「ええっ、痛風にかかった?!」
氷河秀子さん(30歳)からの電話に、中田堅二課長(38歳)は思わず耳を疑った。今朝、「病院に行くので会社を休む」という連絡を受け、心配していた中田課長。持病の腰痛が悪化したのか、と思っていたのだが――。

「そうなんですよ〜、夜中に足の親指の付け根がものすごく痛くなって。もう靴も履けないくらい」
「痛風って、オジサンがかかる病気じゃないのか?氷河さんみたいな若い女性でもなるの?」
「うーん、夏にビールを飲みすぎたんでしょうかね。最近は女性にも多いって先生が言ってましたけど。というわけで明日は出社しますけど、夕方からの飲み会は欠席します」
「無理しなくていいから休んだら。君の分は仕事もビールもオレが引き受けるから」

電話を切った中田課長は少々複雑な気分になった。日頃接待の多い男性営業マンの間で恐れられていた痛風。ついこの前も上司がかかったばかりで、「次は自分の番か?」とおびえていた。まさか女性の部下に先を越されるとは……。

注意した方がいい。男性も女性も、これまでには思いもよらない疾患に見舞われる危険にさらされているようだ。たとえば冒頭の「痛風」。原因は遺伝や肥満、飲酒、プリン体の多い食品の食べすぎ、脱水などだが、患者の99%は男性とされてきた。

痛風を引き起こす「尿酸」の血液中濃度は、男性のほうが圧倒的に高い。女性の場合、女性ホルモンによって腎臓からの尿酸の排泄が促されるため、閉経前の女性がかかるリスクはきわめて低かったのだ。

ところが、最近は若い女性にも痛風が見られるようになっている。背景にあるのは社会進出や過酷な職場環境だ。働く女性はストレスのため、女性ホルモンが乱れがち。そのうえ、男性なみに接待や飲み会、外食の機会も多く、つい食べすぎたり飲みすぎたりしてしまうのだろう。女性の痛風について研究を行ったカナダのブリティッシュ・コロンビア大学では、女性の痛風罹患率が増加している原因として、肥満化傾向の可能性を指摘している。

じつは筆者も、30代なかば頃に「大腸憩室炎」で入院したことがある。大腸の壁にポケットのようなものができ、そこにバイ菌が入って感染してしまう病気だ。主治医は「中高年男性やお年寄りに多い病気なんですけどね?」と首をかしげていた。

飲酒やカルシウム不足、肉類や糖質の摂りすぎで発症する「尿路結石」も、男性に多い病気だったが、最近は女性の間で増えているそうだ。
(「痛風に悩む女」と「冷え性に悩む男」)


痛風は、持続する高尿酸血症(血清尿酸値 7.0mg/dl 以上)に起因した尿酸塩結晶の体組織への沈着症と定義されます。特有な急性関節炎(痛風関節炎と呼ばれ、下肢の関節、特に親指の付け根である第一中足趾節関節に好発する単関節炎)の反復を主要徴候とする全身性代謝疾患であるといえます。

このような痛風関節炎、痛風結節(進行例では関節部をはじめとして、耳介などの軟骨、骨端部、皮下組織などに痛風結節が形成され、白色の腫脹をきたす)、尿路結石、腎機能障害などの尿酸沈着が関係する症状のほかに、痛風では高血圧や高脂血症、耐糖能異常などの合併が高率であるといわれています(いわゆる「贅沢病」などといわれるように、背景にはメタボリックシンドロームの関与が推定されます)。

病態としては、尿酸の過剰産生と腎からの排泄低下の2タイプに大別されます。過剰産生型としては、遺伝性(プリン代謝酵素異常症、糖原病)、核酸代謝回転の亢進(血液疾患、乾癬)、ATP分解の亢進(飲酒、低酸素血症)、プリン体過剰摂取などがあります。排泄低下型には、遺伝性のほか、低酸素血症、ケトアシドーシス、尿崩症、薬物(フロセミド,サイアザイド,シクロスポリンA)などがあります。

ちなみに、高プリン食と飲酒を禁じて行った時間クリアランス法で、尿酸クリアランス<6.2mL/分は排泄低下型、時間排泄量>0.51mg/kg/時は産生過剰型と診断されます。

上記にもありますが、症状としては、初発は約90%の患者が単関節炎の形をとり、片側の第1趾中足趾骨関節(足の親指の付け根)の突然の激しい疼痛と腫脹で発症します(痛風発作)。症状は24時間以内にピークとなり、通常 1〜2週間で完全に消退します。

痛風関節炎は、過剰な尿酸が関節内に尿酸ナトリウム結晶として沈着することで引き起こされます。関節腔内の尿酸ナトリウム結晶は、補体や凝固因子を活性化し、滑膜細胞やマクロファージから炎症性サイトカイン(起炎物質による刺激で産生され、炎症反応を増幅、持続させ炎症反応の経過に影響を与える物質)が産生されます。

さらに、好中球が活性酸素や蛋白分解酵素などの炎症性メディエーター(発熱、発赤、腫脹、疼痛といった炎症症状の発現に関わる液性因子やサイトカイン)を産生し、尿酸結晶を貪食します。こうした炎症反応が起こり、関節炎、そしてその痛みが生じてくると考えられます。

男性の発症が女性の約20倍で、30歳代に多いといわれていました。ですが、上記のようにもしかしたら女性の罹患率も増えつつあるのではないか、と考えられます。男性は思春期以降上昇し、約20歳でピークとなり、女性では閉経以降に上昇します。

女性ホルモンに腎臓からの尿酸排泄を促進する作用があるため、女性では少ないといわれており、一般に、成人では男性が女性より尿酸値が1〜2mg/dl 高くなっています。こうした点から、女性は痛風になりにくいと考えられますが、現在の食生活の変化を考えると、そうも言ってはいられないと思われます。

治療法としては、以下のようなものがあります。
痛風関節炎を起こしていない無症候性高尿酸血症に対しては、「高尿酸血症・痛風治療のガイドライン」に従って、血清尿酸値が8mg/dLを超えるまでは生活指導に重点を置き、8mg/dL以上が持続する場合に腎障害や心血管障害などをきたしやすい合併症の有無を考慮して薬物療法の適用を考えます。

痛風関節炎を繰り返す症例には、発作を回避するために薬物療法が適用されます。痛風関節炎には速効性で、ボルタレンなどの鎮痛作用の強い非ステロイド抗炎症薬(NSAID)を、できるかぎり速やかに投与します。投与量は常用量の2倍量とし短期間の使用に留め、痛みや炎症が引いた場合は中止します。

高尿酸血症の治療としては、産生過剰型は尿酸生成抑制薬で、排泄低下型は尿酸排泄促進薬で治療するのが原則となります。薬物療法として尿酸排泄低下型と産生過剰型にそれぞれ尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシド)と尿酸合成阻害薬(アロプリノール)を投与します。

ただし、排泄低下型であっても尿路結石や中等度以上の腎機能障害を合併している場合は、尿酸生成抑制薬を使用します。血清尿酸値の推移を見ながら、1〜2ヶ月単位で増量し、血清尿酸値が6mg/dL以下にコントロールされる量を維持量として長期にわたって使用することになります。

もちろん、食事療法(プリン体制限食)を行うことはどちらにせよ重要になります。また、尿酸は酸性尿では溶解性が著しく低下して尿路結石を形成する可能性があるため、尿中尿酸排泄量を増加させる尿酸排泄促進薬を用いる場合は尿のpHを6〜7に維持するよう、尿アルカリ化薬を併用する必要があります。

非常に強い痛みがあるため、健康診断などで高尿酸血症と指摘された方は、男女問わずご注意下さい。

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