骨のがんと言われる骨肉腫。4月、あごの骨肉腫で左下あごを切除した兵庫県の男性(36)の妻(36)からの手紙を掲載した。男性は顔が変形し、食べるのに不自由する。珍しい病気で情報がない……。情報提供を呼びかける記事に、約60通の励ましのお便りが届いた。

「紙面を拝見し、たまらずペンを執りました。ここまで自分の境遇に似た人に出会うとは。写真すら自分の姿に見間違うほど」
鹿児島県霧島市の海運会社勤務、榎田剛さん(39)は、こんな手紙を送ってくれた。紹介した男性と同じ左下あごの骨肉腫。「手術後の苦労も痛いほど読み取れました」

鹿児島へ飛んだ記者を出迎えたのは、髪をそり上げた精悍な男性だった。自宅の庭で750ccのオートバイを手入れしながら、近くで遊ぶ長男正裕君(14)と長女ひかりちゃん(11)に優しいまなざしを向ける。

「家族と会社の同僚、オートバイが支えてくれた5年間でした」と語り始めた。
2003年春、あごの先にかすかなしびれを感じ、がんがわかった。鹿児島大病院で、左下あごを切る手術と抗がん剤治療を受けた。入院は7か月に及んだ。

毎日帰宅できるようにとの職場の配慮で、長距離トレーラーの運転手から、港で積み荷を運ぶ車両の運転手に配置換えになった。翌年、上あごへの再発がわかった。上あごを削り、放射線で治療した。その後遺症で左ほおに穴が開き、胸の筋肉をほおに移植して穴をふさいだ。

一昨年、昨年と左肺への転移が見つかり、そのたびに手術を受けた。
受けた手術は計8回。最初の手術で顔を走る神経が切れ、顔の左半分が動かない。左耳も聞こえない。

「食べづらい、話しづらいことが、こんなに不自由だとは」。患者にならないとわからないことがある。だから、病院でもほかの患者に積極的に話しかける。「再発しても『まだ手術で取れる』と思えるのは、仲間の話を聞いたから」

今年3月、右目の上に影が映り、再発の可能性を指摘されたが、先月の再検査で影は消えた。「不安のピークから、安堵の極地に舞い降りた瞬間でした」

休日には子供の一人をオートバイの後ろに乗せ、父子二人、山に泊まりがけのキャンプに行く。「強くて、優しいお父さん。早く元気になって」とひかりちゃん。日々、心は揺れる。それでも、今日この1日、一家の大黒柱として家族を支える手応えはある。
(8度の手術後も大黒柱)


最初に手紙を寄せた男性は、男性は昨年夏、左の奥歯から顎の関節にかけて、鈍い痛みを感じたそうです。気にかけずにいましたが、9月下旬ごろ、左頬が腫れ、痛みが少し強くなりました。

翌月、近くの歯科医で「顎関節症」と言われました。顎関節症の場合、口を開けるとポキポキ音がすることが多いということですが、この男性にはそういう症状がなく、念のため、会社近くの大学病院で意見を聞いたそうです。

すると、大学病院の歯科医は男性の頬の腫れを見て顎関節症とは異なると思い、様々な画像診断や細胞を採取する検査で、下顎の「骨肉腫」と診断されました。そこで、左の下顎の3分の1と歯、頬の筋肉や神経も切除する手術を受けました。さらに昨年12月から、抗癌剤治療を始めたそうです。

手術の結果、顔の輪郭が凹んでしまい、物を噛むことが難しくなってしまいました。相貌の変化や食事が難しくなるといったことや、そして何より周囲に同様な病気や治療を受ける人がおらず、非常に心細く思っている、と綴られていました。

骨肉腫とは、骨(骨と骨芽細胞層の間に位置する類骨も)をつくる骨発生の肉腫を指します。骨肉腫は代表的な骨の悪性腫瘍であり、腫瘍細胞が骨組織を作るという特徴をもっています(腫瘍細胞が、直接類骨あるいは幼若な骨を形成する能力をもっています)。

原発性悪性骨腫瘍の中では、骨肉腫が最も多く、ほかにも多発性骨髄腫、軟骨肉腫、Ewing肉腫、悪性線維性組織球腫、悪性リンパ腫といったものが頻度として多いです。

上記のように、頻度は稀であり,人口100万人に1〜2人とされています。好発年齢は10歳代で、とくに15〜19歳や高年者に好発します。膝の周り(約半数例は、大腿骨遠位骨幹端に発生します。次は脛骨近位側に後発します)、肩の骨(上腕骨近位側)にできやすいです。他にも、頻度としては少なくなりますが、骨盤や脊椎、下顎などに発生することもあります。症状としては痛みを感じたり、局所の腫れを伴うことがあります。

必要な検査としては、以下のようなものがあります。
まず、局所所見で腫脹を見逃さないことが重要となります。上記のケースでも、同様に腫脹がみられています。

さらに単純X線像で悪性所見を見落とさないことが重要となります。この単純X線像の所見も大切で、いわゆる虫食い像や浸潤像を示す溶骨性病変、辺縁不正な骨硬化像などが髄内に認められます。

溶骨性病変(周囲の骨から抜けてみえる)は見落としにくいですが、硬化性病変が見落されることが多いそうです。特に、若年者で硬化性病変があれば、必ず骨肉腫を念頭において診断を進めるべきと考えられています。

他にも、骨皮質の破壊,連続性の消失あるいは骨膜反応などがみられます。単純X線像で、こうした悪性所見を見落とさないことが重要です。

造影MRIで造影され、MRI像では骨外腫瘍像が認められ、血管造影で腫瘍濃染像が認められます。さらに、MRIは生検する部位の想定にも重要であり、さらに化学療法の効果判定、腫瘍広範切除における切除範囲決定にも必須となっています。

確定診断は、生検(針生検または切開生検)を行います。針生検または切開生検を施行し、迅速病理検査や迅速細胞診を行います。

方法としては、全麻にて針生検または切開生検を行い、迅速病理検査および迅速細胞診を行い、骨肉腫であれば中心静脈ラインの一種のヒックマンカテーテルを挿入します。

診断確定の翌日からは、全身化学療法を開始することになります。
骨肉腫の化学療法は、
・ADR(アドリアマイシン)
・MTX(メトトレキサート)
・CDDP(シスプラチン)
・IFM(イホスファミド)

の4剤が現在キードラッグとなっており、これらの組み合わせであるNECO-95Jプロトコール(厚生労働省悪性骨腫瘍研究班による多施設共同研究に基づく化学療法レジメン)を行います。
 
まずはADR、MTX、CDDPの3剤で術前化学療法を行い、切除腫瘍の病理学的な化学療法の効果判定で有効であれば、同じ3剤の組み合わせで術後化療を行い、効果不十分であれば3剤にIFMを加えた4剤の治療を行うことになります。

また、原発巣の外科的な切除が必要となり、上記のように顔面において生じたとなると、審美的・機能的に大きな問題となります。ですが、その問題を乗り越え、榎田のように暮らしてらっしゃる方もおられます。同様に悩まれてらっしゃる方は、参考にされてみてはいかがでしょうか。

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