読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
右足のかかとが痛みます。エックス線検査で、かかとの骨に1cmのトゲのようなものが写っていました。強い痛みは徐々になくなりましたが、鈍痛はあります。様子をみていて良いでしょうか。(66歳女性)

この相談に対して、元慶応大医学部教授である井口傑先生は、以下のようにお答えになっています。
かかとの痛みで最も多いのは、踵骨棘です。朝起きてからの第一歩が、ズキンとするほど痛いのに、洗面をして帰ってくるころには、治まっているのが特徴です。長時間座った後、歩き始める時にも痛みを感じますが、すぐ治まります。かかとの前側の内側を押すと痛いのも特徴的です。

整形外科を受診してエックス線写真を撮ると、踵の骨の下に棘のような骨(骨棘)が写り、これが原因であるとして「踵骨棘」と診断されます。足底腱膜炎と診断されることもありますが、同じものです。

男性では40、50歳代、女性は少し遅く50、60歳代に多く、早ければ3か月、遅くても3年以内に大半の人が自然によくなります。

最近の研究では、痛みは骨棘のためではなく、足底腱膜という足の裏に張っている腱の膜が、かかとの骨に付着する部分で少しずつ断裂を繰り返すためだと言われています。痛みも骨棘も断裂の結果なので、骨棘がなくても痛むことがありますし、骨棘がなくならなくても痛みは退きます。

骨棘とは、炎症や外傷、変性、腫瘍など骨に何らかの刺激が加わることにより生じる反応性の棘状の骨増殖性変化を刺します。

関節軟骨や椎間板への荷重や摩擦により、辺縁部では血管増生を伴い軟骨の肥大・増殖が起きます。初期は軟骨性増殖(軟骨棘)ですが、次第に骨化が進み骨の棘状の突起を形成するようになります(骨棘形成)。

踵骨棘とは、踵骨隆起内側突起に生じる骨棘で、正しくは短趾屈筋の付着部に一致しています。筋の付着部に働く牽引力によって生じる、一種の牽引性骨棘であると考えられています。踵部痛を訴える患者さんの約半数に認められますが、踵部痛との関連性は明らかではありません。

症状としては、起床後歩き始めるときに痛みに気づくのが典型的です。この痛みは長い間座っていた後、歩き始めたときにも生じます。踵の裏の、土踏まずが始まる周辺を押すと痛みが生じます。

どのような対処を行えばいいのか、井口先生は以下のようにお答えになっています。
痛みが徐々になくなる状態であれば、そのまま様子を見て心配ありません。断裂と修復を繰り返し、足底腱膜が伸びきってしまうと、もう断裂しなくなると考えられています。伸びきっても歩行や運動に支障はありません。特に有効な治療法もなく、経過観察していて問題はないでしょう。

ただし、歩けば歩くほど痛みが強くなる場合には、別の原因も考えられますので、再度、整形外科で診察してもらってください。

踵骨棘の治療としては、痛みの軽減が目的となります。足や土踏まずの部分にパッドを詰めたり、テーピングや矯正用具を使用して踵を安定させます。ふくらはぎのストレッチやアイスマッサージも効果的であるといわれています。

痛みの軽減のため、コルチコステロイド薬と局所麻酔薬の混合液を痛む部位に注射する方法もあります。ただ、上記のように経過観察でほとんどの痛みは治まっていくそうです。痛みが軽減されない場合、手術が行われることもあります。骨棘の切除や、足底筋膜の切除などといった手術が行われます。

症状が改善されないといった場合、整形外科を再受診されるといったことが必要になると思われます。

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