読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
孫が中学3年生の時、摂食障害になって体重が減り、月経が止まりました。高校2年になった今は、体重もだいぶ回復しましたが、月経は止まったままです。どうしたらいいでしょうか。(祖母74歳)

この相談に対して、芳賀赤十字病院産婦人科部長である渡辺尚先生は、以下のようにお答えになっています。
脳の中にある「視床下部」と「下垂体」というところから、「卵巣」を刺激するホルモンが分泌され、卵巣がそれにうまく反応すると、定期的に排卵して月経が順調に起こります。

やせて栄養状態が悪くなると、脳が「このような状態で妊娠すれば生命の危機に陥る」と判断します。視床下部―下垂体―卵巣と連絡するホルモン経路が機能しなくなり、その結果、無月経になります。

子孫を残そうとする働きは、本人の生命を維持することとは直接、関係ないため、後回しにされます。これは生物として当然の働きです。

このため、月経の回復には、体重の回復が必須条件です。少なくとも無月経になった時の体重、あるいは初経時の体重が必要です。

無月経とは、生殖年齢にある女性において一定期間月経が発来しない状態を指します。18歳になっても初経をみない原発性無月経と、月経を経験した女性が一定期間(3か月以上停止)月経をみなくなる続発性無月経とに分けられます。上記のケースでは初経は迎えており、続発性無月経にあたります。

月経が起こるためには視床下部、脳下垂体、卵巣、子宮が正常に機能していることが必要となります。したがって、このいずれかの部位が障害されると無月経となり、おのおの、視床下部性、下垂体性、卵巣性、子宮性と呼んでいます。

続発性のものには神経性食欲不振症、減食性無月経、ストレス性無月経、高プロラクチン血症などの中枢の異常、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺や副腎の機能異常、糖尿病などが代表的なものです。

一般的に20歳前後の女性が減食により、体重が半年以内に20%程度減少すると視床下部性の無月経となるといわれています。また過度の運動、高度な精神的苦痛も無月経の原因となりえます。

治療に関しては、以下のようなことが考えられます。
ご相談のように、体重が回復したのに月経が回復しないという人もたくさんいます。

これは、摂食障害による無月経が、体重減少だけによって起こるのではなく、ストレスなど、体重が減ったこと以外の要因が複雑に絡み合っているためだと考えられるからです。また、無月経の期間が長いほど、月経の回復が遅くなるというデータもあります。

ただ、体重が回復したということは、月経が正常化するための非常に大きな一歩であることには違いありません。体重が回復したのであれば、排卵を促して月経を回復させるためのホルモン治療を行うことをお勧めします。ぜひ、婦人科を受診して下さい。

視床下部性無月経のうち過度のダイエット、ストレス、肥満などによるものなどは、適切なアドバイスで原因が除去されれば月経が正常化することが多いといわれています。

神経性食欲不振症の無月経では、消退出血を起こす治療は貧血や体力の消耗につながるため、標準体重の70%以下の場合は行わないほうがよいといわれています。ですが、体重が回復したのならば排卵を促すことも勧められると思われます。

摂食障害は、治療は年の単位となるのが一般的で、周囲や治療者が焦らないことが重要です。しかも、神経性食欲不振症では治療抵抗性が強いといったこともあります。あまり過度に心配なさらず、背景の心理的葛藤などを理解し、本人の自立を根気よく精神的に援助していく姿勢が必要であると思われます。

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