読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
ものが二重に見えるようになったため診察を受けたところ、「目を動かす筋肉のバランスが悪い」と言われました。病名と治療法を教えてください。(73歳男性)

この相談に対して、さど眼科院長である佐渡一成先生は、以下のようにお答えになっています。
ご相談者は、左右の目の向きが異なる「斜視」が生じ、ものが二つに見えている状態だと思われます。

通常、二つの目は見ようとする像に向かって連携して動いています。左右それぞれの目で見ている像を脳は同じものだと判断し、一つに見えているのです。

しかし、何らかの原因で目を動かす筋肉や神経のバランスが崩れると、それぞれの目が向いている方向や動きの連携が崩れてしまいます。左右で見た異なる像を脳で重ねると、二重写しになり、本来、一つに見えるものが二つに見えてしまうのです。

斜視には、脳や神経の異常によるものもあるので、早めに脳神経外科などにかかり、詳しい検査を受けましょう。原因になっている病気が見つかれば、それを治療することが必要です。

斜視とは、眼位(正面から見た時の眼球の位置、眼の向き)の異常をきたして、両眼の視線が目標に向かわず、一眼の視線が目標とは別の方向へ向かっている状態を指します。

簡単に言ってしまえば、片方は見ようとするものを見ているのに、反対側の目が目標と違う方向を向いている状態です。斜視では、こうした眼位の異常のほかに、両眼視機能の異常や、弱視を伴うこともあります。

種類としては、眼位ずれの方向により「内斜視(両眼で見た時、一眼が内側に偏位する眼位の異常)」、「外斜視(両眼の視線が目標に一致せず、一眼の視線が外側にずれるような斜視)」、「上斜視(一眼が上転している上下眼位の異常)」、「下斜視(一方の眼が正面を向いている時に,他方の眼が下方を向いている状態)」、「回旋斜視」などがあります。

原因によっても分類され、遠視、両眼視異常、視力障害、眼筋麻痺などがあります。起こり方によっては、恒常性、間歇性と分けられ、発症時期では先天性、後天性と分けられます。

必要な検査としては、以下のようなものがあります。

視力検査では、調節麻痺剤を用いた屈折検査で3〜4ジオプトリー以上の遠視が確認されれば、屈折性の弱視、調節性の内斜視を疑います。

眼位検査は、ペンライトを用いた角膜反射像の位置から、斜視の概診が可能となります。また、頭位検査では、上斜筋麻痺では異常頭位の方向とは逆へ首を傾斜させたとき、傾斜側の眼が上転するといった特徴的な所見がみられます。

カバーテストも行われ、この検査では5mほど先にある遠見指標や、30cm程度の近見指標を見せておき、片眼を遮蔽します。もう一方の目を見て、全く動かなければ正視、内側に動けば内斜視、外側に動けば外斜視と判断できます。

必要な治療としては、以下のようなものがあります。
二つに見えているものを一つに見えるようにするには、特殊なレンズを使った眼鏡をかける方法や、手術があります。これらを併用することもあります。

手術では、眼球を動かす筋肉の位置をずらすなどして筋肉の強さを調整し、目の位置を補正します。最近は、目を動かす筋肉に「ボツリヌス毒素」を注入し、目の位置を調整する治療法もありますが、保険適用ではありません。いずれの治療法にも一長一短があるので、治療を受ける際には、主治医とよく相談してください。

なお、成人と小児の斜視には、発症原因や治療法など異なる点が多くあります。今回の説明は成人になって発症した斜視についてのものです。

治療の意義としては、小児では視覚の感受性期間内に、眼位の矯正とともに両眼視機能の獲得を行うこと、成人では眼精疲労や複視の改善、整容的改善といったことがあげられます。

成人では斜視になると複視を自覚して生活に支障が出ることが多いですが、小児の場合では、複視を自覚せずに抑制がかかるようになるため、日常生活は比較的不自由なく行うことができるそうです。ですが、いつも同じ眼が斜視になっていると、抑制がかかり続けることになり、斜視眼が弱視になるという可能性があります。そのため、早期の治療が必要になるわけです(特に、弱視治療は視覚感受性期間内に行わなくてはならない)。

斜視治療の基本方針としては、屈折異常の矯正をしたうえで、斜視角の大きなものには手術療法を行います。手術以外では、プリズム療法、視能訓練があります。遠視による調節性内斜視の場合は、矯正眼鏡を使用します。麻痺性斜視の場合、手術のほかにボツリヌス治療(ボツリヌス毒素の局所注射)も行われることがあります。

手術としては、非麻痺性斜視では両眼の対称手術(内斜視では両眼の内直筋の後転、外斜視では両眼の外直筋の後転)、もしくは斜視眼の前転・後転手術を選択することが多いようです。また、麻痺性斜視では、麻痺筋の拮抗筋の減弱手術が第一選択となり、次いで麻痺筋のともむき筋の減弱を行います。

正面から光を当てた際、瞳孔の中央にくるはずの反射点が、瞳孔の直径程度以上ずれていれば手術の対象となるといわれています。現在では40分ほどの日帰り手術でも完治可能であり、費用も保険適応となり2万円台といわれています。悩まれている方は、一度、眼科で相談されてはいかがでしょうか。

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