喜べたり、反対につらく思ったり。そうしたことを昔よりずっとリアルに感じます。がんは僕にとって道しるべというか、勇気を与えてくれたものというか。仮に再発しても、もう怖くはないですね。
(がんと向き合って 元チェッカーズ・高杢禎彦さん)


広い意味では胃癌は、胃粘膜上皮から発生した癌腫(狭義の胃癌)と、上皮以外の組織から発生したがん(胃平滑筋肉腫・GIST・胃悪性リンパ腫など)の両方を含みますが、一般的には粘膜上皮から発生したもの(前者)を指します。

かつて、日本では男女とも胃癌が第1位でしたが、死者数は年々減少しています。2003年の日本における死者数は49,535人(男32,142人、女17,393人)で、男性では肺癌に次いで第2位、女性では大腸癌に次いで第2位となっています。近年増加率の低下がみられ、これは食生活の欧米化などによる環境の変化、検診などにより根治可能な胃癌が多数発見されるようになったこと、治療技術の進歩などの要因によると考えられます。

胃癌は、自覚症状による胃癌の早期発見は難しいです。ほとんどの場合、早期癌の段階では無症状であり、癌が進行してからでないとはっきりとした自覚症状が出てこないことが多いからと言われています。そのため、放置されてしまったり、逆に内視鏡検査などで早期発見されるケースもあります。

症状としては、腹痛や腹部〜胸部の不快感、吐き気や嘔吐を伴ったり、食欲減退、食事後の胃部膨満感や急激な体重減少などが起こってきます。他にも、下血や黒色便(血液中のヘモグロビンが胃酸によって酸化されて黒くなる)がみられることもあります。

胃癌の転移には、血行性転移、リンパ行性転移、腹膜播種があります。胃壁内での深達度が進むほど転移率は高くなり、血行性転移では肝や肺、さらに骨、脳、皮膚、腎などへ転移します。リンパ行性転移は所属リンパ節から始まり、遠隔リンパ節へ転移をきたしていきます。腹膜播種は、漿膜を越えて胃壁を浸潤した癌細胞が、腹膜に播種して癌性腹膜炎を起こして腹水を生じます。

肝転移すると肝腫大、黄疸などが起こってきます。腹膜に転移すると腹水、後腹膜に転移すると強い背部痛を認めます。その他、左鎖骨上窩リンパ節転移(Virchow転移)、Douglas窩への転移(Schnitzler転移)、卵巣転移(Krukenberg腫瘍)などがあります。

高度な進行胃癌となると、体重減少、食思不振、貧血、腹部腫瘤触知、嚥下困難などの所見を認めることがあります。末期では、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併することが多くなります。

治療方針などは、以下のように決定されます。
胃癌の治療方針は、「胃癌治療ガイドライン」などにより、腫瘍の大きさ・部位・拡がり、病期、全身状態、あるいは患者の希望など様々な要素を勘案し決定されます。

深達度がM(粘膜内)で、N0(リンパ節転移なし)、分化型、2cm以下、潰瘍形成なしであれば、内視鏡的粘膜切除術を行います。StageIIもしくはIIIAなら、2群リンパ節郭清を伴う胃切除術(これが標準的な手術法であり、定型手術と呼ばれます)を行います。StageIV(遠隔転移を伴う)なら、姑息的手術を行ったり、化学療法などを行います。

胃の切除は、部位によって胃全摘術、幽門側胃切除術(十二指腸側2/3程度の胃切除)、噴門側胃切除術(食道側1/2程度の胃切除)などに分けられます。

切除が終わったら、食物の通り道をつなぐために消化管再建が行われます。様々な再建法があり、個々の患者の状態に応じて選択されますが、代表的なものはBillroth I法(胃-十二指腸吻合)、Billroth II法(胃-空腸吻合)、Roux en Y法(食道or胃-空腸吻合)、空腸間置法(空腸で置換)などがあります。

現在では外科切除に加えて、内視鏡的治療や腹腔鏡下手術が行われるようになっています。一方、遠隔転移がみられたり、他臓器への浸潤が強く切除不能の例に対しては化学療法が行われていますが、まだ有効性は低い状態です。

外科的切除後にも経過観察が必要となり、胃内視鏡検査による残胃癌の早期発見、腹部CT、腹部USなどによる転移・再発の早期発見、血液腫瘍マーカー(CEA,CA19-9,CA72-4)による再発の予測などを行います。

諦めずに治療に臨んだ高杢さんの励みになったのは、やはり家族であったようです。そうした支えの中で、しっかりと治療できるということが、彼を救ってくれた大きな要因だったのかもしれませんね。

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