風呂上がりに足元がくらっときたり、目の前が一瞬暗くなる経験したことはないだろうか?

Nさん(42歳・会社員)だが、出勤前にシャワーを浴びていたら天井がぐるぐる回った。とっさにバスタオルで体を覆い、洗面所の床にうずくまること数十分。周囲がぐるぐる回るのは止まったが、気持ちは悪いし、立ちあがっても体のバランスが取れず、会社を欠勤。後日、病院でメニエール病の診断を受けた。

メニエール病とは内リンパ水腫による三半規管と蝸牛の障害により、回転性眩暈と同時に耳鳴りや難聴を伴う症状のものをいう。神経質な人がかかりやすいとも、ストレスが原因とも言われているが、生命に危険のある病気ではない。Nさんは、薬で治療をしている。

実は先日、筆者もベッドから起き上がろうとして、くらくらときた。自分は動いていないのに周りの景色がぐるぐる回る。吐き気はするし頭も痛い。その日は一日安静にしていて、翌日病院へ行ったが、さて何科に行けばいいのか迷った。やはり気になるのは脳だ。脳外科でMRを撮ったが異常なし。耳鼻科での受診を勧められた。

手足のしびれや激しい頭痛・嘔吐の症状がない眩暈で、特に持病もない人は、まず耳鼻科の診察を受けた方がいい。
・回転性眩暈 周りの景色がグルグルと回っているように感じる。
・立ちくらみ 血の気が引き、意識の遠くなる感覚。失神に到ることも。
・浮動性眩暈 身体がフワフワしたような感じがする。
・平衡失調   めまいという自覚があまりないのが特徴。まっすぐ立てなくなったり転んだり体のバランスがとれなくなる。

上記4つに眩暈を分類することで原因を絞り込むことができる。
回転性めまいでは神経系に原因があり、失神では循環器系、浮遊感ではその両方の可能性がある。また薬の副作用などで生じる場合は全身性である。

診断の結果、筆者の聴力は正常。耳なりもなし。病名は「良性発作性頭位眩暈症」
眩暈が起きる頭位を取れば改善していくので、安静は避ける。軽い運動を定期的にすることを勧められたが、医師から最近、眩暈の症状を訴える女性の患者が増えていると聞いた。以下に眩暈の予防法をお伝えしたい。
・バランスのよい食事と十分な睡眠。
・お酒は控えめに
・禁煙
・適度な運動

運動をすることで全身の血の巡りがよくなり、ストレス解消にもなる。ぬるめのお風呂でゆったりとするのもいいそうだ。眩暈にストレスは大敵ですぞ! 自戒も込めて。
(くらくらと倒れる独女が増えている!?)


メニエール病は、内リンパ水腫が原因(内耳にリンパ液がたまりすぎていることが原因)であるといわれています。内耳の内リンパ水腫が、球形嚢と蝸牛管に著明に、前庭半規管には軽度にみられます。内リンパ水腫は内耳の循環障害によるとの説が有力で、感染後、外傷後、自己免疫疾患などでもみられます。発症年齢は男性で40歳代、女性で30歳代にピークをもちます(小児のメニエール病はきわめて稀)です。

めまい、耳鳴り、難聴を主症状とし、これらが関連して反復出現します。耳閉感、音が響くなどといった症状もあります。難聴,耳鳴は一側性の場合と両側性の場合があります(一側性の約40%が長期的には両側性に移行)。そのほかの症状としては、聴覚過敏、複聴を伴うことが多いです。症状の悪化時には肩こり、頭重感をしばしば訴えます。

めまいは発作性、突発性、回転性(目の前がグルグルと回るような感じ)で、吐き気、嘔吐、冷や汗を伴うことも多いです。発症時間は数分のこともあり、数時間のこともあります。また、1日に何回となく起こることがあります(めまい発作は数時間から1日程度のものが多く、数日間もめまいが持続する場合はほかの疾患を考えます)。意識障害や麻痺、知覚障害はありません。患側耳を上に側臥位で臥床していることが多く、身体を動かすとめまいは増強します。

ちなみに、めまいは、その性質から
回転性めまい(vertigo)
天井や自分がぐるぐる回るように感じるめまい
非回転性のめまい(dizziness)
「浮動性めまい」とも呼ばれる。小さな地震を経験したとき、あるいは船に揺られているような、といわれる身体のふらつきや動揺感を主体とする。
立ちくらみ型めまい(faintness,lightheadedness)急に立ち上がったときに、フワーっとする気が遠くなる感じ

このように症状の性質は分けられます。

また、メニエール病になる前の症状(前駆症状)として「急性低音障害型感音難聴」とよばれる低音域が聞こえにくくなる難聴が起こっているということが指摘されています。急性低音障害型感音難聴は、耳の聞こえを司る内耳の蝸牛に異変が起き、聴覚に障害が生じます(人の話し声などは中音域が中心で、低音の聞こえにくさには、中々気付きにくいといわれています)。

診断や治療としては、以下のようなものがあります。
典型例では、症状や経過など病歴のみで診断可能となりますが、純音聴力検査で低音域を中心とした感音性難聴を確認すれば診断はより確実になります。確定診断のためには、グリセロールテストや蝸電図検査を施行することが望ましいとされています。

グリセロールテストとは、メニエール病の病態である内リンパ水腫を判定するための検査法です。純音聴力検査を施行した後にグリセリンを経口あるいは経静脈的に投与し、その約3時間後に再度純音聴力検査を行い、グリセリン投与前後の聴力変動を観察します。グリセリンの利尿作用により内リンパ水腫が一過性に減圧され、その結果として聴力が改善されるという原理に基づきます(2つ以上の周波数において10dB以上の聴力改善を認めた場合にグリセロール検査陽性と判定)。

鑑別診断としては、外リンパ瘻、自己免疫性内耳障害、聴神経腫瘍、前下小脳動脈領域の病変があります。特に中枢神経系の疾患が疑われる場合は、CT、MRI検査が必要となります。

治療としては、薬物療法が中心で、一部の難治例のみ手術的治療の対象となります。発作期の治療としては、発作期は臥位で安静をとらせ、点滴治療を行います。グリセオール、プリンペラン、7%メイロンなどを混注して点滴します。

めまい発作の予防としては、精神的、肉体的過労、睡眠不足などストレスとなる要因を排除するように生活指導し、極力投与薬は行いません。投薬した薬剤は聴力の悪化時や耳鳴、耳閉感の増強した場合に服用するように指導します。イソバイド(利尿薬)やメリスロンなどを内服します。

手術治療は、薬物治療無効例が対象となります。めまいの制御と難聴の進行を阻止するためには、内リンパ嚢開放術が選択されます。めまいの制御が主目的の場合には、アミノ配糖体の鼓室内注入、前庭神経切断術が選択されます(ただし、両側罹患例や高齢者には適応はないとされる)。

ストレスが大きな原因とされ、肉体的・精神的な過労や睡眠不足はメニエール病を誘発しやすいとされています。あまりストレスを溜め込まないようにすることが重要なようです。

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