耳アカは不潔だから、できるだけ耳そうじはした方がいい――。そう思い込んでいる人が多いが、間違いだ。

耳そうじはケガが多いうえ、上手に耳そうじをしないと、かえって耳アカを奥に押し込み、難聴の原因になることもある。耳そうじの怖さと、正しい耳の手入れの方法を「慶友銀座クリニック」の大場俊彦院長に聞いた。

●正しいやり方知らないと難聴の原因になる

「耳そうじのトラブルは結構多く、毎日1〜2人が来院されます」
トラブルで最も多いのはケガだ。耳そうじの途中に子供がぶつかってきて鼓膜が破れたり、つまようじを耳かき代わりに使い耳の中を傷つけ出血するケースが多い。歩きながら耳そうじをしていてこけて、鼓膜を破る人もいる。

「意外に多いのが、耳そうじのやり方のせいで、聞こえにくくなる人です。耳の穴から鼓膜までの筒状の部分を外耳道といい、長さは3〜4センチあります。耳の入り口から3分の1は軟骨で汗腺組織があるため、耳アカがたまります。しかし、一般の人は“もっと奥にたまっているに違いない”と思い込んで、必要以上に耳かきを奥に突っ込み、逆に耳アカを押し込んでしまうのです」

湿った耳アカの人だと、キャラメルのように耳の奥に固まって詰まってしまい、難聴の原因になることがある。
「こうなると耳鼻科で耳そうじをしてもらうしかありません。耳アカを溶かす薬を耳の中にたらした後に、耳専用の顕微鏡で見ながら耳そうじをすることになります」

耳かきの家族共有はやめ、左右の耳をそうじするのも耳かきを消毒しながらにするべきだ。
「最近はばい菌やカビが外耳から中耳にまで感染する例が多く、右耳に続いて左耳も、あるいは家族に感染したという人が多くなっています。その原因のひとつが、耳かきの共用なのです」

耳の中にカビが生えると、耳かきをしても一向にカビが減らず、毎日耳鼻科に通うことにもなりかねない。
「そもそも耳アカを汚いだけと考えるのが間違いです。殺菌性があるほか、外耳道の表面の乾燥や、蚊やハエなど小さな虫が耳の中に入ることを防ぐ働きがあるのです。それに、外耳道の中を覆う組織はいつも新陳代謝を繰り返していて、自浄作用によって、ごみや耳アカを耳の外に出しています。そのため、あまり耳そうじをやりすぎると、自浄作用を妨げて、かえって耳アカがたまりやすくなります」

耳そうじは、2週間に1回くらい、風呂上がりに耳の入り口の浅い部分を綿棒などでやれば、十分なのである。
(耳そうじは耳に悪い!?)


米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会(AAO-HNS)の新しいガイドライン(指針)によると、実は「耳垢は取り除かずにそのままにしておくのが最もよい」とされています。耳鼻咽喉科、家庭医学、内科、聴覚学、小児科および看護学の専門家のグループにより作成されたこのガイドラインでは、次のようなポイントが示されています。
・耳垢は有益なものであり、自浄作用がある。
・補聴器を使用する人は、フィードバック(耳から漏れた音が再度補聴器で集められるために出るピーピー音。ハウリングともいう)や機器の損傷を防ぐため、年に1〜2回は専門家による耳の清浄を行う必要がある。
・耳垢により耳道の直径の80%以上が閉塞されると可逆性の難聴が起こりうる。

そもそも耳垢は、剥脱した外耳道上皮や角化物、外耳道に存在する皮脂腺やアポクリン性の汗腺である耳垢腺(耳道腺)からの脂肪性分泌物、塵埃などが混じって固まり形成されます。潤滑作用と抗菌性をもち、耳を保護する働きがあり、上記のような有益性もあると考えられています。つまり、あまり頻回に取り除く必要はなく、そのままにしておくのが良いのではないか、と考えられるわけです。

耳垢は、主に外耳道軟骨部に存在するといわれています。そのため、耳の入り口部にほぼ存在しているため、耳かきなどをあまり中に入れても、あまり意味はありません。むしろ、耳垢を内部に押し込んでしまい耳垢塞栓の原因となってしまいます。

耳垢塞栓とは、多量の耳垢で外耳道が閉塞した状態です。気づかれないことが多いですが、洗髪や水泳などで耳垢がふやけて大きくなり、外耳道を塞いで急に難聴、耳鳴、閉塞感、時にめまいなどが起こってくることもあります。

また、耳かきの際には以下のような注意点があります。
上記にもありますが、「耳かきをしているときに、子供がじゃれついてきた」といったことがあり、外傷性鼓膜穿孔が起こることがあります。症状としては、難聴、耳痛、耳出血、耳閉感などを訴えることがあります。

直達外傷で穿孔が鼓膜後上象限にみられる場合には、耳小骨連鎖障害や外リンパ瘻の合併も疑う必要があります。

鼓膜穿孔は1ヶ月以内に閉鎖する場合が多いです。閉鎖が見られない場合は、穿孔縁を機械的にあるいは薬剤で刺激し、パッチを行います。単純な小穿孔の大半は2−3週以内に自然閉鎖する傾向がありますが、顕微鏡下に滅菌したキチン膜(ベスキチン)を当てると治癒が促進されるといわれています。

3ヶ月以上閉鎖の見られない場合は、鼓膜形成術の適応となります。気骨導差が残存する場合は、耳小骨離断・脱臼の可能性があり、鼓室形成術の適応となります。

穿孔全体がよく観察される中心性穿孔の場合は、鼓膜麻酔液による局所麻酔の後、穿孔辺縁を新鮮化し、側頭部の皮膚を約1cm切開して採取した筋膜を穿孔部から挿入し、フィブリン糊で接着する(湯浅式鼓膜形成術)必要があります。穿孔が鼓膜ほぼ全体を占める大穿孔、辺縁部にある穿孔、外耳道が狭く穿孔全体が見えない場合、耳小骨連鎖の障害では鼓室形成術の適応となります。

また、綿棒などで耳内を繰り返しいじっていると、慢性の外耳道炎が起こる可能性があります。連続的に局所に刺激を加えると、このような問題も起こってくることも考えられます。

たしかに耳掃除は気持ちよく、繰り返し行ってしまうことも分かりますが、ほどほどにしておくことが重要なようです。

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