最近、近視矯正にレーシック、またはイントラレーシック手術が流行している……ような印象がある。スポーツ選手や芸能人、その他、高い視力が必要な職業の人々が広告塔になって「体験談」を語ることで、レーシック手術が安全でかつ視力矯正のトレンドであるかのような宣伝がサイトなどでも目立つ。

レーシックというのは、そんなに万能で安全なものなのか?
かくいう私も、テレビやゲームやパソコンの世代であり、かなり強度の近視である。ならば、レーシックとやら、やってもいいじゃないか、という気になるではないか。

そこで、レーシック手術で有名ないくつかの眼科に問い合わせてみた。ところが、宣伝でいうほどバラ色ではなかった。まず、レーシックは誰でもスンナリ受けられるものではない、ということを知らされた。長年のコンタクトレンズ使用で角膜が薄くなっている場合は不適、というのは経験者のブログなどにも書かれているが、実はもっと重大な禁忌事項があった。

強度の近視を、強い眼鏡で矯正したことなどが原因で、視神経の乳頭に陥没の所見があると、眼圧に問題がなくても(つまりその時点で緑内障と診断されていなくても)待ったがかかるのだ。

「眼圧が正常でも、正常眼圧緑内障という場合を警戒します。もし緑内障の可能性があったり、または緑内障と診断されている場合は、屈折矯正治療を受けてもよいという診断書が必要になります」(S眼科)

イントラレーシック手術後は眼圧が下がる傾向にあるため、眼圧をコントロールしなければならない緑内障の診断の妨げになるからである。かんたんにいえば、レーシック手術によって緑内障の進行を見落としてしまうかもしれないわけだ。緑内障といえば、近視よりも怖い失明の危機もある。この点は、レーシック手術を宣伝するサイトには決して書かれていないことだ。聞いておいて良かった。

また、40代以降で手術を希望する者には、こんな問題もある。
「レーシック治療では近視・乱視を矯正することは可能ですが、老眼は治療できません。既に老眼が始まっている方がレーシック治療を受ると、手元の細かいものなどを見る際には老眼鏡が必要となってくるデメリットがあります」(Kクリニック)

老眼が始まっていても40代ぐらいの近視の人なら、新聞を近づけることで裸眼で読むことができるだろう。ところが、術後はいうなればコンタクトをつけたに等しい状態になるから、遠くのものはよく見えるようになっても、逆に裸眼で近くのものを確認することができなくなる。いったん削った角膜は元に戻らないので、そうなってから「手術前の方が良かった」といっても後の祭りだ。

さらに、「矯正視力が十分出ていない場合には手術が難しい可能性が高くなります」と、手術による成果の「限界」もあると教えてくれたのはNクリニック眼科だ。近眼の誰でも、画期的に目が良くなるとは限らないというわけだ。

眼科によっては、レーシックやイントラレーシックが不適な場合、たとえば「角膜内リング」のような、白内障のような矯正を行うこともあるという。ほう、代替案があるのか、と喜んだのもつかの間、A生命にその点を尋ねたところ、こう回答してくれた。

「レーザーによる矯正手術は、一般に医療保険の対象になります。つまり、レーシック手術は生命保険の医療保険に入っていた場合、所定の保険金が支払われます。ただし、それ以外の矯正術については、おそらくは他社もそうだと思いますが、支払いの対象にはなりません」

今度はコストの問題が立ちはだかるわけだ。
矯正手術は健康保険の対象になっていないため、すべて自費である。医療保険の保険金が出るかどうかの問題は大きい。レーシック手術をしようとした人が、手術不適と診断され、他の方法を受けたら保険金が出なかった、ということもあるわけだ。

さらに、レーシック手術は、一般に成人してから手術すれば、生涯その矯正視力が維持されるといわれるが、私のように、ツカサネット新聞への投稿等、パソコンを日常的に使う者は、かりに視力が矯正されても、また戻ってしまう場合もかもしれないという忠告もある。

もちろん、レーシック手術によるメリットも大きいから、多くの人が受けるのだろう。ただ、いずれにしても、、バラ色の宣伝に目を奪われず、どんなものにもメリットやデメリット、適不適があり、それらを総合的に考えなければならないということを改めて感じた。
(【徹底取材】「レーシック手術」の虚実)


レーシック(LASIK:Laser in Situ Keratomileusis)とは、角膜屈折矯正手術の一種で目の表面の角膜にエキシマレーザーを照射し、角膜の曲率を変えることにより視力を矯正する手術のことです。

マイクロケラトームとよばれるカンナのような機械で角膜の表面を薄く削り、フラップ(ふた状のもの)を作り、めくります。そこで露出した角膜の実質部分にエキシマレーザーを照射し、角膜の一部を蒸散させます。その後フラップを元の位置に戻し、フラップが自然に接着するまで(約2〜3分)待ちます。

屈折矯正手術としては、エキシマレーザーを用いて角膜表層実質を切削するレーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)とレーザー角膜切削形成術(レーシック;LASIC)が一般的であるといわれています。中でもレーシックは、術後の痛みはほとんどなく、裸眼視力も術後早期より安定し、上皮化混濁も基本的に起こらないため、いわば主流となっていると思われます。

レーシックを避けた方が良い場合というのは、以下のようなものがあります。
・膠原病、自己免疫疾患の患者さん
・妊婦、授乳中の人、または妊娠の可能性がある人
・糖尿病
・ステロイド内服治療中
・ケロイド体質
・散瞳をきたす薬剤の使用
・18歳未満
・1年以上安定していない屈折
・450μm(500μm)以下の角膜厚
・小角膜
・平均値より大きくはずれた角膜曲率半径
・円錐角膜、不正乱視
・活動期の虹彩炎、角結膜炎 炎症の増悪
・重症ドライアイ
・緑内障

角膜厚が足りなかったり(450μm以下の角膜厚)、小角膜など眼自体に問題があったり、合併症(白内障・緑内障・網膜剥離・結膜炎など)がある場合などでは、適応できない人がいます。また、全身疾患との関連で、膠原病、自己免疫疾患の患者さんでは創傷治癒に障害をきたす可能性もあり、ドライアイの合併によりレーシック治療が行えない場合があります。

さらに、比較的新しい手術法であるため、長期的な予後はどうなのか、といった問題もあります。現に、以下のような合併症が現れているケースもあります。
低いとはいえ、他の手術同様に失敗や、術後合併症(感染症など)のリスクがゼロではありません。レーシック手術の副作用と思われる角膜拡張症が1%とはいえ、認められています(スペイン、ミゲル・エルナンデス大学およびトルコ、アンカラ大学医学部の研究グループによる研究)。

「角膜拡張症(keratectasia)」とは、潰瘍や炎症、変性、屈折矯正手術などの原因で菲薄化した角膜が、眼圧の影響によって前方に膨らんだ状態です。こうなると、再び角膜のカーブは強くなり近視化するばかりか、メガネでは矯正できないくらいの強い乱視を引き起こす可能性があります。これは、強い近視を矯正したり、円錐角膜などを見逃して近視、乱視を矯正した場合に起こるといわれています。

一過性にハロ・グレアが起こることもあります。これは、夜間や蛍光灯の下でまぶしく感じたり、光の周りがぼやけて見えたりする症状です。手術で修正した角膜の内側と外側で光の焦点に違いの出てしまうことが原因といわれています。他にも、一時的にドライアイになることもあります。

視力が十分に出なかったり、さらに、術中のトラブルでフラップ作成が不完全になり上皮剥離を起こしてしまったり、術後早期に目を強くこすったり、ぶつけたりすると、まれにフラップがズレてしまう可能性があり、不正乱視の原因となってしまうこともあります。

たしかに、眼鏡もコンタクトも不要な生活というのは便利かもしれません。ですが、こうした合併症も起こりうるということを、しっかりと理解して手術を受けられることが重要であると思われます。

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