読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
左手親指の関節が腫れて、ガングリオンと診断されました。注射でゼリー状のものを抜く治療や手術も受けましたが、その後も繰り返し、痛みます。自分でも針を刺して液を出しています。(64歳女性)

この相談に対して、川崎市立川崎病院副院長である堀内行雄先生は、以下のようにお答えになっています。
ガングリオンのほとんどは、関節や腱の周囲にできる袋状の腫瘤です。腫瘤と関節とは、茎と呼ばれる細い管でつながっています。内容物はゼリー状で、関節液などが濃縮されたものです。

ガングリオンは手の甲などによくできますが、そのほかの所にもできます。注射でゼリー状の物質が抜ければ診断が確定します。日常生活に困るほどの痛みが出たり、神経が圧迫されてマヒしたり、内容物を抜いた後も再発を繰り返したりする場合、手術します。

手術では関節などにつながる茎ごと摘出します。多発することも多く、手術後、そばに残っていた小さな腫瘤が育って再発のように見えることもあります。この場合、再手術する方法もありますが、無症状なら放置してもかまいません。

しかし、自分で針を刺し内容物を出すのはやめてください。細菌に感染した場合は、化膿性関節炎などになり、関節が破壊されます。

ガングリオンとは、腱鞘に付着したり関節腔と交通を有し、内部に透明な粘液を容れた薄い結合織性被膜からなる嚢胞です。手足に多く、しばしば多胞性となります。

ガングリオンは、手に発生する腫瘍性疾患の中で最も多くみられ、60−70%を占めているとも言われ、比較的多い良性軟部腫瘍です。10〜20歳代の女性に多いといわれています。

手関節背面に最も多くみられますが、手関節屈側、足趾、指趾などにも生じます。表面は平滑であり、緊満性(水疱膜が厚くなかなか破れない)の独特の弾力を有します。大きさは小豆大〜母指頭大であり、半球状の皮下腫瘍です。皮膚との癒着はなく、下床は腱鞘や関節包と結合しているため、あまり動きません。

発生起源として、関節周囲組織の線維芽細胞の粘液産生説や、関節滑膜のヘルニア説などがあります。関節由来のガングリオンは、関節外の組織間に嚢腫が存在しているため、その茎状の連結部で弁状に作用することになります。そのため、嚢腫内容液の流れが一方向となり嚢腫が大きくなると考えられます。

症状としては、一般的には腫瘤のみで特にありませんが、軽度の圧痛や運動痛、自発痛を生じることもあります。まれに、発生部位近傍の神経を圧迫して神経絞扼障害(Guyon管、肘部管、後骨間神経症候群など)の原因となることもあります。

治療については、以下のようなことが言えると思われます。
自分で針を刺し内容物を出すのはやめてください。細菌に感染した場合は、化膿性関節炎などになり、関節が破壊されます。

似た病気で、指の関節が変形するへバーデン結節で第1関節にゼリー状の物質が詰まり、水ぶくれができる場合があります。この場合は、注射針を刺し液を出した後に、3か月程度、2.5cm幅のテーピングで軽い圧迫を続けるとほとんどが治ります。頑固に再発する場合は手術をします。

ガングリオンは、がんとは違います。また、こぶが自然につぶれて、治る可能性もあります。整形外科医に相談のうえ、様子を見てもかまいませんが、感染には特に注意しましょう。

自然治癒することもあるため、穿刺するか放置しても良いといわれています。初期のものでは穿刺、圧迫を2、3回行うことで消失することもあります。嚢腫の穿刺は鑑別診断として有用であると考えられます。注射器につけた18Gの注射針にて神経・血管を避けて直接穿刺し、嚢腫を指で圧迫しつつ内容物を吸引します。

手術療法は、整容的問題や疼痛のある場合や、神経圧迫症状のある場合などで適応となります。手関節発生例では、嚢腫の茎基部にしばしば娘嚢腫が存在します。その発生基部の関節包や靭帯まで追跡し、手指では腱鞘など発生母床を含めて完全摘出(ガングリオンの被膜、腫瘍の茎、茎の付着した関節包部をすべて摘出する)を行うことが再発防止に重要となります。

ただ、手術を行っても再発の頻度は低くありません。ですので、有症状または美容上の問題があるという条件を満たし、穿刺で再発を繰り返す場合などで手術を行うことになります。担当医と相談の上、治療を進めていただきたいと思われます。

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