皮膚がんは体表面にできるため、異常に早く気づくことが多いが、陰部にできやすいため、見逃しやすいのが「乳房外パジェット病」だ。

東京都内のC子さん(73)は16年前、トイレに行くたびに陰部がしみるようになった。人に見せたくないため、病院に行く気にはならなかった。自宅の外用薬を塗ってみたが治らず、しみる感じは一層強くなった。

自分では患部が見づらいため、夫に見てもらうと、ブツブツした赤い湿疹(しっしん)のようなものがあった。思い切って近くの病院に行くと、皮膚組織の一部を切って調べる検査が行われ、「がんの一種」と診断された。虎の門病院(東京・港区)皮膚科を紹介され、乳房外パジェット病と説明を受けた。

乳房外パジェット病は高齢者に多く、男女比は2対1。陰部やわきなど、アポクリン腺と呼ばれる汗腺が集中する場所に発症しやすい。患部は、通常のただれやシミのような外観だ。色は赤や茶のほか、脱色している場合もある。見た目からは、がんのような特別な病気とは気づきにくい。

同院皮膚科部長の大原国章さんは「他人に見せたくないので、最初はインキンタムシなどと思って、自分で薬を塗っているが、どうしても治らず、医者に行く人が多い」と話す。

他の皮膚がん同様、治療は切除が基本。面積が広くても表皮内にとどまっていれば切除で完治する。しかし、表皮の下の真皮に達すると転移する。陰部の場合は、まず恥骨近くのリンパ節、次に足の付け根のリンパ節、さらに腹部に広がっていく。

大原さんが200人以上治療成績を調べたところ、1か所の転移ならがんを取り切れるが、2か所以上だと難しい。放射線や抗がん剤を使うしかないが、経過は思わしくない。

最近の進歩は、乳がんやメラノーマで、切除範囲を狭くするために行われている「センチネルリンパ節生検」の導入だ。がんはリンパ管を通って、他の臓器などに転移していく。手術前に、患部から色素を入れて、がん細胞が最初に到達するリンパ節を特定する。その組織を採取して、転移の有無を調べ、転移がなければリンパ節は摘出しない。リンパ節切除の必要性を判断できるようになり、手術による後遺症を減らせるようになった。

C子さんの場合、幸いに転移はなく、患部の皮膚を切除し、太ももの皮膚を移植した。「もう少し遅かったら、転移していたかもしれない。手術後5年くらいは再発が心配だったが、今は不安はない」と話す。

皮膚がんは、ほかの疾患と見た目では区別が難しいので、気になる異常があったら、専門の医療機関を受診したい。
(しみる陰部 パジェット病)


パジェット病は、皮膚のアポクリン汗腺にできる皮膚癌です。ほとんどが陰部や乳房にでき、稀にわきの下やへその下などに表れてきます。特に、乳房にできるものを(乳房)パジェット病といい、外陰部、腋の下、肛門周囲などに発生する病気のことを乳房外パジェット病と言います。乳房外パジェット病は表皮原発と考えられ、女性では陰唇部、男性では陰茎基始部と陰嚢に好発します。

症状は大部分がそう痒感、湿疹、外陰部の赤色様(ビロード様)の変性です。外陰部のそう痒症、湿疹と診断し、ステロイド軟膏塗布しようすをみてしまうこともあり、本症の診断には注意深い視診と積極的な生検が必要です。

皮膚の紅斑、浸潤、落屑、痂皮といった、(恐らく)腫瘍細胞に対する宿主の反応である注意信号も、目に見えるのは非特異的であり、皮膚炎、感染症での炎症反応と基本的には区別できません。そのため、長期間誤診、誤治療の結果、さらに二次的に修飾された炎症像を示してしまいます。

外陰部は間擦疹、脂漏性皮膚炎、股部白癬、カンジダ症、紅色陰癬も好発し、これらはすべて炎症性変化を呈します。そのため、こうした疾患との鑑別が重要となります。ですが、同じ炎症性変化でもおのおのの特徴があり、皮疹の性状、境界、濃淡、規則性などから総合して診断します。

診断の足がかりとしては、中年以降の患者さんで、そう痒を伴い、上記好発部位における難治性皮膚炎様変化を呈したときに疑われます。種々の治療に反応しないと訴え、二次修飾症状を適切な軟膏治療をすると、通常は腫瘍は境界明瞭になります。

疑わしい場合は、生検を行います。大型の明るい細胞質と小型の核を有するPaget細胞の表皮内増殖がみられた場合、確定診断となります。しばしば汗管に沿って病変がみられ、真皮の浸潤病変の有無に細心の注意が必要となります。

治療としては、以下のようなものがあります。
治療としては、手術が治療の基本と考えられます(術前の局所の清拭や適切な軟膏治療:ソルベース基剤軟膏、ホウ酸軟膏、ステロイド軟膏などで二次修飾を除き乾燥化させ、腫瘍の境界を明瞭にすることが重要)。

浸潤性の癌が共存しない場合は、病変から少なくとも2cm以上、正常に見える皮膚を含めて切除することが必要とされています。摘出した標本のなかに浸潤癌を認めることもあるので、皮下組織全体を残さずに切除することが大切です。
 
切除した摘出物に浸潤癌を認めた場合には、広汎外陰切除および両側鼠径リンパ節の郭清を行います。浸潤癌をみとめると、しばしばリンパ節転移や遠隔転移がみられ、予後は不良とされています。

電子線治療(60Gy)も有効であるといわれていますが、ただ外陰部では照射が十分得られず、再発しやすいため注意が必要です。5-FU含有軟膏も有効であり、手術が適応しにくいときに試みます。

早期治療ができれば生存率もよく、生活の質も保たれます。「恥ずかしいから」と皮膚科受診を遅らせてしまうと、大変なことになってしまう可能性もあります。難治性の皮膚炎症所見がありましたら、受診することが勧められます。

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