読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、調布東山病院顧問である藤本吉秀先生は、以下のようにお答えになっています。
橋本病は、甲状腺腫大を伴う代表的な自己免疫疾患で、甲状腺特異抗原であるサイログロブリン(Tg)と甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)に対する自己免疫機序により、甲状腺に慢性の炎症が起きた状態です。
圧倒的に女性に多く、男女比でいえば1:10〜20となっており、成人女性の3〜5%という頻度で認められます。上記にもありますが、きわめて緩徐に進行するため様々な状態となります。出産後に生じることが多い(出産後自己免疫性甲状腺炎)という特徴もあります。
血中に抗Tg抗体や抗TPO抗体が認められるものの甲状腺機能は全く正常な状態から、TSH(甲状腺刺激ホルモン:下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺ホルモン分泌を促す)のみ軽度上昇した潜在性機能低下症、FT4(甲状腺ホルモン)も低下した顕在性機能低下症、臨床症状をきたした状態などがあります。
実は、橋本病患者の半数以上は機能正常で、明らかな機能低下症は1/4程度であるといわれています。つまり、橋本病の患者さんのほとんどは正常甲状腺機能を示すので、異常な臨床症状を呈することは少なく、甲状腺腫を示すだけの場合が多いといえます。
逆に、亜急性増悪をきたして甲状腺濾胞細胞が破壊され、甲状腺ホルモンが一過性に血中に漏出することで動悸、発汗などの甲状腺中毒症状が出ることがあります。こうした状態は、甲状腺の疼痛や炎症所見を欠くことから、無痛性甲状腺炎とよばれます。無痛性甲状腺炎では、一過性に甲状腺機能亢進症となりますが、自然に回復していきます。その後、機能低下となることが多いですが、同じく自然に甲状腺機能は正常化します。
橋本病と診断された場合、注意すべき点としては以下のようなものがあります。
甲状腺機能が正常状態であり、甲状腺腫が大きくなく、また患者が甲状腺腫を問題にしていなければ治療の必要はなく、年に1、2回FT4とTSHが正常であるか調べます。Tg抗体、TPO抗体高値例では将来機能低下に陥りやすいと考えられます。
一方、永続的な甲状腺機能低下症では、少量のT4製剤(25〜50μg/日)から開始し、漸増していきます。重症機能低下症、高齢者、虚血性心疾患患者では、心筋梗塞を誘発しないようさらに少量(12.5μg/日)から開始していきます。
上記にもありますが、ヨードの過剰摂取は時として甲状腺機能を抑制することがあることがあるので注意しておく必要があります。食事ヨードの過剰摂取の可能性がある時は、ヨード制限を2〜4週行い再検査すると、機能低下の改善がみられることがあります。
診断に関しては、甲状腺超音波診断で甲状腺のびまん性腫大を認め、表面は凹凸があり、低エコーを示すことが多いです。甲状腺穿刺細胞診では、リンパ球の浸潤、リンパ濾胞形成、上皮細胞の破壊、線維化などを認めます。こうした検査は、甲状腺疾患の鑑別や診断に有用となります。
受診されている病院の先生と、現在の状態を踏まえた上で、どのような治療や検査を受けられるかといったことを相談されることが望まれます。
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のどに梅干し大のしこりがあり、検査したところ、橋本病と診断されました。初めて聞く病名です。経過観察していますが、今後どのようなことに気を付ければよいでしょうか。(45歳女性)
この相談に対して、調布東山病院顧問である藤本吉秀先生は、以下のようにお答えになっています。
橋本病は、甲状腺に本来ないはずのリンパ球が入ってきて、ホルモンの分泌が抑えられる病気です。女性に多く、軽い人まで入れると、日本の女性の15人に1人の高率で見つかります。
甲状腺ホルモンは、体の代謝を調節する働きがあり、不足すると、疲れやすくなったり、むくみが出たり、寒がりになったり、さまざまな症状が出ます。
ただ、一口に橋本病といっても、程度に差があります。軽い人では、甲状腺ホルモン値は正常で、何の症状もありません。重症度は血液検査で判定できます。
橋本病は、軽いままで済む人と進行する人がいます。ご質問者は程度が軽く薬が処方されなかったのでしょう。進行し重症になっても、不足した甲状腺ホルモンを補う薬を1日1回飲めば、正常になり心配ありません。毎日薬を飲まなければならないほど重い人は、橋本病患者の5〜10%程度です。
橋本病は、甲状腺腫大を伴う代表的な自己免疫疾患で、甲状腺特異抗原であるサイログロブリン(Tg)と甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)に対する自己免疫機序により、甲状腺に慢性の炎症が起きた状態です。
圧倒的に女性に多く、男女比でいえば1:10〜20となっており、成人女性の3〜5%という頻度で認められます。上記にもありますが、きわめて緩徐に進行するため様々な状態となります。出産後に生じることが多い(出産後自己免疫性甲状腺炎)という特徴もあります。
血中に抗Tg抗体や抗TPO抗体が認められるものの甲状腺機能は全く正常な状態から、TSH(甲状腺刺激ホルモン:下垂体から分泌されるホルモンで、甲状腺ホルモン分泌を促す)のみ軽度上昇した潜在性機能低下症、FT4(甲状腺ホルモン)も低下した顕在性機能低下症、臨床症状をきたした状態などがあります。
実は、橋本病患者の半数以上は機能正常で、明らかな機能低下症は1/4程度であるといわれています。つまり、橋本病の患者さんのほとんどは正常甲状腺機能を示すので、異常な臨床症状を呈することは少なく、甲状腺腫を示すだけの場合が多いといえます。
逆に、亜急性増悪をきたして甲状腺濾胞細胞が破壊され、甲状腺ホルモンが一過性に血中に漏出することで動悸、発汗などの甲状腺中毒症状が出ることがあります。こうした状態は、甲状腺の疼痛や炎症所見を欠くことから、無痛性甲状腺炎とよばれます。無痛性甲状腺炎では、一過性に甲状腺機能亢進症となりますが、自然に回復していきます。その後、機能低下となることが多いですが、同じく自然に甲状腺機能は正常化します。
橋本病と診断された場合、注意すべき点としては以下のようなものがあります。
橋本病患者は、軽症でも、食品からヨードを取りすぎると、甲状腺ホルモンの低下が起こることがあります。ヨードが特に多く含まれているのは昆布で、たくさん食べないようにしてください。昆布以外の海藻は毎日普通に食べて問題ありません。
橋本病では普通、甲状腺全体が硬く腫れます。ご質問者は、のどにしこりがあるとすると、軽い橋本病のほかに、甲状腺にしこりができる別の病気があるかもしれません。超音波検査を受けると、そのことははっきりします。
甲状腺機能が正常状態であり、甲状腺腫が大きくなく、また患者が甲状腺腫を問題にしていなければ治療の必要はなく、年に1、2回FT4とTSHが正常であるか調べます。Tg抗体、TPO抗体高値例では将来機能低下に陥りやすいと考えられます。
一方、永続的な甲状腺機能低下症では、少量のT4製剤(25〜50μg/日)から開始し、漸増していきます。重症機能低下症、高齢者、虚血性心疾患患者では、心筋梗塞を誘発しないようさらに少量(12.5μg/日)から開始していきます。
上記にもありますが、ヨードの過剰摂取は時として甲状腺機能を抑制することがあることがあるので注意しておく必要があります。食事ヨードの過剰摂取の可能性がある時は、ヨード制限を2〜4週行い再検査すると、機能低下の改善がみられることがあります。
診断に関しては、甲状腺超音波診断で甲状腺のびまん性腫大を認め、表面は凹凸があり、低エコーを示すことが多いです。甲状腺穿刺細胞診では、リンパ球の浸潤、リンパ濾胞形成、上皮細胞の破壊、線維化などを認めます。こうした検査は、甲状腺疾患の鑑別や診断に有用となります。
受診されている病院の先生と、現在の状態を踏まえた上で、どのような治療や検査を受けられるかといったことを相談されることが望まれます。
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