読売新聞の医療相談室で、以下のような相談がなされていました。
抗リン脂質抗体症候群とは、血中にリン脂質に対する抗体が証明され、動静脈血栓症、習慣流産、血小板減少などをきたす疾患です。
全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に伴う二次性抗リン脂質抗体症候群がよく知られており、明らかな誘因を持たない若年性の下肢静脈血栓症、脳梗塞、心筋梗塞、習慣流産患者などでも抗リン脂質抗体の検出率が高く、こちらは原発性抗リン脂質抗体症候群と呼ばれます。また、急激な経過で腎臓,肺など多臓器の微小血栓をきたす予後不良の病型を劇症型抗リン脂質抗体症候群と呼びます。
妊娠と抗リン脂質抗体陽性では、子宮内胎児死亡、早産、子宮内胎児発育遅延、妊娠中毒症と関連があるといわれています。流産を繰り返す妊婦の5〜10%、SLE患者の約30%で陽性になると報告されています。
抗リン脂質抗体症候群の患者の血栓症は、全身のさまざまな臓器、組織に起こりえます。その他の原因による血栓傾向(先天性プロテインC欠損症など)と比べて、抗リン脂質抗体症候群の最大の特徴は、静脈のみならず動脈に血栓を起こすことです。抗リン脂質抗体症候群では脳梗塞、一過性脳虚血発作などの脳血管障害が圧倒的に多く、虚血性心疾患は比較的少ないという特徴があります。実際に脳血管障害が動脈血栓症の90%以上を占めています。
静脈血栓症は下肢深部および表層静脈の血栓症が多く、肺塞栓を合併します。頻度は低いですが、ほかにも腋窩静脈血栓症、視力喪失の可能性のある網膜中心静脈血栓症、糸球体硬化と関連ある糸球体静脈血栓、Addison(アジソン)病をきたす副腎静脈血栓症、肝静脈血栓症によるBudd-Chiari(バッド-キアリ)症候群などがあります。
妊娠合併症も起こりえて、抗リン脂質抗体症候群においては、高率に習慣流産、子宮内胎児発育遅延、重症妊娠中毒症などを起こします。流産は、妊娠5〜6か月以降に起こる晩期流産が特徴的で、胎盤の循環不全・梗塞に伴う胎盤機能不全が原因と考えられています。
ほかにも、血小板減少と関連しているともいわれ、特発性血小板減少性紫斑病の40%に抗リン脂質抗体が検出されるとの報告もあるといわれています。
抗リン脂質抗体の検出法には、梅毒血清反応の生物学的偽陽性(BFP)、抗カルジオリピン抗体(aCL)測定、ループスアンチコアグラント(LA)判定があります。この中で、BFPは簡便・安価で行えますが、定量性、特異度、および感度は低いです。ですので、抗リン脂質抗体症候群の診断および経過観察において重要と考えられている抗体は、aCLとLAであると考えられます。
治療としては、以下のようなものがあります。
動静脈血栓症の急性期の治療としては、通常の血栓症の治療に準じて組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)、ウロキナーゼなどの血栓溶解療法、ヘパリン、低分子ヘパリンなどの抗凝固療法などを行います。慢性期の治療としては、再発予防が重要となり、抗凝固薬や抗血小板薬が使用されます。
ワーファリンは長期経口投与が可能な抗凝固薬であり、ビタミンK依存性の各種凝固因子の産生を抑制することにより凝固を抑制します(ただ、妊娠中に投与すると胎児異常の可能性あります)。また、抗血小板薬であるアスピリンは安価で副作用が少ないため、広く使われています(ただ、再発予防効果は単剤では十分とはいえない)。
妊娠に関しては、抗リン脂質抗体陽性の妊婦であっても流産の既往がなければ、治療の適応はありません。血栓症の既往のある場合には、ワーファリンは催奇形性の危険があり禁忌であるため、胎盤を通過しないヘパリンに変更するのが一般的です(一般にはヘパリンと少量のアスピリンの併用が多い。妊娠5〜6週で1日10,000〜20,000単位を2〜3回に分けて出産まで皮下注射するのが標準的)。
ステロイドの投与は、aCLの抗体価を下げるのを目的として広く行われてきましたが、ステロイドの副作用の問題や、少量アスピリンと皮下ヘパリンの併用療法と比べて胎児の予後が劣るとの報告もあり、ステロイドの適応は慎重であるべきと考えられています。ただ、劇症型坑リン脂質抗体症候群では、プレドニン(50〜60mg/day)内服、ヘパリン注射(APTT[活性化トロンボプラスチン時間]が正常の2倍を目標)を行います。
現在、症状は落ち着いているようですが、詳しい検査などを行っておくことは重要であると考えられます。
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出産後、2年を経過しても月経が再開しない30歳女性
5年前の妊娠時に膠原病の疑いがあることがわかりました。出産後、膠原病の症状は落ち着いています。現在、2人目を考えていますが、注意する点などはありますか。(埼玉・32歳母)この相談に対して、東海大病院産婦人科准教授である杉俊隆先生は、以下のようにお答えになっています。
膠原病の人が妊娠した場合、妊娠初期に流産したり、妊娠中・後期に子宮内で胎児が死亡したりしやすいと言われています。
その理由は、膠原病になると、「抗リン脂質抗体」という抗体を持つ割合が高まるからです。抗リン脂質抗体は、胎盤に血栓(血液の塊)を作って、流産や胎児死亡を引き起こすと言われています。
そこで、妊娠する前に、抗リン脂質抗体があるかどうかの検査をすることをお勧めします。
抗リン脂質抗体の検査で陰性であれば、膠原病の症状は落ち着いているようですから、必ずしも妊娠に向けて何か治療をする必要はないと思います。
抗リン脂質抗体症候群とは、血中にリン脂質に対する抗体が証明され、動静脈血栓症、習慣流産、血小板減少などをきたす疾患です。
全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患に伴う二次性抗リン脂質抗体症候群がよく知られており、明らかな誘因を持たない若年性の下肢静脈血栓症、脳梗塞、心筋梗塞、習慣流産患者などでも抗リン脂質抗体の検出率が高く、こちらは原発性抗リン脂質抗体症候群と呼ばれます。また、急激な経過で腎臓,肺など多臓器の微小血栓をきたす予後不良の病型を劇症型抗リン脂質抗体症候群と呼びます。
妊娠と抗リン脂質抗体陽性では、子宮内胎児死亡、早産、子宮内胎児発育遅延、妊娠中毒症と関連があるといわれています。流産を繰り返す妊婦の5〜10%、SLE患者の約30%で陽性になると報告されています。
抗リン脂質抗体症候群の患者の血栓症は、全身のさまざまな臓器、組織に起こりえます。その他の原因による血栓傾向(先天性プロテインC欠損症など)と比べて、抗リン脂質抗体症候群の最大の特徴は、静脈のみならず動脈に血栓を起こすことです。抗リン脂質抗体症候群では脳梗塞、一過性脳虚血発作などの脳血管障害が圧倒的に多く、虚血性心疾患は比較的少ないという特徴があります。実際に脳血管障害が動脈血栓症の90%以上を占めています。
静脈血栓症は下肢深部および表層静脈の血栓症が多く、肺塞栓を合併します。頻度は低いですが、ほかにも腋窩静脈血栓症、視力喪失の可能性のある網膜中心静脈血栓症、糸球体硬化と関連ある糸球体静脈血栓、Addison(アジソン)病をきたす副腎静脈血栓症、肝静脈血栓症によるBudd-Chiari(バッド-キアリ)症候群などがあります。
妊娠合併症も起こりえて、抗リン脂質抗体症候群においては、高率に習慣流産、子宮内胎児発育遅延、重症妊娠中毒症などを起こします。流産は、妊娠5〜6か月以降に起こる晩期流産が特徴的で、胎盤の循環不全・梗塞に伴う胎盤機能不全が原因と考えられています。
ほかにも、血小板減少と関連しているともいわれ、特発性血小板減少性紫斑病の40%に抗リン脂質抗体が検出されるとの報告もあるといわれています。
抗リン脂質抗体の検出法には、梅毒血清反応の生物学的偽陽性(BFP)、抗カルジオリピン抗体(aCL)測定、ループスアンチコアグラント(LA)判定があります。この中で、BFPは簡便・安価で行えますが、定量性、特異度、および感度は低いです。ですので、抗リン脂質抗体症候群の診断および経過観察において重要と考えられている抗体は、aCLとLAであると考えられます。
治療としては、以下のようなものがあります。
抗リン脂質抗体が陽性で、「抗リン脂質抗体症候群」と診断されれば、血栓をできにくくする「アスピリン」「ヘパリン」などの薬を投与することが必要です。抗リン脂質抗体が陽性で無症状である場合では、(血栓症の既往がない場合は)治療を行わないのが原則ですが、過度の喫煙や高血圧、高コレステロール血症、経口避妊薬の服用などの血栓症を発生させるリスクファクターに注意をすることが必要となります。
これは、流産や血栓を起こしたことがあり、抗リン脂質抗体症候群の診断基準を満たした場合の第一選択肢となります。治療をすれば、妊娠、出産できる割合は高まります。
ただ、新たな妊娠、出産が引き金となり、膠原病が発症したり悪化したりする可能性があります。
また、膠原病の治療のために、炎症を抑える「プレドニゾロン」という薬を使用することがありますが、妊娠をきっかけとする糖尿病や、破水や早産などの副作用が出る恐れがあります。専門の医師を受診し、注意深く、経過を見ていくことが大切です。
動静脈血栓症の急性期の治療としては、通常の血栓症の治療に準じて組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)、ウロキナーゼなどの血栓溶解療法、ヘパリン、低分子ヘパリンなどの抗凝固療法などを行います。慢性期の治療としては、再発予防が重要となり、抗凝固薬や抗血小板薬が使用されます。
ワーファリンは長期経口投与が可能な抗凝固薬であり、ビタミンK依存性の各種凝固因子の産生を抑制することにより凝固を抑制します(ただ、妊娠中に投与すると胎児異常の可能性あります)。また、抗血小板薬であるアスピリンは安価で副作用が少ないため、広く使われています(ただ、再発予防効果は単剤では十分とはいえない)。
妊娠に関しては、抗リン脂質抗体陽性の妊婦であっても流産の既往がなければ、治療の適応はありません。血栓症の既往のある場合には、ワーファリンは催奇形性の危険があり禁忌であるため、胎盤を通過しないヘパリンに変更するのが一般的です(一般にはヘパリンと少量のアスピリンの併用が多い。妊娠5〜6週で1日10,000〜20,000単位を2〜3回に分けて出産まで皮下注射するのが標準的)。
ステロイドの投与は、aCLの抗体価を下げるのを目的として広く行われてきましたが、ステロイドの副作用の問題や、少量アスピリンと皮下ヘパリンの併用療法と比べて胎児の予後が劣るとの報告もあり、ステロイドの適応は慎重であるべきと考えられています。ただ、劇症型坑リン脂質抗体症候群では、プレドニン(50〜60mg/day)内服、ヘパリン注射(APTT[活性化トロンボプラスチン時間]が正常の2倍を目標)を行います。
現在、症状は落ち着いているようですが、詳しい検査などを行っておくことは重要であると考えられます。
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出産後、2年を経過しても月経が再開しない30歳女性