男性の名前はペリーさん(59歳)。彼はリポジストロフィー(lipodystrophy)と呼ばれる、急速に脂肪を燃焼する病気にかかっているため、何をどれだけ食べても、全く太らなくなってしまったそうです。

また、体内で生成されるインスリン量が通常の人の6倍生成されているとのこと。ペリーさんは子供のころは太っていたようですが、12歳頃から徐々に体重が落ち、いくら食べても太れなくなったようです。
(医学的に信じられない状態にある人々の10の症例)


リポジストロフィーlipodystrophy(脂肪異栄養症)とは、皮下脂肪をはじめ体内蓄積脂肪が全身的、部分的に消失した病態をいいます。全身型、健常部を残す部分型、インスリンなどの注射部位にみられる局所型の3型に分けられます。

全身型では、常染色体劣性遺伝による先天性、特発的発症の後発性を含みます。部分型は多くが後発性で、主に上半身の脂肪消失をみられますが、まれに優性遺伝形式をとるものがあります。近年、部分型において第1染色体長腕(chromosome 1q)に存在し、細胞核ラミンA/CをコードするLMNA遺伝子の変異が報告されています。

遺伝性では脂肪消失は生後すぐに認められ、代謝異常や臓器障害は徐々に進行してきます。一方、後発性では麻疹、百日咳、伝染性単核球症などのウイルス性疾患や、甲状腺疾患、妊娠を契機にした発症がみられます。

症状としては、全身型では著明な脂肪組織の消失による皮膚のつっぱり、るい痩、頬のこけ、大きな耳介のほか多毛症、色素沈着、腹部臓器やリンパ節の腫大に加え、先端巨大症を思わせる筋肉の肥大と大きな手・足などが特徴的です。知能障害をおよそ半数に認めます。

代謝異常は本疾患では重要な所見であり、特に全身型では顕著となります。インスリン抵抗性による糖尿病は特に脂肪萎縮性糖尿病と称されます。インスリン抵抗性の原因の詳細は不明ですが、遊離脂肪酸の増加がインスリン作用障害と高インスリン血症をもたらすものと考えられます。

部分型(後天性)は最も多く、特に女性に多いです。一般に上半身型ですが、まれに片側や下半身型病変の報告もあります。後にSLE、皮膚筋炎、Sjoegren(シェーグレン)症候群の発症をみる場合もあり、稀に全身型に進行するケースもあります。

限局型では、鼠径部や腋下部から始まる遠心性脂肪萎縮が代表的です。臨床的には、インスリン注射部位やジフテリアなどワクチン注射部位の限局性脂肪萎縮がよく経験されます。

治療としては、以下のようなものがあります。
高脂血症(高トリグリセリド血症)対策としては、現在のところ、有効な手段はありませんが、脂肪制限食は一般に行われます。また、フィブラート系薬剤が用いられることもあるようです(有効性は期待できない場合が多いそうですが)。

糖尿病管理では、インスリン抵抗性のため大量のインスリン投与を必要とします。上記のケースでも、インスリン抵抗性があるために高インスリン血症となっているようです。

こうしたインスリン抵抗性に対しては、インスリン抵抗性改善薬がもちいられているようですが、その有効性はまだ明らかとなっておりません。全身型のモデルマウスにおいては、レプチン投与によるインスリン抵抗性の改善が認められているそうであり、ヒトへの応用も期待されます。

予後は臓器障害や代謝異常の程度によって異なるようですが、全身型では肝不全、腎不全、再発する膵炎などで早い時期に死に至ってしまうことが多いようです。単にリポジストロフィーlipodystrophy(脂肪異栄養症)は、「太らなくて良い」という疾患ではなく、多くの問題が生じてしまう疾患というわけです。

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