子供も独立し、夫と楽しい第二の人生を送るはずだった主婦のA・Kさん(57)は、この春から姑と同居。何かと気を使うことが多くなった上、パート先でも新人の教育係を任され気苦労が増えていました。そんなある日、あわてて食べた訳でもないのに、なぜかクッキーが喉につかえて飲み込みにくく感じたA・Kさん。それはほんの小さな異変に思われましたが、その後も新たな異変が次々と襲いかかりました。
具体的には、以下のような症状が現れるようになりました。
こうした症状があらわれたため、A・Kさんは耳鼻咽喉科を受診しました。そこで告げられた診断は、以下のようなものでした。
具体的には、以下のような症状が現れるようになりました。
1)乾いた食べ物が飲み込みにくい
クッキーなど乾いた食べ物を飲もうとしたとき、むせてしまいました。慌てて水で流し込みましたが、乾いた物が飲みにくくなっていました。
2)歯に口紅がつく
同僚と話をしていたとき、歯に口紅がついていると指摘されてしまいました。
3)口が臭う
今まで言われたことがなかったのですが、口臭がきつい、と同僚に指摘されてしまい、それ以降は口腔ケアにより気を使うようになりました。
4)舌が痛む
ご飯を口に入れたところ、ピリピリと舌が痛むようになりました。
5)味を感じない
家族に「味付けが濃くなった」と言われましたが、本人には自覚がありませんでした。それ以降は薄味を心がけていました。ある時、外食をしたところ何を食べても味がしないという事態に陥ってしまいました。
こうした症状があらわれたため、A・Kさんは耳鼻咽喉科を受診しました。そこで告げられた診断は、以下のようなものでした。
A・Kさんは「ドライマウス(口腔乾燥症)」であり、その結果として味覚障害が生じてしまいました。
「ドライマウス(口腔乾燥症)」とは、何らかの原因によって口の中が乾燥してしまう病です。唾液分泌の減少により生じる口腔乾燥状態を示す症状名であり、口腔乾燥感のみの場合と、実際に口腔乾燥症状を呈するものとがあります。
現在、日本人の潜在患者数はおよそ800万人。予備軍を含めると、実に3,000万人以上がこの病にかかっていると考えられていると放送されていました。その原因は、唾液の分泌量の低下があると考えられます。
そもそも唾液は、食べ物の消化を助けたり口の中を清潔に保つなど、数多くの重要な役割を果たしている分泌液です。その分泌量は、実に一日約1.5リットルです。ところが詳しい検査の結果、A・Kさんの唾液量は、通常の10分の1にまで激減していました。
唾液分泌が減少すると、口内炎や口腔粘膜の萎縮変性、嚥下困難、齲蝕の進行や義歯の不適合などさまざまな不快症状を呈することになります。
A・Kさんの場合、唾液分泌の減少により口の中が渇き「乾いた食べ物が飲み込みにくい」という症状が現れました。これは「クラッカーサイン」と呼ばれるドライマウスの最も典型的な初期症状です。
唾液の分泌は、自律神経によってコントロールされています。リラックスして副交感神経が活発になると、唾液の量は増加し、逆に緊張し交感神経が活発になると減少します。A・Kさんのケースの場合、ストレスにより唾液分泌が低下していました。
さらに唾液量の低下により、口の中の雑菌の増加が起こりました。通常、口の中にいる常在菌は、唾液によって定期的に洗い流され、唾液の抗菌物質により一定量に抑えられています。ですが、唾液が減るとこの洗浄効果が低下し、カンジダ菌というカビの一種が一気に増殖し、炎症を引き起こしてしまいます。実際のドライマウスの患者さんの舌を見ると、カンジダ菌が増えた結果、白い苔のようなものが付いているのが判ります。これが「口臭」や「舌の痛み」の原因となっていたわけです。
この状態を放置した結果、ついに炎症は味を感じる味蕾にまで及び、その機能が極端に低下し、ほとんど味を感じることができなくなってしまいました。
診断としては、まず問診により基礎疾患の有無、常用薬剤のチェックを行います。次いで口腔粘膜の萎縮、口内炎や粘膜疾患の有無のほかに、齲蝕(虫歯)・歯周病や義歯の状態などを診てから、実際の唾液分泌量を測定します。
唾液分泌量を検査するには、安静時唾液量、刺激時唾液量(ガムテスト、サクソンテスト)があります。安静時唾液量1.5mL/15分以下、ガムテスト(ガムを10分間咬んで出てきた唾液の量を測定)10mL/10分以下、サクソンテスト(ガーゼに吸収した唾液量を測定)2g/2分以下で唾液分泌量低下と診断します。
こまめな水分摂取や、キシリトール配合ガムの咀嚼により唾液分泌は促進されます。また、唾液腺のマッサージ、舌や口腔の運動なども効果的です。口腔乾燥が強い場合には、保湿成分の入った洗口剤など(絹水、オーラルウエット、オーラルバランス)を用います。
外用剤として人工唾液であるサリベート(噴霧式エアゾール)、うがい液であるアズノール、イソジンガーグルなどがあります。内服薬としてツムラ麦門冬湯やツムラ白虎加人参湯などの漢方薬、去痰剤などが用いられることもあります。
上記のような症状が現れてお困りの方は、ドライマウスを疑って耳鼻咽喉科などを受診し、早期に相談することが大切であると思われます。
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「ドライマウス(口腔乾燥症)」とは、何らかの原因によって口の中が乾燥してしまう病です。唾液分泌の減少により生じる口腔乾燥状態を示す症状名であり、口腔乾燥感のみの場合と、実際に口腔乾燥症状を呈するものとがあります。
現在、日本人の潜在患者数はおよそ800万人。予備軍を含めると、実に3,000万人以上がこの病にかかっていると考えられていると放送されていました。その原因は、唾液の分泌量の低下があると考えられます。
そもそも唾液は、食べ物の消化を助けたり口の中を清潔に保つなど、数多くの重要な役割を果たしている分泌液です。その分泌量は、実に一日約1.5リットルです。ところが詳しい検査の結果、A・Kさんの唾液量は、通常の10分の1にまで激減していました。
唾液分泌が減少すると、口内炎や口腔粘膜の萎縮変性、嚥下困難、齲蝕の進行や義歯の不適合などさまざまな不快症状を呈することになります。
A・Kさんの場合、唾液分泌の減少により口の中が渇き「乾いた食べ物が飲み込みにくい」という症状が現れました。これは「クラッカーサイン」と呼ばれるドライマウスの最も典型的な初期症状です。
唾液の分泌は、自律神経によってコントロールされています。リラックスして副交感神経が活発になると、唾液の量は増加し、逆に緊張し交感神経が活発になると減少します。A・Kさんのケースの場合、ストレスにより唾液分泌が低下していました。
さらに唾液量の低下により、口の中の雑菌の増加が起こりました。通常、口の中にいる常在菌は、唾液によって定期的に洗い流され、唾液の抗菌物質により一定量に抑えられています。ですが、唾液が減るとこの洗浄効果が低下し、カンジダ菌というカビの一種が一気に増殖し、炎症を引き起こしてしまいます。実際のドライマウスの患者さんの舌を見ると、カンジダ菌が増えた結果、白い苔のようなものが付いているのが判ります。これが「口臭」や「舌の痛み」の原因となっていたわけです。
この状態を放置した結果、ついに炎症は味を感じる味蕾にまで及び、その機能が極端に低下し、ほとんど味を感じることができなくなってしまいました。
診断としては、まず問診により基礎疾患の有無、常用薬剤のチェックを行います。次いで口腔粘膜の萎縮、口内炎や粘膜疾患の有無のほかに、齲蝕(虫歯)・歯周病や義歯の状態などを診てから、実際の唾液分泌量を測定します。
唾液分泌量を検査するには、安静時唾液量、刺激時唾液量(ガムテスト、サクソンテスト)があります。安静時唾液量1.5mL/15分以下、ガムテスト(ガムを10分間咬んで出てきた唾液の量を測定)10mL/10分以下、サクソンテスト(ガーゼに吸収した唾液量を測定)2g/2分以下で唾液分泌量低下と診断します。
こまめな水分摂取や、キシリトール配合ガムの咀嚼により唾液分泌は促進されます。また、唾液腺のマッサージ、舌や口腔の運動なども効果的です。口腔乾燥が強い場合には、保湿成分の入った洗口剤など(絹水、オーラルウエット、オーラルバランス)を用います。
外用剤として人工唾液であるサリベート(噴霧式エアゾール)、うがい液であるアズノール、イソジンガーグルなどがあります。内服薬としてツムラ麦門冬湯やツムラ白虎加人参湯などの漢方薬、去痰剤などが用いられることもあります。
上記のような症状が現れてお困りの方は、ドライマウスを疑って耳鼻咽喉科などを受診し、早期に相談することが大切であると思われます。
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