読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、東京慈恵医大総合母子健康医療センター小児脳神経外科教授である大井静雄先生は、以下のようにお答えになっています。
二分脊椎は、脊椎の形成過程で骨性の椎弓形成が不十分なためさまざまな程度の椎弓欠損が生じる先天奇形ですが、骨の異常のみでなく脊髄の先天異常(神経管閉鎖障害)も含みます。
胎生期の外胚葉原起から神経系が形成される21日から28日までの間に、中胚葉原起の脊椎骨に、外因性または内因性の障害が加わって発生すると考えられています。発生部位は腰仙椎部で約80%を占め、脊髄披裂などの神経管奇形を伴う場合と骨性異常のみの場合があります。
二分脊椎の分類としては、
このように分けることができます。
潜在性二分脊椎の場合、神経組織に異常が及んでいなければ無症状で、X線検査で偶然発見されることが多いです。腰仙部脂肪腫などによる脊髄係留症候群では下肢の筋力低下、反射や感覚の異常、膀胱直腸障害が種々の程度に出現することがあります。その他、脊柱側弯、股関節脱臼、足部変形などの骨格変化が起こることがあります。
顕在性二分脊椎の場合、神経症状は高位と程度により異なりますが、下肢運動麻痺、知覚麻痺、膀胱直腸障害などの重篤な神経症状を伴うことが多いです。
治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、骨格異常に対するリハビリテーションを含めた整形外科的治療と、脳神経や泌尿器合併症に対する治療が必要な場合があります。
手術療法の目標としては、脊髄、脊柱管内構造を三次元構造として再建させることにあります。具体的には、中心管、脊髄実質、くも膜下腔、くも膜、硬膜、筋膜、皮膚を順次縫合して再建する全層縫合の術式(five-layer closure)が一般的となっています。特に、脊髄披裂による運動感覚麻痺は永続的なものであり、放置されれば神経組織の癒着や感染により障害が悪化することがあるので、出生後すみやかに行う必要があります。
ちなみに、二分脊椎は、妊娠時に母胎への葉酸投与が発生率を減少させることが、疫学的研究でわかっています。2000年12月28日当時の厚生省は、神経管閉鎖障害の予防には妊娠前4ヶ月から妊娠3ヶ月まで葉酸を1日0.4mg摂取すると約70%の予防効果がみられる、と通達しています。
ご心配なこととは思われますが、たとえ障害があっても、早期からの積極的な治療を行うことで、運動障害や膀胱直腸障害をもっていても社会的に自立することができることも考えられます。ご家族の方々で互いに助け合い、励まし合いながらお孫さんの治療や成長を見守っていただけたら、と思われます。
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孫が「二分脊椎症」と診断されました。手術をしても障害が残るかもしれない、すでに障害があるかもしれないと言われ、心配です。(祖母57歳)
この相談に対して、東京慈恵医大総合母子健康医療センター小児脳神経外科教授である大井静雄先生は、以下のようにお答えになっています。
二分脊椎症は、脊髄(神経の束)を保護している脊椎(背骨)の一部が生まれつき開いた状態にある疾患です。発症原因などについて、まだ不明な点が多い病気です。
二分脊椎症の症状は様々ですが、脊髄が皮膚を破って外に出てしまうタイプとそうではないタイプに大きく分けられ、重症度も変わってきます。
前者は、二分脊椎症の中で最も症状が重く、「脊髄披裂」と言います。神経の障害を生じ、足の感覚がまひしたり尿意を生じなくなったりするなどの障害が出ることが多くあります。脳と脊髄に循環している「髄液」が脳にたまってしまう「水頭症」を併発することもよくあります。
一方、後者も背骨の一部は開いており、脊髄が飛び出す「脊髄髄膜瘤」や、逆に、皮下脂肪が脊髄の中に入り込んでしまう「脊髄脂肪腫」などが起こり、前者のタイプと同じような症状が見られることがあります。
後者のタイプは前者よりも2倍近く多くみられます。症状も様々で、悪化することがある一方、改善する可能性もあります。
二分脊椎は、脊椎の形成過程で骨性の椎弓形成が不十分なためさまざまな程度の椎弓欠損が生じる先天奇形ですが、骨の異常のみでなく脊髄の先天異常(神経管閉鎖障害)も含みます。
胎生期の外胚葉原起から神経系が形成される21日から28日までの間に、中胚葉原起の脊椎骨に、外因性または内因性の障害が加わって発生すると考えられています。発生部位は腰仙椎部で約80%を占め、脊髄披裂などの神経管奇形を伴う場合と骨性異常のみの場合があります。
二分脊椎の分類としては、
・潜在性二分脊椎spina bifida occulta
椎弓の欠損はあるが、皮膚や筋肉はほぼ正常で髄膜(硬膜とくも膜)が脊椎外に脱出していない場合。棘突起の欠損から椎弓の欠損まで種々の程度があり、外見上背部の正中に皮膚の点状の陥没、色素沈着、異常発毛、皮下脂肪腫などをみるものや、まったく異常がないものもある。
・顕在性二分脊椎spina bifida aperta(嚢状二分脊椎)
神経成分が髄膜に覆われないで体表に露出している場合。椎弓の欠損部から髄膜または神経組織が体外に脱出し嚢状となっている所見が多いので、嚢状二分脊椎と呼ばれている。
このように分けることができます。
潜在性二分脊椎の場合、神経組織に異常が及んでいなければ無症状で、X線検査で偶然発見されることが多いです。腰仙部脂肪腫などによる脊髄係留症候群では下肢の筋力低下、反射や感覚の異常、膀胱直腸障害が種々の程度に出現することがあります。その他、脊柱側弯、股関節脱臼、足部変形などの骨格変化が起こることがあります。
顕在性二分脊椎の場合、神経症状は高位と程度により異なりますが、下肢運動麻痺、知覚麻痺、膀胱直腸障害などの重篤な神経症状を伴うことが多いです。
治療としては、以下のようなものがあります。
前者(脊髄が皮膚を破って外に出てしまうタイプ:顕在性二分脊椎)、後者(脊髄が皮膚を破って外に出ていないタイプ:潜在性二分脊椎)いずれの場合も、飛び出した脊髄を背骨の中に納める手術をします。手術は、できるだけ新生児や乳児期のうちに行う方が効果的です。
ただ、脊髄脂肪腫などで症状がない場合、手術をするべきか様子をみるべきか、どちらがいいかという結論は出ていません。現在、どちらの方がいいのか、研究を進めています。
治療としては、骨格異常に対するリハビリテーションを含めた整形外科的治療と、脳神経や泌尿器合併症に対する治療が必要な場合があります。
手術療法の目標としては、脊髄、脊柱管内構造を三次元構造として再建させることにあります。具体的には、中心管、脊髄実質、くも膜下腔、くも膜、硬膜、筋膜、皮膚を順次縫合して再建する全層縫合の術式(five-layer closure)が一般的となっています。特に、脊髄披裂による運動感覚麻痺は永続的なものであり、放置されれば神経組織の癒着や感染により障害が悪化することがあるので、出生後すみやかに行う必要があります。
ちなみに、二分脊椎は、妊娠時に母胎への葉酸投与が発生率を減少させることが、疫学的研究でわかっています。2000年12月28日当時の厚生省は、神経管閉鎖障害の予防には妊娠前4ヶ月から妊娠3ヶ月まで葉酸を1日0.4mg摂取すると約70%の予防効果がみられる、と通達しています。
ご心配なこととは思われますが、たとえ障害があっても、早期からの積極的な治療を行うことで、運動障害や膀胱直腸障害をもっていても社会的に自立することができることも考えられます。ご家族の方々で互いに助け合い、励まし合いながらお孫さんの治療や成長を見守っていただけたら、と思われます。
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