もしも家族が難治の病にかかり、永久の別れを覚悟しなければならなくなったら、どうすればいいだろう。別れの日まで続く正答のない問いかけや悩みに対し、具体的な場面ごとにヒントを得られる本が相次いで出版されている。余命宣告を受けたがん患者とその家族の姿を通して、闘病を支える悩みを解消する一助がそこにはある。
■相談相手が必要
静岡県磐田市の藤原すずさん(33)は、膵臓がんを患った母親の闘病を支えた体験を『おかあさんががんになっちゃった』(メディアファクトリー)にまとめた。告知後の家族の様子をほのぼのとしたタッチの漫画で描いている。
告知当時、藤原さんは26歳、そして母親は55歳。「治る人が多い時代なのに死を思い浮かべ、ショックを受けました。『私がもっと良い子だったら、こんなことにならなかったのに…』と考えてしまった」と藤原さんは振り返る。
親類が訪ねてきたとき、家族に対する「かわいそう」「ストレスかしら」といった一言に傷ついたこと、治療法をめぐりあれこれ言われ戸惑ったこと。父や弟と感情が合わずイライラしたり、闘病の末、余命1カ月の宣告を母親に伝えるかどうか悩んだり…。患者の家族だからこそ体験したエピソードを織り込んだ。
実は、藤原さんの母親の死後、今回の担当編集者で友人の呉玲奈さんも母親をがんで亡くしている。呉さんは「闘病中の母親を支えるにはどうしたらいいか、相談したり、話を聞いてもらったりすることで、気持ちが落ち着いた。でも、相談相手が必ずしもいるとは限らない。そういう家族のために、本を出そうと思い、藤原さんに持ちかけた」と話す。
■時には不満を
河出書房新社が出版した『大切な人が「余命6カ月」といわれたら?』は、余命告知から看取るまで55の場面を設定した実用書。がん終末期の患者と家族のケアについて学ぶ看護師ら医療従事者でつくる「ホスピスケア研究会」(事務局・東京都豊島区)が監修した。
研究会は昭和62年の発足後間もなく、がん電話相談を開始。患者本人や家族から年400件程度の相談を受けた経験が元になっている。研究会の平野友子さんは「こんな時に家族はどうしたらいいか、という視点で書かれた本はあまりない。患者さんの家族からも『こういう本を出してくれたら、どんなに助かったか』と言われたのもきっかけ」と話す。
家族が突き当たる悩みに対し、「自宅での生活を支えるために」「限られた時間をどう過ごすか」などのテーマを選び、参考にできる選択肢を用意した。
例えば、親類や知人に連絡する場合、告知の有無で伝える範囲が変わる。疎遠だった人が訪ねてきて、患者本人が「もう長くない」と疑念を抱くこともあるというから、心遣いがあだになることもある。
「病状や治療法によって、患者さんの体調も気持ちも変わっていく。その気持ちに寄り添っていけないと、患者さんと家族の気持ちがどんどん離れてしまう」と平野さん。
家族でも価値観は異なるのに気持ち伝え合うことを避け、「まとまれない家族」とめげる人も多い。抱えこんでいた不満をぶつけ合い、わだかまりを解いた実例も紹介した。
平野さんは「皆さん同じで、行きつ戻りつ、迷いながら進んでいく。100%正しいと断定できる答えはない。この本が、悩み苦しむ時間を減らす一助になれば」と話している。
(家族が不治の病になったら 悩み分かち合う一冊)
悪性腫瘍の患者さんの治療は、進歩に伴ない救命される例が多くなってきてはいますが、治療に難渋し、治癒が望めなくなった患者さんや、当初より治癒の見込みが少ない患者さんも存在します。
一般的に、こうした予後3〜6か月と診断された患者さん、あるいは、これ以上の積極的治療の効果が期待できないと判断された患者さんとそのご家族に対し、症状の緩和と苦痛の除去を主体としQOLの向上を目指して行われる医療・看護を、ターミナル・ケア(終末期医療)といいます。
身体面では疼痛、倦怠感、心理面では不安、うつ状態、社会面では社会的孤独、家族関係などにおける苦痛に配慮し、それを取り除くことを目指します。医師、医療ソーシャルワーカー(MSW)、作業療法士(OT)、理学療法士(PT)、栄養士、薬剤師などがチームとなり、一丸となって患者さんのケアに当たります。そして、ご家族の存在もそのなかでは、非常に大きな意味を持ちます。
ご家族との関係性においては、基本的に、患者さんおよびご家族が頑張って生きていることを認め、死を意識せずに、患者さんが生きていくことをどのように支援していくかを考えてもらうといったことが重要になります。
具体的には、死期が近づいている患者さんにおいても、リハビリテーション(残された機能を維持していくためのリハビリテーションなど)を継続することで生きている実感を得ることも可能となるし、日々の生活の中で、患者さんおよびご家族のお話をよく聞き、適切なアドバイスをするなど、患者さんやご家族の励みにつながるようなことが必要になります。
もちろん、こうしたことは患者さんご自身の予後が限られていることを許容し、今後の生き方は自分自身で決めたほうがよいことを納得していただくといったことが必要です。具体的には、そのプロセスとして以下のようなことがあります。
■相談相手が必要
静岡県磐田市の藤原すずさん(33)は、膵臓がんを患った母親の闘病を支えた体験を『おかあさんががんになっちゃった』(メディアファクトリー)にまとめた。告知後の家族の様子をほのぼのとしたタッチの漫画で描いている。
告知当時、藤原さんは26歳、そして母親は55歳。「治る人が多い時代なのに死を思い浮かべ、ショックを受けました。『私がもっと良い子だったら、こんなことにならなかったのに…』と考えてしまった」と藤原さんは振り返る。
親類が訪ねてきたとき、家族に対する「かわいそう」「ストレスかしら」といった一言に傷ついたこと、治療法をめぐりあれこれ言われ戸惑ったこと。父や弟と感情が合わずイライラしたり、闘病の末、余命1カ月の宣告を母親に伝えるかどうか悩んだり…。患者の家族だからこそ体験したエピソードを織り込んだ。
実は、藤原さんの母親の死後、今回の担当編集者で友人の呉玲奈さんも母親をがんで亡くしている。呉さんは「闘病中の母親を支えるにはどうしたらいいか、相談したり、話を聞いてもらったりすることで、気持ちが落ち着いた。でも、相談相手が必ずしもいるとは限らない。そういう家族のために、本を出そうと思い、藤原さんに持ちかけた」と話す。
■時には不満を
河出書房新社が出版した『大切な人が「余命6カ月」といわれたら?』は、余命告知から看取るまで55の場面を設定した実用書。がん終末期の患者と家族のケアについて学ぶ看護師ら医療従事者でつくる「ホスピスケア研究会」(事務局・東京都豊島区)が監修した。
研究会は昭和62年の発足後間もなく、がん電話相談を開始。患者本人や家族から年400件程度の相談を受けた経験が元になっている。研究会の平野友子さんは「こんな時に家族はどうしたらいいか、という視点で書かれた本はあまりない。患者さんの家族からも『こういう本を出してくれたら、どんなに助かったか』と言われたのもきっかけ」と話す。
家族が突き当たる悩みに対し、「自宅での生活を支えるために」「限られた時間をどう過ごすか」などのテーマを選び、参考にできる選択肢を用意した。
例えば、親類や知人に連絡する場合、告知の有無で伝える範囲が変わる。疎遠だった人が訪ねてきて、患者本人が「もう長くない」と疑念を抱くこともあるというから、心遣いがあだになることもある。
「病状や治療法によって、患者さんの体調も気持ちも変わっていく。その気持ちに寄り添っていけないと、患者さんと家族の気持ちがどんどん離れてしまう」と平野さん。
家族でも価値観は異なるのに気持ち伝え合うことを避け、「まとまれない家族」とめげる人も多い。抱えこんでいた不満をぶつけ合い、わだかまりを解いた実例も紹介した。
平野さんは「皆さん同じで、行きつ戻りつ、迷いながら進んでいく。100%正しいと断定できる答えはない。この本が、悩み苦しむ時間を減らす一助になれば」と話している。
(家族が不治の病になったら 悩み分かち合う一冊)
悪性腫瘍の患者さんの治療は、進歩に伴ない救命される例が多くなってきてはいますが、治療に難渋し、治癒が望めなくなった患者さんや、当初より治癒の見込みが少ない患者さんも存在します。
一般的に、こうした予後3〜6か月と診断された患者さん、あるいは、これ以上の積極的治療の効果が期待できないと判断された患者さんとそのご家族に対し、症状の緩和と苦痛の除去を主体としQOLの向上を目指して行われる医療・看護を、ターミナル・ケア(終末期医療)といいます。
身体面では疼痛、倦怠感、心理面では不安、うつ状態、社会面では社会的孤独、家族関係などにおける苦痛に配慮し、それを取り除くことを目指します。医師、医療ソーシャルワーカー(MSW)、作業療法士(OT)、理学療法士(PT)、栄養士、薬剤師などがチームとなり、一丸となって患者さんのケアに当たります。そして、ご家族の存在もそのなかでは、非常に大きな意味を持ちます。
ご家族との関係性においては、基本的に、患者さんおよびご家族が頑張って生きていることを認め、死を意識せずに、患者さんが生きていくことをどのように支援していくかを考えてもらうといったことが重要になります。
具体的には、死期が近づいている患者さんにおいても、リハビリテーション(残された機能を維持していくためのリハビリテーションなど)を継続することで生きている実感を得ることも可能となるし、日々の生活の中で、患者さんおよびご家族のお話をよく聞き、適切なアドバイスをするなど、患者さんやご家族の励みにつながるようなことが必要になります。
もちろん、こうしたことは患者さんご自身の予後が限られていることを許容し、今後の生き方は自分自身で決めたほうがよいことを納得していただくといったことが必要です。具体的には、そのプロセスとして以下のようなことがあります。
まずは、告知に関してもいくつかの場合があると考えられます。初診時、待合室の段階などで患者の病気が癌であったときには、知らせてほしいかどうか、それに加え癌であったとき、その癌が治癒が望めない状態のときでも、そのことを知らせてほしいかどうかなど、あらかじめ聞いておく必要があると考えられます。
こうした本人やご家族の意向を尊重した上で、十分な説明などが必要になると考えられます。単に病状を説明するのではなく、患者・医療従事者間の信頼関係を考慮した上で(当初より治癒の可能性が少ない患者さんでは、築きにくい)、しっかりと理解や治療方針に対する同意が必要になると考えられます。
また、疼痛などの症状もあると、患者さんは説明を聞いても十分に理解することが困難であり、まずは疼痛などの症状を緩和させてから、ゆっくりと説明することが必要になると思われます。
こうした病状説明などを行った上で、今後の方針をどうするのか、患者さん、そしてご家族と一緒に道を探っていくことが重要であると考えられます。患者さんだけでなく、そのご家族が「どうしたら良かったのか」といったことを綴った本は、こうしたことを考える上で非常に重要ではないでしょうか。ショックであるのは分かりますが、残された患者さんとの時間をどのように有意義に使うべきなのか、など参考になることは多いと思われます。
【関連記事】
腫瘍にまつわるニュースまとめ
乳癌になった記者−医学書と闘病記
こうした本人やご家族の意向を尊重した上で、十分な説明などが必要になると考えられます。単に病状を説明するのではなく、患者・医療従事者間の信頼関係を考慮した上で(当初より治癒の可能性が少ない患者さんでは、築きにくい)、しっかりと理解や治療方針に対する同意が必要になると考えられます。
また、疼痛などの症状もあると、患者さんは説明を聞いても十分に理解することが困難であり、まずは疼痛などの症状を緩和させてから、ゆっくりと説明することが必要になると思われます。
こうした病状説明などを行った上で、今後の方針をどうするのか、患者さん、そしてご家族と一緒に道を探っていくことが重要であると考えられます。患者さんだけでなく、そのご家族が「どうしたら良かったのか」といったことを綴った本は、こうしたことを考える上で非常に重要ではないでしょうか。ショックであるのは分かりますが、残された患者さんとの時間をどのように有意義に使うべきなのか、など参考になることは多いと思われます。
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