東京都内のC子さん(66)の手や足に、赤い発疹ができ始めたのは7年前のこと。「はれもかゆみもなかった」と話す。

2年後、心配になって近くの病院の皮膚科を受診した。炎症を抑える錠剤を服用すると一時的に症状が消えたが、再び悪化し、以前よりもひどくなった。そのうち、左足のふくらはぎに、うずらの卵程度の大きさの赤いふくらみができた。

ふくらみの一部を取り、組織を調べてもらった。その結果、医師から入院を勧められ、入院手続き用の書類に「悪性リンパ腫の疑い」とあることに目に留めた。「亡くなった芸能人もいたと思って、足がガタガタふるえた」

悪性リンパ腫は、血液に含まれる白血球の一種であるリンパ球のがん。リンパ節が腫れるのが普通だが、皮膚組織に入り込んで増殖することがある。「皮膚悪性リンパ腫」という。

新規患者数が年間約400人とまれな病気で、半数近くは、発疹ができるだけで、がんとは言っても寿命に影響はしない。だが、患者の十数%は数年で亡くなる。がん細胞の増殖を抑える作用がある紫外線照射を主体とした治療を行う。

C子さんは、東大病院皮膚科で詳しく検査を受け、発疹だけではなく、腫瘍ができやすいタイプとわかった。定期的な紫外線照射に加え、腫瘍ができた場合は、より強い効果がある放射線治療を行う。

C子さんは、顔や尻、かかと、ひじなどに計6回、入院や通院で放射線治療を受け、2週間に1回、紫外線照射を続けている。紫外線や放射線は、がん細胞を殺すと同時に、皮膚組織の中で、がん細胞を誘引したり、増やす原因となる物質を減らす効果があると考えられている。

担当医の菅谷誠さんは「原因のリンパ球は体内に潜むため、完治は難しい。良好な状態を維持するのが治療の狙い」と言う。C子さんは、「完治しないと聞き、落ち込んだこともあるが、今は大丈夫」と語り、幸い治療が良く効いており、症状は抑えられている。

皮膚悪性リンパ腫は、見た目がアトピー性皮膚炎と似ており、組織を調べないと診断できない。もし、アトピーと誤診して免疫抑制剤を使うと、がん細胞を殺す免疫機能を抑えるため、リンパ腫は悪化してしまう。

菅谷さんは「検査目的で皮膚を切るのをいやがる人も多いが、疑わしい場合は積極的に検査を受けてほしい」とアドバイスする。
(赤い発疹 実はリンパ腫)


皮膚の原発性リンパ腫には、以下のようなものがあります。
1.菌状息肉症
2.セザリー症候群
3.CD4+T細胞リンパ腫(菌状息肉症、セザリー症候群 以外)
4.CD8+T細胞リンパ腫(Woringer-Kolopp病を含む)
5.AngiocentricT細胞リンパ腫
6.Subcutaneous panniculitis-like T細胞リンパ腫
7.γδT細胞リンパ腫
8.IBL like T細胞リンパ腫
9.CD30+T細胞リンパ腫(anaplastic large cell lymphoma)
10.成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)皮膚型
11.NK/T細胞リンパ腫の一部
このように分類されています。

皮膚は節外リンパ腫が発生する代表的臓器となっています。T細胞リンパ腫(75%)がB細胞(15%)に比べて出現頻度が高くなっています。それぞれ腫瘍細胞の浸潤による特異皮膚病変を表出しますが、免疫不全、サイトカイン活性などにより感染症や非特異的病変などを併発することがあります。

菌状息肉症、セザリー症候群以外の治療は、基本的に多剤併用化学療法(CHOPをはじめとした)主体となります。「定期的な紫外線照射に加え、腫瘍ができた場合は、より強い効果がある放射線治療を行う」といったことが書かれているので、上記のケースではPUVA(ソラレン長波長紫外線)療法などが適応となる菌状息肉症などが考えられます。

菌状息肉症は、代表的な皮膚原発のT細胞リンパ腫(皮膚に広範なCD4+末梢T細胞が浸潤)です。菌状息肉症は皮膚悪性リンパ腫の半数近くを占めます。10万人あたり0.1人あるいはそれ以下となっており、稀な疾患です。男女比は2:1で、初発年齢は40〜80歳であり、高齢者の男性に多いという特徴があります。

腫瘍細胞は脳回転状の核を有する小型ないし中型のCD4陽性Tリンパ球で、表皮と真皮に浸潤します。表皮への浸潤に伴い、Pautrier(ポートリエ)微小膿瘍を認めます。

皮膚症状は紅斑期→扁平浸潤期→腫瘍期の3期に分類され、全経過は10〜20年にわたります。紅斑期では、体幹・四肢に軽度の鱗屑を伴う淡紅〜褐色斑を認め、消長を繰り返し、しばしば他の良性の炎症性皮膚疾患との鑑別が困難です。自然に皮疹は消失することがあり、しばしば、そう痒(痒み)が強いです。

扁平浸潤期では、境界明瞭な鱗屑を有し、扁平に隆起した紅色局面を認めます。表皮向性(表皮への浸潤)が著明になり、Pautrier微小膿瘍も増加していきます。

腫瘍期には、褐色〜紫紅色の表面平滑な結節が既存の紅斑もしくは扁平浸潤の皮疹上に生じます。びらん、潰瘍を形成し、二次感染を伴いやすくなります。腫瘍細胞はやがて全身のあらゆる臓器へと浸潤し(最終的には内臓へ侵襲していく)、感染症を合併しやすくなります。末期に、大型のT細胞性リンパ腫へと変化することがあります。内臓への浸潤は、肺、喉頭、肝、脾腎、骨髄などにみられます。

診断や治療としては、以下のようなものがあります。
上記のような臨床症状および病理組織学的所見により、診断を行います。病理組織学的には、真皮上層の異型リンパ球の浸潤(深い切れ込みや脳回転様核をもつ小〜中型の細胞の浸潤)とPautrier微小膿瘍が特徴的です。

免疫組織的にCD3+,CD4+,CD8−の表面形質を有します。また、遺伝子診断としてはT細胞レセプター(TCR)β鎖あるいはγ鎖の再構成バンドをサザンブロット法あるいはPCR法を用いて検出します(サザンブロット法によるT細胞レセプター遺伝子再構成の検索で、腫瘍細胞の起源、単クローン性、腫瘍細胞の浸潤程度などを調べることができます)。

ときにCD25、CD30を発現し芽球様大型細胞化し、急激な悪化経過をとることがあります。多変量解析では、重要な予後因子としてTNM分類のT、M、血清LDH値、performance status2-4などが挙げられています。

治療としては、紅斑期や扁平浸潤期では、光化学療法(PUVA療法)やステロイド含有軟膏などの外用療法を行います。腫瘍期には、放射線療法や多剤併用化学療法も適応となります。病変が限局していれば予後は良好ですが、進行期の治療効果は一時的で、予後は不良となります。

上記のように紅斑期、扁平浸潤期であれば、PUVA療法、インターフェロン(IFN)-γあるいは両者の併用療法などをおこないます。副腎皮質ステロイド薬外用や、電子線照射(皮膚6〜10mmに侵入)なども行われることがあります。腫瘍期などでは電子線照射、多剤併用化学療法などが行われます。内臓浸潤がみられれば、IFN-γ、多剤併用化学療法などを行います。

紅斑期、扁平浸潤期などでは鑑別も難しいですが、赤い発疹を繰り返す、などの症状が現れた場合は、皮膚科受診をされてはいかがでしょうか。

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