「出産日が近づき、わくわくします」 群馬県の主婦A子さん(36)は、大きくなったおなかをさすりながらにっこり笑う。来月、待望の第1子を出産予定だ。24歳で結婚したA子さんは子供を望んで2年たっても妊娠しなかった。検査を受けたが、子宮や卵管に異常はなかった。

不妊治療を始めて1回だけ妊娠したが、すぐに流産した。
これまで約10年間、採取した夫の精子を子宮に注入する「人工授精」を10回、体内から卵子と精子を取り出して行う「顕微授精」を4回繰り返したが、だめだった。

昨年、夫の転勤に伴い初めて受診した前橋市の横田産婦人科医院(今月から横田マタニティーホスピタルに改称)で、超音波検査の結果、子宮に米粒大のポリープが見つかった。同院理事長の横田佳昌さんは「いつポリープができたのかはわからないが、着床を妨げている可能性がある」と判断し、切除器具で取り除いた。その上で、排卵日に合わせて性交する「タイミング法」を勧めた。

A子さんはすぐに妊娠。この時は流産したが4か月後、再び妊娠した。「まだ気が早いけど、あと1人は欲しいかな」。A子さんの表情は明るい。夫婦で子供を望んでも2年間、妊娠しないことを「不妊」と言い、その原因は男女ほぼ半々だ。検査で夫婦にはっきりした異常がみられなければ、通常、タイミング法から始める。横田さんは、「半年程度は続ける」と話す。

読売新聞が全国の不妊治療施設に行ったアンケートで、タイミング法の継続期間を聞くと、30歳代前半が6周期(1周期はおよそ28日)、30歳代後半は3〜6周期、40歳以上は3周期という回答が多かった。

タイミング法で妊娠しなかったり、活発に動く精子の数が少なかったりする場合は、取り出した精子を子宮に注入する人工授精を行う。横田さんの施設で1年間に妊娠する不妊の患者約400人のうち、75%はタイミング法か人工授精で妊娠している。横田さんは「不妊だと思っても卵管や精子などに問題なければ、自然妊娠できる場合は多い」と説明する。

自然に近い形での妊娠を重視する施設もあれば、早い段階で体外受精や顕微授精を始める医療機関もあり、治療の進め方はまちまちだ。不妊治療のあり方を考える。
(初めは「タイミング法」)


不妊の定義(WHOによる)は、「避妊なしで2年以内に妊娠に至れない状態」となっていいます。妊娠に至れない状態を原発性不妊、一度以上の妊娠・分娩後妊娠に至れない状態を続発性不妊と区別する場合もあります。

不妊の分類としては、女性不妊、男性不妊、両性に原因がある複合不妊があり、それぞれおよそ1/3の頻度だといわれています。女性不妊としては、排卵障害、卵管性不妊(通過障害や卵管采のpickup障害など)、子宮性不妊(筋腫、腺筋症、内膜発育不全、内腔癒着など)、精子・頸管粘液不適合(免疫因子を含む)、子宮内膜症などがあります。男性不妊としては、乏−無精子症、無力精子症、奇形精子症、性交障害などがあります。

不妊症の検査としては、女性ならば基礎体温測定、経腟超音波検査、子宮癌検診、感染症検査(クラミジアなど)のほか、月経周期の適切な時期に内分泌検査、卵管疎通性検査(子宮卵管造影など)、性交後試験、子宮内膜日付診などを行います。他にも、必要に応じて腹腔鏡検査、MRIなどの画像検査、自己抗体検査などを行います。男性ならば、精液検査を行います。

こうした検査で原因が特定された場合、その治療を行うことになります。ただ、これらの検査を行っても、原因を特定できない原因不明不妊も10%程度存在しています。上記のように、検査で夫婦にはっきりした異常がみられなければ、通常、タイミング法から始めます。

タイミング法とは、以下のようなものを指します。
タイミング法とは、性交のタイミングを排卵に合わせるものです。月経の有無やその周期、量、月経時痛、性交痛などの問診や、基礎体温(低温相と高温相の2相性となっており、高温相の持続期間が12日以上であるかどうかを観察)から排卵日が月経周期の何日目ごろか確認するとともに、頸管粘液や尿中LH検出試薬などにより排卵日の予測を行います。確実なのは経腟超音波検査による卵胞径と子宮内膜厚の計測で、卵胞径が18mm以上に達したら尿LHを検査し、陽性であれば当日、陰性であればhCG製剤を投与して翌日の性交を行ってもらいます。

排卵日が定まらずタイミングを合わせづらければ、経口排卵誘発剤(クロミッドやセキソビットなど)を使用し、次いでFSH/hMG製剤により多発排卵を起こすこともあります。無月経や排卵障害がある場合は、それらの原因に合わせた治療、黄体機能不全に対しては、hCG製剤やプロゲステロン製剤を投与します。

妊娠例に限定した治療法別の累積妊娠率は、どの治療でも4〜5周期で妊娠例の約80%、8〜9周期で90%以上に達します。したがって、同じ治療を漫然と続けるのではなく、4〜5周期程度でカップルと相談して治療方針を再検討することが重要であると思われます。また、高齢女性では妊孕性の問題もあるので、治療のステップアップを早める必要もあります。

不妊で悩んでいらっしゃるならば、一度、不妊症外来などを訪れて相談されてみるというのも良いかと思われます。

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