事故や病気で骨が欠けたり、足りなくなったりした場合に行われる骨の移植。東大などのグループは、成形の難しさなど従来の方法の欠点を解消し、移植する部位にぴったりフィットする“オーダーメード人工骨”による治療法を開発した。ほおやあごなど顔面に移植が必要な患者に、全国10の医療機関で臨床試験(治験)を始める。
国内では、自分の腰骨などの大きな骨を摘出し、成形した後に移植する自家骨移植が最も普及している。自分の骨のため移植後にくっつくのが早いのがメリットだが、患者に痛みや摘出部位の変形などの負担を強いる上、使える骨の量も限られる。
人工骨ならば患者の負担や量の制限はないが、骨の主成分リン酸カルシウムを焼き固めた従来品は、縮むなどして患者の骨とくっつかず、皮膚を突き破ってしまうケースもある。
さらに、いずれの骨も成形が難しいという共通の問題がある。顔の骨の形状は非常に複雑なため、移植する骨には高い精度が必要。移植しようとしてもフィットせず、手術室で医師が骨を削るなどして手術時間が長引く傾向にある。鄭雄一東大教授(骨・軟骨再生医療)は「自家骨も人工骨も使い勝手は決して良くない」と話す。
形状の高い精度に加え、移植後は骨にくっつき、最終的に患者自身の骨に置き換わるという、2つの条件を満たす人工骨が待たれていた。
鄭教授らがベンチャー企業と協力して開発に取り組んだオーダーメード人工骨は、患者のコンピューター断層撮影(CT)の画像などから必要な人工骨の3次元モデルをつくる。これを薄くスライスしたものが「設計図」となる。
骨の作製にはインクジェット式プリンターの仕組みを応用。紙に当たる厚さ0・1ミリのリン酸カルシウムの層に、インクの代わりの接着剤を設計図に基づいて吹き付ける。これを繰り返して層を積み重ね、立体的な人工骨を作りあげる。
ぴったりフィットするのはもちろん、焼き固めていないため移植先の骨とくっつくのも早い。内部には患者の細胞や血管が入る穴が開けられており、患者の骨に置き換わるのも早くなるという。
10人の患者にこの人工骨を移植した結果、3カ月ほどで移植先の骨とくっつくのが確認されるなど、良好な結果が得られた。大きな人工骨を移植する場合は、骨を2つに分割すればフィットしやすいことが分かるなど、改善も重ねてきた。
10機関の臨床試験では、70人を目標に人工骨の有効性と安全性を評価する。2011年春に医療機器として国に承認申請するのが目標という。
東大の高戸毅教授(口腔外科)は、口蓋裂などの先天性な骨の形成不全、舌がんの手術や事故による骨の欠損など、この移植を使える患者は国内に4万〜5万人とみている。高齢化の進展で骨粗鬆症による骨折や骨の欠損が増加していることから、人工骨へのニーズはさらに高まると予測されるという。
「顔は人目に付くだけに患者の人付き合いや外出、心理面などに影響を与えることも多く、治療による効果は大きい」と、高戸教授。
今回開発された人工骨はやや強度が足りないため、当面は後頭部などの荷重がかかる部分には使わない。鄭教授は「金属と複合させるなど強度面の改善を加え、将来は手足の骨や背骨などにも使えるようにしたい」としている。
(顔の人工骨移植、本格開始 オーダーメードで欠点解消)
骨移植は、外傷や腫瘍の切除によって生じた骨欠損の修復、骨折の遷延治癒の治療、関節や脊椎固定などに行われます。一般的に移植片は吸収され、後に骨形成がなされます。
骨移植の完成には移植片と移植部の一体化が必要であり、この過程では骨形成の進行が不可欠となります(骨誘導と骨伝導によって骨形成)。移植骨としては、自家骨、同種骨(他人の骨)、異種骨(動物主として牛骨)があります。
自家骨はもちろん自分の骨ですので、最も活着しやすいですが、採取量に制約があります。同種骨は、冷凍(-80℃)、γ線照射などによる免疫性を低下させて用いられます。ただ、活着性は自家骨の2倍の時間を要するといわれています。異種骨は、最近では用いられていません。
舌癌や口腔底癌などでは、下顎骨膜に癌が達するときは下顎辺縁切除術・下顎区域切除術などを行います。頬粘膜癌は原則として切除手術であり、臼後部の癌は容易に上顎骨や下顎骨に浸潤するので、やはり切除・再建手術が必要となることが多いです。
こうした術後は、再建術が行われます。下顎骨の再建は血管柄付き肩甲骨や腓骨が用いられることが多いようです。ほかにも、プレートによる下顎再建を選択しているところもあるようです(血管柄付き肩甲骨や腓骨で再建しても局所再発が起こることがある)。
ほかにも、顔面骨折などでも上記の人工骨は適応が考えられているようです。強度の面で問題があるようで、手足の骨や背骨などには用いられていないようです。今後、さらに高齢化が進むとなると、骨粗鬆症による大腿部頸部骨折などが増えてくると考えられます。そうした場合、さらなる需要が出てくると思われます。
大腿部頸部骨折における治療としては、以下のようなものがあります。
国内では、自分の腰骨などの大きな骨を摘出し、成形した後に移植する自家骨移植が最も普及している。自分の骨のため移植後にくっつくのが早いのがメリットだが、患者に痛みや摘出部位の変形などの負担を強いる上、使える骨の量も限られる。
人工骨ならば患者の負担や量の制限はないが、骨の主成分リン酸カルシウムを焼き固めた従来品は、縮むなどして患者の骨とくっつかず、皮膚を突き破ってしまうケースもある。
さらに、いずれの骨も成形が難しいという共通の問題がある。顔の骨の形状は非常に複雑なため、移植する骨には高い精度が必要。移植しようとしてもフィットせず、手術室で医師が骨を削るなどして手術時間が長引く傾向にある。鄭雄一東大教授(骨・軟骨再生医療)は「自家骨も人工骨も使い勝手は決して良くない」と話す。
形状の高い精度に加え、移植後は骨にくっつき、最終的に患者自身の骨に置き換わるという、2つの条件を満たす人工骨が待たれていた。
鄭教授らがベンチャー企業と協力して開発に取り組んだオーダーメード人工骨は、患者のコンピューター断層撮影(CT)の画像などから必要な人工骨の3次元モデルをつくる。これを薄くスライスしたものが「設計図」となる。
骨の作製にはインクジェット式プリンターの仕組みを応用。紙に当たる厚さ0・1ミリのリン酸カルシウムの層に、インクの代わりの接着剤を設計図に基づいて吹き付ける。これを繰り返して層を積み重ね、立体的な人工骨を作りあげる。
ぴったりフィットするのはもちろん、焼き固めていないため移植先の骨とくっつくのも早い。内部には患者の細胞や血管が入る穴が開けられており、患者の骨に置き換わるのも早くなるという。
10人の患者にこの人工骨を移植した結果、3カ月ほどで移植先の骨とくっつくのが確認されるなど、良好な結果が得られた。大きな人工骨を移植する場合は、骨を2つに分割すればフィットしやすいことが分かるなど、改善も重ねてきた。
10機関の臨床試験では、70人を目標に人工骨の有効性と安全性を評価する。2011年春に医療機器として国に承認申請するのが目標という。
東大の高戸毅教授(口腔外科)は、口蓋裂などの先天性な骨の形成不全、舌がんの手術や事故による骨の欠損など、この移植を使える患者は国内に4万〜5万人とみている。高齢化の進展で骨粗鬆症による骨折や骨の欠損が増加していることから、人工骨へのニーズはさらに高まると予測されるという。
「顔は人目に付くだけに患者の人付き合いや外出、心理面などに影響を与えることも多く、治療による効果は大きい」と、高戸教授。
今回開発された人工骨はやや強度が足りないため、当面は後頭部などの荷重がかかる部分には使わない。鄭教授は「金属と複合させるなど強度面の改善を加え、将来は手足の骨や背骨などにも使えるようにしたい」としている。
(顔の人工骨移植、本格開始 オーダーメードで欠点解消)
骨移植は、外傷や腫瘍の切除によって生じた骨欠損の修復、骨折の遷延治癒の治療、関節や脊椎固定などに行われます。一般的に移植片は吸収され、後に骨形成がなされます。
骨移植の完成には移植片と移植部の一体化が必要であり、この過程では骨形成の進行が不可欠となります(骨誘導と骨伝導によって骨形成)。移植骨としては、自家骨、同種骨(他人の骨)、異種骨(動物主として牛骨)があります。
自家骨はもちろん自分の骨ですので、最も活着しやすいですが、採取量に制約があります。同種骨は、冷凍(-80℃)、γ線照射などによる免疫性を低下させて用いられます。ただ、活着性は自家骨の2倍の時間を要するといわれています。異種骨は、最近では用いられていません。
舌癌や口腔底癌などでは、下顎骨膜に癌が達するときは下顎辺縁切除術・下顎区域切除術などを行います。頬粘膜癌は原則として切除手術であり、臼後部の癌は容易に上顎骨や下顎骨に浸潤するので、やはり切除・再建手術が必要となることが多いです。
こうした術後は、再建術が行われます。下顎骨の再建は血管柄付き肩甲骨や腓骨が用いられることが多いようです。ほかにも、プレートによる下顎再建を選択しているところもあるようです(血管柄付き肩甲骨や腓骨で再建しても局所再発が起こることがある)。
ほかにも、顔面骨折などでも上記の人工骨は適応が考えられているようです。強度の面で問題があるようで、手足の骨や背骨などには用いられていないようです。今後、さらに高齢化が進むとなると、骨粗鬆症による大腿部頸部骨折などが増えてくると考えられます。そうした場合、さらなる需要が出てくると思われます。
大腿部頸部骨折における治療としては、以下のようなものがあります。
大腿の上部は、大きく分けて大腿骨頭・大腿骨頸部、転子部と呼ばれる部位で構成されています。大腿骨頭は、大腿骨大腿骨の上端にある球形のふくらみの部分を指し、股関節でジョイントになる部分です。大腿骨頸部は、この大腿骨頭と大転子の間の、細くなった部分を指します(ちょうど、頭と首のような関係性にあります)。
大腿骨頚部骨折は、内側骨折と外側骨折に分かれますが、内側骨折とは、関節包の内側という意味です。高齢者、特に女性の骨粗鬆症有病者に多く発生します。
大腿骨頚部内側骨折の問題点としては、骨癒合しなくて治りにくいことや(骨膜がなく、骨折線も斜めであるため剪断力が加わり偽関節を生じやすい)、骨頭への血流が途絶えて大腿骨頭壊死を生じることがあることがあります。
治療の第一選択はよほど全身状態が悪くない限り手術療法が原則となります。内側骨折の非転位型には、骨接合術が第一選択となります。転位型では、人工骨頭置換術を選択することが多いです。ただ、この人工骨頭置換術では術後の長期経過例が増えるとともに耐久性の問題などもあります。
こうした手術を行う際、上記のような人工骨があれば、将来的には「自身の骨」となることが考えられ、耐久性の問題はクリアできるのではないか、とかんがえられます。まだ発展途上の段階でしょうが、将来期待される技術です。
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咽頭癌の手術後に発声が可能に−気管食道シャント法
大腿骨頚部骨折は、内側骨折と外側骨折に分かれますが、内側骨折とは、関節包の内側という意味です。高齢者、特に女性の骨粗鬆症有病者に多く発生します。
大腿骨頚部内側骨折の問題点としては、骨癒合しなくて治りにくいことや(骨膜がなく、骨折線も斜めであるため剪断力が加わり偽関節を生じやすい)、骨頭への血流が途絶えて大腿骨頭壊死を生じることがあることがあります。
治療の第一選択はよほど全身状態が悪くない限り手術療法が原則となります。内側骨折の非転位型には、骨接合術が第一選択となります。転位型では、人工骨頭置換術を選択することが多いです。ただ、この人工骨頭置換術では術後の長期経過例が増えるとともに耐久性の問題などもあります。
こうした手術を行う際、上記のような人工骨があれば、将来的には「自身の骨」となることが考えられ、耐久性の問題はクリアできるのではないか、とかんがえられます。まだ発展途上の段階でしょうが、将来期待される技術です。
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