実は2006年、250cmもあるとするウクライナの男性、レオニード・スタドニクさんの出現で、バオさんは、世界一高身長のタイトルを奪われていた。だがそれはウクライナの医師の申告値であり、怪しいという意見が相次ぎ、ギネスブックは、起きたり寝たりという状況下で24時間中6回測定する方式を定めた。

20日、ウクライナのレオニードさんはその測定への参加を拒否、そのためバオさんが世界一のノッポに返り咲いた次第である。なお、NBAで活躍する中国人のヤオ・ミン選手は最高値で229cmであり、バオさんの方が背が高い。

脳下垂体の良性の腫瘍により、成長ホルモンが過剰分泌されることが高身長の原因であり、あまりの大きさに心配した親が促すまま、バオさんは過疎の村で暮らしていた。だがその生活に飽き、人と接したくなって都会でウェイターを経験、なかなか社交的な自分に目覚めたと言う。

大きな転機が訪れたのはこの経験であったという。2006年12月、2頭のイルカが飲みこんでしまったプラスティック片を、106cmもある長い腕を活用して胃袋から引っ張り出すという快挙を成し遂げ、世間の脚光をますます浴びるようになった。
(祝・身長236cmのバオさんが世界一のノッポに返り咲き。妻は妊娠中!)


下垂体腺腫とは、下垂体前葉の内分泌腺細胞から発生する腫瘍で、ほとんどが組織学的に良性の腺腫(adenoma)です。腺腫自体は決して珍しいものではなく、成人の下垂体の5〜20%に腺腫が存在するといわれています。

大別すると、ホルモン非分泌性(非機能性)腺腫とホルモン分泌性(機能性)腺腫に分けられます。ですが、ホルモン非分泌性腺腫の多くにも、免疫染色その他の検索手段で潜在的な内分泌能の存在が知られています。

ホルモン非分泌性腺腫は、40〜60歳の年齢層に多いという特徴があり、主な症候としては、腺腫が大きくなって視力視野障害が起こることで気づかれることが多いようです。

視野障害は特徴的で、左右の眼の外側が障害(典型例では両耳側半盲)されます。これは両眼を開いていると気づかれにくいですが、検眼時や、自動車の運転や球技など動く物を視野にとらえようとする動作時に気づかれることが多いです。

ホルモン分泌性腺腫では、大きいものは非分泌性腺腫と同様の周囲への圧迫症状で発病することがありますが、それとは別に過剰に分泌されるホルモンに特有な臨床像を呈します。

ホルモン産生別にみると、プロラクチン(PRL)産生腺腫(32%)、成長ホルモン(GH)産生腺腫(20%)、非分泌性腺腫(18%)、ACTH産生腺腫(3.0%)の頻度となっています。上記のケースでは、成長ホルモン産生腫瘍にあたります。

成長ホルモン産生腫瘍は、小児期に発病すると巨人症、成人期には末端肥大症(身長の伸びは少なくなったり、なくなる)となります。バオさんの場合は、小児期より発病していたと考えられます。

末端肥大症の場合、四肢末端の肥大などの手足の変化、前額部・下顎の突出、鼻翼・口唇の肥大などの顔貌の変化を呈するようになります(簡単にいえば、アントニオ猪木さんのような顔になります)。

こうした手足や顔貌の変化は緩やかに進行し、自覚症状としては「最近手袋や靴がきつくなった」「指輪が入りづらいなどで気づく」「家人が気づく」ことや、別の理由で医療機関を受診し、指摘され発見されることが多いです。末端肥大以外には、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、不整脈、腰痛、咬合不全、鼻づまりなど、ほとんどすべての科に関与した訴えが生じてきます。

診断としては、MRIを主とする画像診断や内分泌学的診断を用います。MRI検査では腫瘍の大きさや進行方向、浸潤性などを診断します。直径10mm未満の病変をmicroadenoma、10mm以上をmacroadenomaと分類します。dynamic MRIを使用することで5mm以下の極小腺腫の診断も可能な場合があります。造影剤を使用することで、残存する正常下垂体組織の位置が確認可能となります。

内分泌学的検査としては、成長ホルモンとIGF-1の基礎値の測定が重要となります。とくに、IGF-1は日内変動や食事の影響が少ないので診断に必須となります。

安静空腹時の成長ホルモンは10ng/ml 以上と持続的に高値となり、100gOGTTによっても 5ng/ml 以下になりません。TRHおよびLH-RH負荷試験により奇異性上昇するといった特徴があります。また、定量視力検査や、GoldmannやHumphreyの視野検査を行うことも重要となります。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療の目的は、腫瘍の除去やGH過剰分泌の是正、合併症の進展を防ぐことです。具体的には、血中IGF-1の正常化、糖負荷後のGH抑制1ng/mL未満をめざすことになります。

治療法には、手術、薬物および放射線療法があり、各腺腫で方針が異なります。ですが、原則として手術療法では経蝶形骨手術(TSS)が、放射線療法ではガンマナイフを主体とした定位的照射が用いられます。

特にホルモン産生腫瘍では、経蝶形骨手術(TSS)が用いられることが多いようです。治療目標の達成は微小腺腫で70〜80%、大型腺腫で約50%程度となっています。術後の腫瘍残存例や手術ができない症例では薬物療法が適応となります。

まずドパミン作動薬(ブロモクリプチン)を試み、効果が不十分な場合はソマトスタチン誘導体、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント注など)を用いることになります。

腺腫自体による問題や、腫瘍内出血や梗塞の可能性、その他の合併症がみられる恐れもありますが、バオさんは普通に生活されているようです。下垂体腺腫が原因とはいえ、236cmもの身長を「一つの個性」として受け入れられている様子が素晴らしいと思われました。

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