肝臓がんの年間死亡者数は約3万4000人で、がん死の第4位。原因のほとんどは、C型やB型の肝炎ウイルス感染だ。治療には、がんを切除する「外科手術」や、がんに栄養や酸素を供給する血管を詰める「肝動脈塞栓術」、肝臓に針を刺してがんを焼く「ラジオ波治療」などがある。

しかし、再発を繰り返し、肝臓がんや肝硬変が悪化して亡くなることが多く、最後の手段が「肝臓移植」となる。ほとんどは近親者から肝臓の一部をもらう「生体肝移植」で、肝臓がんの移植治療にも2004年から保険が適用された。

対象は、
1)がんが1個だけなら直径5センチ以下
2)複数あるなら、直径3センチ以下のがんが3個まで

移植治療が効果的な病態として国際的に認められた「ミラノ基準」が、日本でも採用された。しかし、どの時点で基準を満たしていればいいのか、定まっていなかったため、保険の扱いで混乱を招いていた。

大阪市の女性(58)は1997年、肝硬変から肝臓がんに悪化した。ラジオ波治療などを受けたが、がんは再発した。2005年6月、「3センチ以下のがんが2個」と、ミラノ基準に合致。大阪大病院で、長男が提供する生体肝移植を受けた。

しかし、診療内容の審査機関から「保険不適用」とされ、女性の家族は治療費の一部150万円を支払った。判断の論拠は明らかにされていないが、移植前に治療で消した肝臓がんの数も加えると、ミラノ基準を外れると解釈されたらしい。同様の事例が全国で起こっていた。

そこで厚生労働省は、
1)前の治療が終了した日から3か月以上経過
2)移植日の1ヶ月以内に行われたCT検査の結果でミラノ基準を満たす

ならば保険で認められるとの通知を昨年6月に出し、条件は整った。

ただし、この通知内容の理解が広がっているとは言えない。京都大では、肝臓がんに対する生体肝移植は03〜06年は年に21〜29件行われていたが、07年は11件に減った。

京都大移植外科准教授の江川裕人さんは「移植の基準が明確になったにもかかわらず、新基準の内容を詳しく知らず、患者や主治医が移植に踏み切れない例がある。助かる命が失われているとすれば残念です」と話している。
(肝臓がんの生体肝移植)


肝癌とは、肝臓に発生する悪性腫瘍の全てを指し、原発性肝癌と転移性肝癌に大別されます。原発性肝癌には肝細胞由来の肝細胞癌、胆管細胞由来の肝内胆管癌(胆管細胞癌)、胆管嚢胞腺癌、混合型肝癌(肝細胞癌と胆管細胞癌の混合型)、肝芽腫、未分化癌、その他に分類されます。

原発性肝腫瘍では、肝細胞癌と胆管細胞癌が95%を占め、中でも肝細胞癌が最も頻度が高くなっています。肝細胞癌は原発性肝腫瘍の中では最も頻度が高く、肝細胞癌と胆管細胞癌の比は約26:1です。

原因としてはB型肝炎ウイルス(HBs Ag陽性15%前後)およびC型肝炎ウイルス(HCV陽性75%前後)の長期にわたる持続感染が大多数を占め(肝炎ウイルス感染の関与が9割以上を占めている)、原発性肝細胞癌の9割がなんらかの肝病変を併発しています。

肝癌に特有の症状は少なく、肝炎・肝硬変などによる肝臓の障害としての症状が主なものです。わが国の肝癌は、肝炎ウイルスの感染にはじまることが大部分であり、日本では80〜90%に肝硬変(主として乙型)を併存しています。

早期肝癌では、特有の症状は乏しく、併存した肝病変の症状を呈します。肝炎・肝硬変のために医師の診察を受ける機会があり、肝癌が発見されるというケースが多くみられるようです。進行肝癌となると、全身倦怠感や上腹部〜右季肋部痛、腹部腫瘤。発熱、ショック(肝癌が壊死に陥り出血した場合)などが起こります。

また、腫瘍随伴症候群として、稀ですが低血糖や赤血球増加症、高コレステロール血症、高Ca血症(腫瘍のホルモン様物質の産生、腫瘍代謝の異常など)をきたすことがあります。

治療、とくに生体肝移植に関しては、以下のようなことが言えると思われます。
生体肝移植とは、生体ドナーからの肝臓の一部を移植する肝移植です。移植の適応は「進行性の肝疾患に罹患し、肝移植が最善の治療法と判断される場合」であり、かつ禁忌条件がなく、患者および家族が移植を希望している場合となっています。

移植が必要な場合としては、急激に肝障害をきたす急性肝不全(劇症肝炎、亜急性肝炎、遅発性肝不全)と、慢性肝不全に大きく分けることができ、さらに肝癌のように悪性腫瘍、代謝性疾患も移植の対象になります。

肝癌の場合、画像診断で肝外転移、血管浸潤がなく、しかもミラノ基準(単発かつ腫瘍径5cm以下、または腫瘍数3個以内で腫瘍径3cm以下)を満たすものを移植適応とすることが多いようです。ですが、上記のように拡大する傾向もあります。

新基準が浸透することにより、さらに多くの方々が生体肝移植をうけられるようになれば、と望まれます。

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