ブラジル政府は性同一性障害者に対する性別適合手術を公的医療の対象として無料化することを決め、19日、官報に公示された。政府は同手術を国民の「権利」と位置付けている。地元メディアが報じた。

21歳以上が適用対象で、地域の保健担当者らによる2年間の心理チェックを受けることを義務付けた。最終的に手術が必要かどうかはこの担当者が判断するという。

ブラジルでは昨年、約300件の性別適合手術が民間病院で行われ、平均費用は1件当たり約2500ドル(約27万円)だった。保健省は国民1万人につき1人の割合で手術を要望する人がいるとみている。
(ブラジルの性転換手術、公的医療で無料に)


性同一性障害とは、生物学的性と性意識(gender)についての自己認識が一致していないことによる障害を指します。生物学的性とは生物学的、発生学的な雄(male)、雌(female)を指し、性意識とは心理的、社会的な男性性、女性性を表します。

古典的な性分化異常の概念とは異なり、染色体・性腺・性器に矛盾はないですが、心と体の性別が解離している状態です。違和感などは幼少の頃から自覚されているものの、医療機関を訪れるのは思春期以降が多いといわれています。

特徴としては、
?反対の性になりたいという欲求や自分の性が反対であるという主張を強く持続的に述べる。
?反対の性の服装を身につけたいと主張したり、実際にしたりする。
?自分の性に伴う性別役割に不適切感や違和感を覚える。
といったことがあります。

診断としては、日本精神神経学会によるガイドラインにより、
1.生活歴の聴取
2.性別違和感の実態を調査する。
アメリカ精神医学会「精神疾患の分類と診断の手引き」第4版(DSM IV)や 「疾病及び関連保健問題の国際統計分類」第10版(ICD10)を参考としながら、以下のことを聴取する。
・自らの性別に対する継続的な違和感・不快感
・反対の性に対する強く持続的な一体感
・反対の性役割
3.身体的性別の判定
・外性器の診察・検査
・内性器の診察・検査
・染色体検査
・ホルモン・内分泌系検査
4.除外診断
・統合失調症などの精神障害によって、本来の性自認を否認したり、性別適合手術を求めたりするものではないこと。
・文化的社会的理由による性役割の忌避や、もっぱら職業的利得を得るために反対の性別を求めるものではないこと。
5.診断の確定
・以上の点を総合して、身体的性別と性自認が一致しないことが明らかであれば、これを性同一性障害と診断する。
・半陰陽、間性、性染色体異常などが認められるケースであっても、身体的性別と性自認が一致していない場合、これらを広く性同一性障害の一部として認める。
・性同一性障害に十分な理解をもつ精神科医が診断にあたることが望ましい。2人の精神科医が一致して性同一性障害と診断することで診断は確定する。2人の精神科医の意見が一致しない場合は、さらに経験豊富な精神科医の診察結果を受けて改めて検討する。

このような流れで診断されます。

治療としては生物学的性を性意識に近づけるか、苦悩を減弱させるかにあります。前者に対してはホルモン療法や性転換手術、後者には精神療法が主体となります。ただ、性の不一致に対しては根本的な治療法がなく、診断される時期の多くが未成年であるので慎重な対応が望まれます。また、家族の協力を得ることも重要となります。

FTM(female to male:女性から男性へ)の場合、男性ホルモン製剤であるエナルモンデポーを1回250mg、4週ごとに筋注します。MTF(male to female:男性から女性へ)の場合、卵胞ホルモン製剤であるペラニンデポーを1回10mg、2〜3週ごとに筋注します(投与形態としては注射剤、添付薬、経口剤がありますが、日本においては注射剤が一般的)。

副作用としては、肝機能異常が起こる可能性があるといわれています(経口投与が一番可能性が高い)。そのため、投与に当たっては、定期的な肝機能検査を行うことが重要となります。

性別適合手術は、以下のようなものを指します。
男性から女性への性転換術では陰茎切断術、精巣摘出術、造腟術、豊胸術、喉頭軟骨形成術、脱毛術などが行われます。

造膣にあたっては二種類あり、陰茎会陰部皮膚翻転法 (尿道と直腸の間を切開することでスペースを作り、そこに海綿体を除去した陰茎と精巣を除去した睾丸の皮膚を、血流を残したまま移植する方法)および大腸法(S字結腸を10数cm切り取り、造膣を行う方法) があります。国内では、陰茎会陰部皮膚翻転法の方が主流であるようです。

女性から男性への性転換術では子宮、卵管、卵巣の摘出術、陰茎再建術、乳房切断術などが行われます。再建術に関しては、前腕部の組織を切り取り、丸めて陰茎の形状にし、マイクロサージャリー下で陰核の部分に接続手術を行います。

上記のように公的援助を受けることができるとなれば、経済的な問題で手術を受けることが出来ない人たちを救うことができるという利点もあります。

ですが、一方で地域の保健担当者らによりチェックがあるということで、「受けたくても受けられない」という人が出てくる可能性もあると思われます。もし、しっかりとした診断基準などが定められていないとしたならば、財政削減などの下に、手術を受けられる人を減らす可能性もでてくるのではないか、とも考えられます。

果たしてどんな背景があって、公的資金導入が行われるのかはわかりませんが、このシステム導入の影響が気になるところではあります。

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