読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
この相談に対して、東大病院泌尿器科准教授である久米春喜先生は、以下のようにお答えになっています。
精巣は発生中に後腹膜腔から下降し、鼠径管を通って第30週頃に陰嚢内に下降します。精巣の下降に伴って、精巣周囲の腹膜もともに下降するため、精巣と固有の腹腔との間に腹膜からなる鞘状突起が存在しています。
鞘状突起は、新生児期に閉鎖します。この鞘状突起の一部である精巣鞘膜腔に、液体が貯留しているものが陰嚢水腫です。より詳しく言えば、鞘膜腔に液体が溜まって水瘤を形成しているのが、単純性の陰嚢水瘤です。一方、腹膜が閉鎖しないで、腹腔と連続している鞘状突起が水瘤を形成しているのが交通性陰嚢水瘤です。
先天性と後天性があり、いずれの年齢にも発生しますが、新生児と老人に多いです(新生児では、新生児の陰嚢水瘤は1歳までにほとんど自然消失する)。成因として小児では腹膜鞘状突起の閉鎖不全、成人では炎症(炎症などにより、鞘膜腔の上皮細胞からの分泌が吸収を上回るようになり,水瘤が形成されると考えられる)、リンパ吸収障害などが考えられます。
以前は陰嚢背側よりライトを照らし、透光性の有無を診断の参考にしていましたが、最近は超音波断層法により液体であることを確認することが多いです。水瘤を圧迫して小さくなるようであれば、交通性陰嚢水瘤を考えます。特に成人では、精液瘤と鑑別します。内容液を鏡検し、精子が存在すれば精液瘤です。
治療としては、以下のようなものがあります。
新生児の陰嚢水瘤は1歳までにほとんど自然消失するので、経過観察のみでよいとされます。ただし、1歳以降では自然治癒の可能性が少なく、手術が勧められます。成人で、患者自身が希望するのであれば穿刺排液を繰り返してもよいと考えられます。
ですが、内容液の穿刺吸引は鑑別診断のために行うのであり、すぐに再発します。穿刺吸引を繰り返していると、時に感染を起こし、手術が必要になることがあり注意が必要です。
手術は、鞘膜を切開・反転するWinkelmann法、余剰の鞘膜を切除し、断端をかがり縫いするBergmann法、および両者の併用法があります。上記の通り、穿刺排液を繰り返すことがいやだといった場合には、やはり手術を考慮することが必要であると思われます。
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30歳ぐらいから陰のうが膨らみ、「陰のう水腫」と診断されました。2、3ヶ月に一度、注射器で水を100cc前後抜いてもらっています。このまま手術しなくて大丈夫でしょうか。(47歳男性)
この相談に対して、東大病院泌尿器科准教授である久米春喜先生は、以下のようにお答えになっています。
陰のう水腫は精巣を包んでいる袋の中に液体がたまる病気です。陰のうが大きくなり、重さが増すために不快感を伴います。通常は痛みません。
腸や肝臓などの内臓を包み込んだ腹腔とつながっているタイプは子供に多くみられますが、成人の場合、多くは腹腔とつながっていない「非交通性」と呼ばれるタイプです。多くは、精巣付近の炎症のために起こると考えられていますが、原因不明の場合も多いです。
陰のう水腫かどうか見当をつけるのは比較的簡単です。部屋を暗くして、懐中電灯などで陰のうを照らし、光が透けて見えれば、大体は陰のう水腫でしょう。透けて見えない場合は精巣腫瘍や悪性リンパ腫などの可能性があります。
ただし、透けて見えても、まれにそけいヘルニアや精巣腫瘍などの場合があります。その見分けのため、一度、超音波検査を受けた方がよいでしょう。
精巣は発生中に後腹膜腔から下降し、鼠径管を通って第30週頃に陰嚢内に下降します。精巣の下降に伴って、精巣周囲の腹膜もともに下降するため、精巣と固有の腹腔との間に腹膜からなる鞘状突起が存在しています。
鞘状突起は、新生児期に閉鎖します。この鞘状突起の一部である精巣鞘膜腔に、液体が貯留しているものが陰嚢水腫です。より詳しく言えば、鞘膜腔に液体が溜まって水瘤を形成しているのが、単純性の陰嚢水瘤です。一方、腹膜が閉鎖しないで、腹腔と連続している鞘状突起が水瘤を形成しているのが交通性陰嚢水瘤です。
先天性と後天性があり、いずれの年齢にも発生しますが、新生児と老人に多いです(新生児では、新生児の陰嚢水瘤は1歳までにほとんど自然消失する)。成因として小児では腹膜鞘状突起の閉鎖不全、成人では炎症(炎症などにより、鞘膜腔の上皮細胞からの分泌が吸収を上回るようになり,水瘤が形成されると考えられる)、リンパ吸収障害などが考えられます。
以前は陰嚢背側よりライトを照らし、透光性の有無を診断の参考にしていましたが、最近は超音波断層法により液体であることを確認することが多いです。水瘤を圧迫して小さくなるようであれば、交通性陰嚢水瘤を考えます。特に成人では、精液瘤と鑑別します。内容液を鏡検し、精子が存在すれば精液瘤です。
治療としては、以下のようなものがあります。
治療ですが、一度、「水を抜く」だけで治ることもありますが、多くは再発を繰り返します。
精巣の周りの袋を切除し、水がたまらないようにする手術という選択もあります。私は数回繰り返すなら手術をお勧めします。ただし、がんではないので、患者がためらう場合や仕事が忙しい場合、「水を抜く」ことを繰り返してもかまいません。
今回のご相談ではむしろ「水を抜く」ことの繰り返しに不安を覚えておられるようですので、手術を受けられてはいかがでしょうか。
新生児の陰嚢水瘤は1歳までにほとんど自然消失するので、経過観察のみでよいとされます。ただし、1歳以降では自然治癒の可能性が少なく、手術が勧められます。成人で、患者自身が希望するのであれば穿刺排液を繰り返してもよいと考えられます。
ですが、内容液の穿刺吸引は鑑別診断のために行うのであり、すぐに再発します。穿刺吸引を繰り返していると、時に感染を起こし、手術が必要になることがあり注意が必要です。
手術は、鞘膜を切開・反転するWinkelmann法、余剰の鞘膜を切除し、断端をかがり縫いするBergmann法、および両者の併用法があります。上記の通り、穿刺排液を繰り返すことがいやだといった場合には、やはり手術を考慮することが必要であると思われます。
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